53.狂ったおとこ
なまえたちが夕食をとりに大広間に向かうと、そこには人だかりができていた。
どうやら相変わらずドラコがポッターを挑発しているようだった。
その脇にいたパンジーにことのあらすじを聞いたが、今回はドラコが悪いようだ。
誰だって家族を馬鹿にされたら腹が立つだろう、それこそドラコもそれが顕著なのになぜ相手の家族を馬鹿にするのかと呆れながらその光景を見ていた。

ポッターに母親を侮辱されたドラコは感情のまま杖を取り出し、ポッターの背中に向けた。
スリザリンの悪いところは、ドラコを止める人がいないということだ。
ザビニはドラコのことをそこまで好んでいないため、とばっちりを受けるくらいなら傍観に回る。
ノットも同じようなもので、パンジーなんては無自覚にドラコを煽るものだからたちが悪い。

ドラコが放った魔法はポッターの頬を掠めただけに終わった。
ポッターはそれに気づくとすぐにローブのポケットに手を突っ込んで杖を出そうとしたが、それよりも早く魔法がドラコに向かってとんだ。
階段の方からその魔法が飛んできたのを皆見ていた。
その主がムーディーだったので、スリザリン生は一瞬固まった。

「若造、そんなことをするな!」

その吼え声でびくりと肩を震わす生徒も多い。
魔法でケナガイタチに変えられたドラコもその場から動けず、震えているだけだった。
ムーディーはなにやらポッターと話しているようだった。
その間に我に返ったらしいクラッブがドラコを助けようと動くが、ムーディーがそれを遮る。

ムーディーがドラコに向かって歩き出すと、ドラコは怯えたようにこちら側に慌てて逃げだした。
なまえは暢気なことにもそのイタチの姿が可愛らしくて頬が緩んだ。
今日の生物学では可愛い動物が出てこなかったため、少し嬉しいのだ。
パンジーのいるこちら側にこないかな、と考えながら目でドラコを追っていたが、それも途中で終わってしまった。

「そうはさせんぞ!」

逃げようとしたドラコに杖をむけ、ムーディーはそのまま杖を上下させる。
杖の動きと同じようにイタチも空中へ放り出され、そのあと地面に叩きつけられた。

それが何度も続き、見ていられなくなったなまえが空中から地面に叩きつけられそうになっていたドラコをセーターでキャッチした。
白い長い毛をしたイタチはきょとんとこちらを見たが、すぐに目をそらした。

「…さすがに、動物虐待は見るに耐えません」

予想外のなまえの登場に人だかりの眼はそこに釘付けだった。
ムーディーへの恐怖で動けなかったスリザリン生も、憎いマルフォイが痛めつけられている光景に心躍っていたグリフィンドール生も、ムーディーとその目の前にたったなまえを見据えた。

なまえはいつも通りの様子でムーディーを見上げていた。
リドルのことがばれたらまずいものの、イタチが苛められている様子が我慢ならなかった。
もしこれがドラコの姿であったらなまえは何も言わなかっただろう。
しかし、ムーディーはなぜかドラコを可愛らしいイタチに変えてしまったため、なまえは耐えられなくなったのだ。

「とんだスリザリン生だな、仲間を守るとは珍しい!」
「ありがとうございます。それよりもこれはやりすぎかと思いますが」
「やりすぎだと?敵が後ろを見せたときに襲う奴は気に食わん!」

どうやら彼の中でスリザリン生は仲間意識がないと思われていたらしい。
あながち間違えではないが、どことなく馬鹿にした雰囲気に怒りと言うよりは呆れを感じた。
これではその辺りのグリフィンドール生とやっていることは同じである。

「教師と生徒と言う大きな力の差があるというのに威圧的な攻撃を仕掛ける人に言われたくはないです。あとここはいつから戦場になったのですか?私が知る限りでは、ここは学校のはずですが」

無口ななまえが珍しく口答えしたので、辺りのグリフィンドール生も驚いた。
しかも正論なので、誰も野次を飛ばしたりすることはない。
なまえの腕の中のケナガイタチは満足気に顔だけをちらりと出していた。

なまえの言葉になまえを睨むだけのムーディー、なまえもそれ以上は何も言わない。
険悪な雰囲気の漂う大広間前だったが、そのうち騒ぎを聞きつけたマグコナガルが仲裁に入り、ようやくなまえは開放された。
マグコナガルにケナガイタチを渡し、なまえは大広間に入った。

「なまえカッコよかったー!凄いわね、ムーディーにあれだけいえるなんて!」
「まあ私にはムーディーに持っていかれる人質もいないしね。成績下げられても別にいいもの」

スリザリン生の家族の多くは闇の魔法使いとのつながりがある。
そのため、闇払い相手では子どももうまく身動きが取れない。
しかし、なまえはその制限がないため気兼ねなくいいたいことを言えるのだ。
とはいえなまえにもリドルがいるため、そこまで目立つことはしたくないが今回は仕方がない。

「それにしてもさすがにひでぇよな、あれは」
「ああ…やりすぎだ」
「そうよ!何なのあの教師は!」

スリザリンのテーブルではムーディーを怖がる声と怒る声の両方が聞こえた。
なまえはムーディーの言い草もそうだったが、何よりも小さな動物を痛めつけるということが一番気に食わなかった。
自分よりも圧倒敵に弱いものに姿を変えて痛めつけるという方法に、嫌らしさを感じた。
それはグリフィンドールの勇気というよりは、スリザリンの狡猾さに近いものである。

夕食を食べ終え、なまえは早めに自室に戻った。
リドルに異変がないか、またなにか感じたことはないか聞きたかった。
自室の鍵を閉め、カーテンを閉めてリドルを呼び出した。

「リドル、大丈夫?」
「うん、平気だよ。なまえ、案外心配性だね」
「普段背後にいるものがいないと変な感じなの」

リドルは不敵な笑みを浮かべてこちらを見ていた。
なまえはその視線から逃げるように脱いだローブをクローゼットにかけようとハンガーを手に取った。
そのハンガーをさらりと奪い取り、結局リドルがクローゼットの中にローブをしまう。
なまえはその様子を見て、少し拗ねたようにベッドに倒れこんだ。

「それにしても、今日のは冷や汗ものだったよ」
「やっぱり?もうやらない」
「ぜひ、そうしてもらいたいね」

ベッドでころころしているなまえの額を撫で、リドルは一言そういった。
今日の出来事はなまえも反省している。
面倒ごとに巻き込まれるのは避けたい。

「ねえ、リドルはあの人どう思う?」
「…スリザリンみたいな考えの持ち主だね。少なくとも今日見た感じでは」

なまえが思ったのと同じように、リドルも感じたらしい。
スリザリンの血を引くリドルがそういうのだから、可能性は高いだろう。
しかしスリザリン出身の闇払いというには不自然だ。
彼は一体どんな人間なのだろう。

「とりあえず明日パンジーに聞いてみる」
「それがいいね」
「あ…明日防衛術の授業の前にピアス外しておこうか?何かあったら嫌だし」
「それはいいよ、僕もあいつのこともう少し観察したい」
「そう?ならいいけど」

なまえの情報源は図書館か噂好きのパンジーが主である。
スリザリンの純血の家関係のことであればドラコやノットに聞けばいいが、今回は関係ないのでパンジーが頼りだ。

また、なまえはムーディーの義眼を気にしていた。
あの義眼は自分の視界外のことが見えることしか今は分かっていないが、魔力を見て視界外のことを察知している可能性も否めない。
そうであるとすれば、微量ながらにリドルには魔力が流れているし見えてしまう可能性がある。
同じようにピアスもリドルがそこにいる限りは、魔力を発し続けているのだ。
リドルが篭っているとは思わないだろうが、少なくとものろいのかかったものであるという勘違いはされそうだ。
そうなったときに、無理矢理ムーディーや他の教師にピアスを保管され調査される可能性が高い。
それは避けたい。

しかしリドルからすれば、そのような得体の知れない男となまえが授業とはいえ顔を合わせるという状況に不安を覚える。
授業後に呼び出しを食らって1人でムーディーと対峙するようなことになるのは避けたい。
いつも通り、ピアスをつけてもらっておくのが一番安心だと思っていた。


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