51.不穏なけはい
デザートの皿がなくなると、ダンブルドアが通年どおり注意事項を述べた。
いつもと違ったのは、クディッチの試合がなくなるという部分。
パンジーの隣に居たドラコは不満があるようだったが、ドラコが口を開く前にグリフィンドールから声が上がった。
ポッターやウィーズリーが堰を切ったように話すのを無視しながら、話を進めていたが、それを遮るようにバンッと大広間の扉が乱暴に開いた。

生徒の視線がそこに釘付けになる、なまえもその中の1人で反射的にという感じではあったが、大広間の扉の辺りを見た。
そこには厳つい顔の初老の男が、幾重もの視線など気にもせずに立っていた。
彼は職員席を見据えると真っ直ぐにそこに向かっていき、ダンブルドアの前に立ち握手をしていた。
なんともまた変な人が来たとなまえは怪訝そうにそれを見ていた。

ダンブルドアによるとその人は新しい闇に対する防衛術の先生で、名前をムーディーと言うらしい。
その名がダンブルドアの口か零れた瞬間、スリザリンには若干の緊張が走った。

『最悪だ』
「…面倒だ」
「何?」
「あとでな…」

食事で少し機嫌が治ったと見えたノットがいきなり不機嫌になり、眉間に皺を寄せていた。
彼の前にいるドラコも同じような感じである。
何より、先ほどまでなまえの背後にいたリドルが一言呟いて、ぱっとピアスの中に身を隠してしまった。
これは何かあるのだろうと、不自然でない程度にムーディーを見た。

彼の右目は青色の義眼で、それが忙しなくギョロギョロと動いている。
その視線は主に、こちら側…スリザリンのテーブルに向いているように感じられた。
スリザリン生の多くはその視線に居心地悪そうに、硬くなっていた。

他の寮の生徒も奇抜な新しい先生に釘付けになっていたが、ダンブルドアの声でそれが遮られた。

「先ほど言いかけていたのじゃが、今年、ホグワーツで三大魔法学校対抗試合を行う」

なまえはその言葉にきょとん、とするだけだった。
大広間にあった奇妙な緊張感はなくなり、その代わりにまさか、と馬鹿にするような雰囲気が漂う。
大広間の生徒を代表するようにグリフィンドールのウィーズリーの双子が大声を上げた。
ご冗談でしょう?という双子の声にあわせるように生徒達から笑いが漏れ、いつもの大広間の雰囲気に戻ったような気がした。

双子の声に冗談で返そうとしたダンブルドアをマグコナガルが制するという茶番をはさみ、ダンブルドアは三大魔法学校対抗試合の説明を始めた。
簡潔にいえば、随分歴史の長い他校も一緒に行う運動会のようなものだった。

なまえは特に興味もなく、適当に話を聞いていた。
しかし、その前に座るドラコやザビニは随分と興奮しているようで2人で囁きあっている。
あたりを見渡しても無関心なのはなまえとノットくらいだった。
立候補するという声がどこかから聞こえたが、なまえはただ英国の人はやる気が違うなと思う程度だ。

しかし、その試合は課題の難易度から17歳以上の生徒のみが立候補できるという。
目の前のドラコはあからさまにがっかりしているようであるし、先ほど立候補すると声を荒げていたグリフィインドール生も反抗的な顔でダンブルドアを睨んだ。


その後は今までどおり、寮に戻り、話に花を咲かせていた。
今年の話題はムーディーと三大魔法対抗試合のこと。

「まさかムーディーが教師とはなー、こりゃ大変だ」
「ムーディーってどんな人なの?」

談話室の端のソファーにどっかりと座り込んだザビニが少し可笑しそうに言ってのけた。
その場に居合わせたのはノットとなまえだけで、パンジーとドラコは早々に部屋に戻ってしまっていた。
ノットはムーディーの名を聞くと少し眉根を顰めて、しかしすぐにもとの無表情に戻った。
ザビニはにやにやと意地悪そうに笑いながら、なまえを見ている。

「ドラコとかパンジーがいないとずばっと聞いてくるなぁ、なまえは」
「ノットとザビニはあまり気にしないから」
「おおう…だとよ、セオ」
「僕はあまり気にしないから」

スリザリンの一貫した考えの中に純血主義があるのは有名なことだ。
しかし、スリザリン生の全員が全員、純血主義と言うわけではない。
また純血主義にも過激派、穏便派がある。
ザビニは純血主義というほどではないし、ノットは穏便派。
なまえが気を使う必要はそんなにない。

ザビニは笑みを消し簡単に先ほどのなまえの質問に答えた。

「マッドアイ・ムーディーってのは昔、やり手の闇払いだったんだよ。だから死喰い人である可能性が高いと思われるような家のやつらはあいつを警戒する。ドラコなんては親父さんが死喰い人だって思われててもおかしくないからな、警戒してんだよ」
「なるほど」

こういう場面においても、死喰い人である、と断言することがないあたり、スリザリン生は徹底している。
寮内であっても、ここはダンブルドアの根城。
誰がどこで会話を聞いているとも限らないという考えの下の発言だろうとなまえは判断した。

その後、三大魔法対抗試合について話したが、なまえとノットが全く乗り気でないのが気に食わなかったのか、ザビニが機嫌を悪くしたため、お開きになった。
なまえが部屋に戻ると、そこには誰もいなかった。
パンジーや他の同室の女子は別の部屋に集まっているようで、どこかの部屋からは賑やかな話声が聞こえた。
なまえはそれに加わる気もないので、自分のベッドに一直線に向かい、カーテンを閉めた。

「ムーディはリドルが見えるの?」
『いいや、多分見えないんじゃないかな…でももし見えていたら大変だし。今年は自粛するよ』
「そう。用心したほうがいいね、リドルが消されちゃやだし」

ベッドのカーテンを閉めて、すぐになまえはリドルに声をかけた。
ムーディが現れてからピアスに篭ったままだったりドルは霊体のまま、なまえの前に現れた。
怪訝そうに眉を寄せているリドルに、なまえは深刻そうにそういう。
リドルはその言葉にちょっと驚いたようだが、すぐに嬉しそうに笑みを浮かべて気をつけるといって消えた。

prev next bkm
×
第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -