55.心配性
グレンジャーは追ってくることもなかったので、安心して近代史の本を適当に取った。
いくらか近代史の本と戦争についての本を読み、闇払いを調べてみたがやはりスリザリン出身者はいない。
ムーディーも元々はグリフィンドールの出自だった。
嫌に変な感じがするのだが、こちらの思い違いとしかいえない結果だった。

就寝時間が近いため図書室を追い出されたあとも、悶々と考えながら歩いていた。
外はもう真っ暗で、三日月がぽっかりと浮かんでいる。

「…なまえ?まだ寮に戻ってなかったの?」
「あ、セドリック先輩。こんばんは。これから戻るんです」

就寝前の見回りにでていたらしい監督生のセドリックとばったり鉢合わせた。
戻る、というのは少々の嘘があり、散歩しながら考えたかったため遠回りをして帰る途中だった。
明らかに岐路とは逸れた廊下にいるわけなので、セドリックからすれば不審極まりない。
それにこのまま行けば、寮に就く前に就寝時間を向かえてしまう。

「寮まで送るよ。先生に見つかると厄介だろ?」
「いいんですか?」
「もちろん。うちの寮の生徒はもういなさそうだしね」

確かに教師に見つかるとネチネチと注意をされるので面倒だ。
監督生がいれば、その点の問題はなくなる。
なまえはエスコートされるままにセドリックの少し前を歩いた。

「そうそう、なまえ。僕ね、三大魔法対抗試合に立候補しようと思うんだ」
「…そうなんですか」

なまえは三大魔法対抗試合については少々否定的である。
元来平和主義で争いごとを避けることに重きを置いているなまえにとって三大魔法対抗試合はあまり言いイメージにはならない。
しかし、それはなまえの考えであってセドリックはまた違う考えなのだろう。

「応援してくれるかな?まだ選手になるとは決まってないんだけど」
「ええ、しますよ。でも本当に気をつけてください」
「ありがとう!危険だって言うけど頑張るよ」

聞くと、セドリックはいつも華のないハッフルパフのために優勝したいらしい。
セドリックらしい理由だなとなまえは思った。
しかし、危険であるらしいことに変わりはないので非常に心配である。
見る限り、楽観視しているところもあるようだった。

「あ、ここで大丈夫です。ありがとうございました」
「そう?もうこんな時間まで出歩いちゃダメだよ。…じゃあまたね」

スリザリンの寮に繋がる地下に向かう階段の前でセドリックと別れた。
階段をくだり、揺れる蝋燭の明かりを頼りに寮へと向かう。

それにしてもこんな身近に三大魔法対抗試合に出ようと考えている人がいるとは思ってもみなかった。
なまえは過剰かもしれないが、三大魔法対抗試合がとにかく危険なものであるように感じていた。
100年近く中止されていた大会、というのだから絶対に危険である。
分からない危険は怖い、セドリックは大切な友人である。

「何かいい手はないかな」
「なにが?」

寮の部屋に戻るとまだ眠っていなかったパンジーが出迎えてくれた。
パンジーにしては珍しく、1人で起きていたらしい。
今日の授業のせいで眠れないのかもしれない。

たまにはパンジーのために一緒に夜の会話を楽しむのも悪くない。

「ハッフルパフのセドリック先輩が三大魔法対抗試合に立候補するんだって」
「あら、そうなの?…まあ彼なら選出されてもおかしくないかも」
「何で?」

カーテンを開け、ベッドにかけてパンジーに向かい合う。
パンジーはマシュマロと温かい紅茶を用意してくれた。
先ほどのセドリックの話を持ち出すと、特に驚くこともなく話を聞いた。
パンジーの反応にやや驚きながらも、なまえは理由を聞いた。

「だって成人してる生徒でぱっとしてるの、彼だけじゃない?他に誰か知ってる?」
「…確かに」

かなり酷い言い草だが、確かにそうだ。
魔法界の成人は学校で言う6年生、6年生以上でクディッチの試合などで有名なのはセドリックくらいだ。
グリフィンドールのウィーズリーの双子はまだ成人していないし、スリザリンのフリントは案外保守的な一面があるので立候補はしないだろう。
スリザリンでは誰かに立候補しろ、というような干渉はない。
恐らく、誰も立候補しないのではと思うほどだ。
レイブンクロー、ハッフルパフの話は聞いたことが無い。

そうなると、やはりセドリックがでてくるのはそこまで不自然な話ではない。

「で、なまえはティゴリーが心配なんだ?」
「まぁね。だって死人が出るくらいの大会なんでしょ?絶対危ないし」
「出て欲しくない?」
「できれば。でも、セドリック先輩はやるって決めてるみたいだから応援するしかないのかなって」

にやにやと嫌な笑いを浮かべるパンジーに気づかず、なまえは答えた。
パンジーからすれば、なまえの深層心理にティゴリーのことが好きという感情があるのでは?という考えがあるのだろう。
その好き、が恋愛的な意味であるのかは分からないが、生来あまり人に興味を示さないなまえが「好き」と言うことはそれだけで相当特別な存在だ。
いつも一緒にいるスリザリンの仲間達は「好き」ではなく、「一緒に居て楽」という程度であろうとパンジーは予想していた。

ドラコはなまえに気があるようだが、なまえは全くそのような感じではない。
ノット、ザビニはいい友達といった様子。
少なくともパンジーと扱いは同じ。

「まあ、ティゴリーが決めたんならこっちからは何もいえないわね」
「うん。だから何か力になれないかって思って」
「なまえは優秀だし、それなりに何かできることがありそうだけど…」

なまえは同年代と比べて頭がよく、優秀だ。
とはいえ、なまえは4年生、セドリックは6年生。
2年の差は大きい、力になれるかは微妙なである。
とにかくなまえはセドリックが心配だった。

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