44.夜のそうかい
なまえたちは試合を見終え、ゆっくりとテントに戻った。
他の観客たちが帰ったのを見計らって、余りこんでいなさそうな大通りを少し逸れた道を使ってくれたため、なまえは気分のよいままテントでお喋りに乗じていた。

「それにしても凄い試合でしたね…眼が回るかと思いました」
「うん!それにあの試合、歴史に残るね…クラムの矜持がよく出てる試合だったし、何よりあのフェイント、凄かったなあ…」

セドリックもまだ興奮が冷めないのか、しきりに試合のことに関して話していた。
手の中のマグカップの中身のことなど忘れるほどに、熱中していた。

しばらくは眠気も忘れて話していたのだが、流石に時刻も時刻なのでお互い眠ることにした。
なまえは1階の寝室を使うことになった、セドリックとエイモスはロフト上にある空間で眠るらしい。
シャワーを浴びると心地よい眠気が身体に充満していることに気づいて、すぐにベッドに潜りこんだ。

『今日は色々あったからね、寝たほうがいいさ。朝は僕が起こしてあげるから安心して…』
「うん…おやすみ…」

なまえは遠くから聞こえる騒音も歓声すらもなんだか心地よく感じて、そのまま眠りに就いた。


「なまえ、起きて!」
「…ぅうん…?何…」
「これに着替えて、ティゴリーもじきに起きるだろうよ、この騒ぎだから」
「何…?どうしたの?」

身体を揺らがせる振動で、なまえは眼を覚ました。
まだ寝たりないため不機嫌そうにリドルを睨むが、リドルはそんな事を気にすることもなくなまえに洋服を渡す。

緊迫としたリドルの様子になまえはようやく異変を感じ取った。
外から聞こえている騒音が、歓声から悲鳴に変わっている。
何かあったのだと気づき、リドルから渡されたワンピースに袖を通しながら聞いた。

「…闇軍の馬鹿どもが騒ぎを起こしてるらしい。ここは大通りから離れているから直接的な被害はないと思うけど、逃げてくるやつらの巻き添えを食いそうだ」
「闇軍…、それって、」
「無論未来の僕じゃないね。こそこそ生き延びた奴らがお祭り気分にでもなったのさ。最悪だ」

苦々しそうにリドルはそう答えた。
そのような馬鹿な事をしている暇があるならば、別のことに労力を使えと言いたげだった。
なまえはワンピースを着て、その上からローブを羽織って扉を開けた。

「なまえ!よかった、起きてたんだね」
「ええ…この騒ぎ、ただ事じゃないですよね」
「うん、着替えて正解だよ…僕らもテントを出よう。巻き込まれそうだ」

扉を開けると、セドリックが今起こそうとしていたといわんばかりに扉の前にいた。
セドリックも洋服に着替え終えていて、杖を持っている。
エイモスは少し前に応援に向かったらしい、テントの中にはセドリックだけしかいなかった。

「…うわ、」
「結構人が集まってきてる…酷いな」

テントを一歩出ると、たくさんの人で泉のほとりは埋まっていた。
なまえは絶句したように呆然とそこに立っていた、セドリックはなまえがその中に紛れてしまわないようにローブをやんわりと押さえていているので、なまえはその中に紛れることはなかった。

「ティゴリー!」
「ウィーズリー?大丈夫かい?」
「ああ、俺達はな。なあ、ハリーやロンを見なかったか?」
「いいや…これは何の騒ぎなんだ?何があった?」

遠くからセドリックの鳶色の髪を見つけたのか、ウィーズリー家の双子とジニーが人込みを分けて現れた。
ジニーはネグリジェにローブを羽織っているだけの格好のようで、素足が見えている。
双子とセドリックが情報交換している間に、なまえはこっそりとテントに戻りパンツとカーティガンを取ってきた。

「ジニー、これどうぞ。あと、カーディガンも。それじゃあちょっと恥ずかしいでしょう?」
「え…?いいの?」
「うん。なんか大変だったみたいだね、無事でよかった」

外国の洋服感はいまいち分からないが、流石に薄手のネグリジェにローブを羽織った状態では恥ずかしい上に寒いだろうというなまえの考慮だった。
ジニーは遠慮しつつも、なまえからそれらを受け取り、こっそりテントに入って着替えていた。
着替え終えたジニーは、あった事をさまざま教えてくれた。

マグルの家族を魔法で持ち上げ、彼らを人質にとって行進しているとのことだ。
テントを踏み潰し、燃やしたりしながら行進するものだから皆パニックになって逃げ惑っている。
話の最中、リドルの機嫌がどんどんと悪くなるのを感じた。

「なまえたちはここにテントをしていたから、運がよかったわ」
「そうね…」

そうジニーと話していると、あたりから劈くような悲鳴が上がった。
皆がその声に驚き、辺りを見回す…誰かが、叫び声に近いような声で言った。

「闇の印だ!」

その瞬間、恐怖が伝染したのかいたるところで叫び声が上がった。
皆、パニックになり、その場からどうにも逃げたいらしく、人の動きで流れができ始めていた。
その弾みで泉に落ちるものもあるし、小さな子どもは母親とはぐれたのかしきりに泣いていた。


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