52.一緒にいること
昨日までの嵐は朝には治まっていた。
昨晩寝る前にはいなかったパンジーが既に起きていて、髪を整えている。

「あら、なまえ。おはよう」
「おはよう…早いね、パンジー」
「なまえが遅いのよ。朝食に間に合わなくなるわよ?」

遅い、といっても朝食には充分間に合う時間だと自負していたなまえはきょとんとパンジーを見つめた。
なまえの視線に気づいたパンジーは呆れ、ため息をつくかのように静かに言った。

「これからシャワーを浴びて、髪を整える時間は無いでしょ?」
「ああ…そういうこと。シャワーは浴びないし、今日は適当に髪を結ぶわ」

年頃の少女達は身だしなみに煩い。
なまえも年頃ではあるものの、色めいたことが殆ど無いため、全くといっていいほどそういったことに興味がない。

パンジーもそれは理解しているものの、言わなければ気がすまないのだろう。
可愛らしい少女が着飾りもせず過ごしているのを見ると、もどかしくなるというもの。

「…せめて二つ結びにするとか、リボンをつけるとかしなさいよ」
「え?ああ…ならリボンつけるわ」

パンジーの心境など露ほども知らないなまえだが、リドルから貰った髪留めがあるため髪を結うことに関しては困らない。
元々長い髪を邪魔に思っているため、髪を整えるよりも結んでしまうほうがなまえは好きだった。
なまえは言われたとおり、リボンで横髪を纏めて結った。
緑地に銀色のストライプが入ったリボンはスリザリンのネクタイのようだ、これはリドルの趣味。
なまえはどうも思わないが、スリザリン生には好評を貰っている。

パンジーとなまえは2人で朝食をとりに大広間に向かった。
その際、いたるところで三大魔法学校対抗試合についての話がよく聞こえた。
それは大広間のスリザリンの長テーブルについてもかわらなかった。

「みんな三台魔法対抗試合について話してるわ。ドラコはどうするつもりなのかしら?」
「どうもこうも…年齢制限に引っかかるから立候補できないでしょ」
「まあ、そうだけど…」

ドラコは確かに立候補したがっていたが、恐らく投票しに行くような勇気は無いだろう。
年齢に関する防衛呪文が敷かれているであろうゴブレットに未成年が近づくとどうなるのか。
それが分からない以上は、恐らく近づくことは無い。
もし醜態をさらすことになったとき、スリザリン生は高い矜持からそれを耐えられない。

グリフィンドールの長テーブルからは、どうやって年齢制限を越えるのかを話し合う声が聞こえた。
失敗することが分かっていても、一縷の望みにかけて懸命に努力し実行する力はグリフィンドールならではである。

「それにしても、どうして男の人たちはみんなこの大会に出たがるの?」
「そりゃ、名声とかお金とかじゃない?これ、優勝賞金でるのよ」
「そうなの…命よりもそんなもののほうが大事なのね」
「…いや、命って…そんなに重大じゃなくない?」

なまえはその1点が分からなかった。
この戦いは避けることができる、というよりもやらなくて済むのにどうして自ら危険を冒そうとするのか理解できない。
説明の時点で過去に夥しい死体を出す結果になり中断していたというのに、どうしてそこの部分だけ都合よく忘れることができるのか。
いや、忘れているわけではないのかもしれないが、殆どの生徒はその都合の悪いところを無視しているように思えた。

その日は午前中に古代ルーン文字学と魔法薬学、午後からはグリフィンドールと合同で魔法生物学の予定だ。
午前中の講義は今までと殆ど変わらず、静かなものだった。
午後の魔法生物学は昨年からなまえのお気に入りの科目だった。
しかし昨年は事故が起こり、途中からつまらないものになってしまっていたため、今年はどのようなことをするのかと楽しみにしていた。

「…なまえ、貴方これも好き?」
「さすがに、ちょっと…」

しかし、その気持ちは裏切られることとなった。
なまえの目の前にある箱の中には大量の虫ともザリガニともいえない生き物が入っていた。
今回ばかりはドラコの嫌味も正論に聞こえる。

これが一体なんの役に立つのかなどと討論していたが、そんなことはどうでもよかった。
アリの卵を嫌々掴み箱の中の尻尾爆発スクリュートに与えると、彼らはそれに群がった。
今は小さいからいいものの、これが大きくなったら一体何を与えなければならないのだろう。
スクリュートも嫌なのだが、その餌を考えるのも億劫だった。

「なまえ、楽しみにしてたのに」
「…あれは、動物とはいえない」
「確かにな。生物ではあるだろうけど」

午後の最後の講義である魔法生物学が終わったため、スリザリン生はみな談話室でのんびりアフタヌーンティーを楽しんでいた。
なまえの隣に座っていたノットが苦笑しながら、先ほどの講義の話を持ち出した。
なまえが生物学を楽しみにしているのはスリザリンの同級生なら誰でも知ることだ。

先ほどのスクリュートのことを思い出すと、美味しいお菓子もお茶もまずくかんじるような気がしてなまえは眉根を顰めた。

「にしても、あれ本気で育てるつもりか?絶対やめたほうがいいと思うけどな」
「今回はドラコの言い分が正しかったと思う」
「今回はって…常にそう思って欲しいね」
「いや、それはちょっと」

さっくりと意見を一刀両断されたドラコは少し落ち込んだのか、ふいと顔を逸らしてしまった。
なまえはそれに対して対処方法が分からずに、パンジーを見るとパンジーは少し睨むようにこちらを見た。
ドラコの敵はパンジーの敵である。

それはさておき、元々ハグリッドの授業に好意的でないスリザリン生だ、今回なまえすらも好きになれないようなレベルの生物を持ってこられたため、嫌悪に変わったらしい。
来週からの授業が嫌になった。

パンジーとドラコは別件の用事があるらしく、談話室を出て行った。
残されたなまえとノット、ザビニで話を続けた。

「そういや、最近のこの三人組多いよなぁ」
「そうだね」

他愛も無い話しの中でそんな話が出てきた。
最近、置かれているお菓子を3人で食べながらのんびりとすることが多い。
お喋りなザビニと無口なノット、最低限のことしか話さないなまえ。
うまくバランスが取れているらしく、3人とも一緒にいることが苦痛とは感じなくなっていた。

「なまえ、パンジーのほかに女の友達いねーの?」
「多分いないと思うけど」
「大丈夫…?」

女友達といわれてぱっと出てくるのはパンジーくらいだ。
他にも同室はいるものの、パンジーとばかり話しているせいか、殆ど会話はない。
夜もなまえは早くに寝てしまうから、特に話すこともないのだ。
しかしなまえ自身、女友達がいないことで何か弊害があるというわけでもないので気にしていなかった。

ノットやザビニはそれを心配しているようだった。
スリザリン内でのなまえの評価は中の下。
頭はいいし、謙虚で物静かな性格のため酷く嫌われることは無いものの、純血とも混血とも分からないというのはあまりいい風には見られない。
家重視のスリザリンならではのことではあるが、かなり重要だ。
今はドラコやパンジーと仲がいいため表立って問題が起こることはないが、1人だった以前は酷い嫌がらせを受けていたのだ。
今後、そのようなことが起こらないとも限らない。

なまえは全くそのようなことを考えてはいなかった。
別に女友達から嫌われ孤立しようとも、なんとも思わないからだ。
1,2年のときのから孤立に対する感情が特に無い。

「別にいいよ、好きでもない人と一緒にいるよりも1人のほうがいいもの」
「まあ…そうかもしれねーけどなぁ」

ザビニは納得いかないといった様子の顔だったが、ノットは何も言わなかった。
なまえはどうして好きでもない人と付き合わなくてはいけないのか、全く理解ができなかった。


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