テントの中はとても快適だった、マグルのそれとは全く比べ物にならない。
昼食を取り終えソファーに腰掛けてぼんやりしていると、ロンとハーマイオニー、双子が話しかけてきた。
「そういえば、朝のあれ、なんだったんだろうな」
「朝の?」
「ほら、セドリックがみょうじを連れていたじゃない!」
ロンがふと話に出したのは、今朝のことだった。
そういえば、セドリックはスリザリンのなまえ・みょうじを連れていた。
みょうじは滅多にクディッチの試合を見に来ることはないので、自らチケットを取ったわけではないだろう。
恐らくは、セドリックがみょうじを誘ったのだ。
アーサーも言っていたが、チケットを手に入れるのは難しかっただろうに。
「あの2人、できてるのかなぁ?」
「できてるって…、まさか。みょうじはそんな風には見えなかったけど」
「じゃあティゴリーの片思いだな」
「凄いな…みょうじ、絶対気づいてないぜ?」
セドリックのことを好ましく思っていない双子がおかしそうにそういった。
ロンはそれにつられて笑っていたが、ハーマイオニーとジニーは同情の念を持っているのか怪訝そうな顔をしていた。
「みょうじのどこがいいのかしら?」
「うーん、性格は暗そうだけど、なかなか可愛いと思うけどね。童顔で」
「アジア独特な感じとか…あとあの子とっても謙虚なのよ。それに親切なの!」
ハーマイオニーは去年のテスト結果をまだ引きずっているのか、みょうじをあまりいいように思っていいないようだった。
ジョージは冷静にみょうじを見ているようだ、スリザリン生だというのにそこまで悪いようには言わなかった。
ジニーはみょうじと少々付き合いがあったらしい。
「ジニー、みょうじのこと知ってるのか?」
「ええ。彼女よく図書室に居るんだけど、課題を手伝ってもらったことがあるの。分からないところも聞けば教えてくれるわ。教え方も上手だし、ぶっきらぼうだけど優しい人よ」
それは意外だった。
みょうじは大抵一人でいるイメージで、人を寄せ付けないようなオーラを発しているようにハリーは感じていた。
隙を見せないというか、弱みを見せないというか、とにかく取っ付き辛い印象だ。
一度だけ、授業で積極的にヒッポグリフに乗ろうとしたが、それ以来は静かなもので殆ど会話もない。
スリザリン内でも、異質な雰囲気を漂わせる彼女だが、最近はマルフォイやパーキンソンなどがみょうじの傍にいるのをたまに見る。
しかし彼女はあまり話をしているわけでもないし、楽しそうに笑うこともない。
「へぇ、意外だな」
フレッドはつまらなそうにそういった、妹がスリザリン生と仲良くしているのが少々気に食わないらしい。
ジニー以外の人間は皆フレッドと同じ考えだった。
彼女は決して親切そうには見えない。
「優しい、ねぇ?彼女スリザリンだろ?何かたくらみでもあったんじゃないか?」
「そんな風には見えなかったわ。彼女、ちっともスリザリンらしくないんだもの」
ロンがさらに畳み掛けるようにみょうじに対しての批判をする。
ジニーも少々むきになりながら、返答した。
ハリーはみょうじが優しいということは、なんとなく理解できた。
彼女が唯一積極的に参加した、あの魔法生物の授業で、ハリーは初めてみょうじを間近で見た。
柔らかな黒髪に隠れた瞳は凛としていて、しかしどこか慈愛に満ちたような色をしていた。
その瞳は真っ直ぐにヒッポグリフを見ていて、時々嬉しそうに眼を細める。
ああ、この人は動物が大好きなんだな、と一瞬で分かった。
優しげなその眼差しが、ジニーの話で思い出された。
「ねえ、彼女、やっぱり図書室ばかりにいるの?」
「え?まあ私が行くときは絶対にいるわ。聞いたんだけど、寮は居づらいんですって」
「そりゃ居づらいだろうな、えばってる奴がたくさんいるだろうし?」
「いいえ、そうじゃなくて、みんなが話しかけてくるからって言ってたわ…。あんまり人と付き合うのが得意じゃないからできれば1人で居たいんですって」
ハーマイオニーがそわそわとみょうじのことを聞いた、今年こそは彼女に負けないようにと思っているのだろう。
ジニーは結構みょうじのことが好きなようで、色々と彼女の事を知っていた。
確かにみょうじは人と一緒に居ることが少ない。
そういえば大広間ではパーキンソンやマルフォイといるのだが、両者が話すばかりで、彼女が口を開くところは見たことがなかった。
今回みょうじに会ったときも彼女は一言も口を利かなかった、まああれは疲れていたからかもしれないが。
「まあ、あれは確実に惚れてるんだろうな、ティゴリーのやつ」
「私もそう思うわ。ティゴリーったらよく図書室にきてなまえの近くに座っていたりするから。週に1回、2人でお茶会をするんだって言ってたもの、ティゴリーも頑張ってると思うけれど」
「え、2人きりでお茶会?…それでできてないって言うのが凄いな…」
どうやらセドリックも随分頑張っているようだ、それでも振り向かないみょうじも凄いが。
それにしても、みょうじのことに関しては謎が多いということがよく分かった気がする。
今回突然成績が上がったことに関してもいえるが、今まで殆ど注目を集めていなかっただけあって(ある意味では注目の的だったが)不思議な存在だ。
「ねえジニー、彼女人と話すが好きじゃないのに、どうしてジニーの質問には答えてくれるの?」
「うーん…多分なんだけどね、苦手なだけであって嫌いなわけじゃないと思うの。…まあ、多分フレッドとジョージみたいな人は話したがらないかもしれないけど、普通の人なら大丈夫なんだと思う。最善は1人だけど、そうでなくても機嫌が悪くなるってことはないし…基本的に受身なだけよ、なまえは」
ジニーは少し考えてそう答えた。
その答えに関しては、恐らくはあっているのだろうなと思えた。
彼女は積極的に人付き合いをするわけではないが、人を毛嫌いしているわけではなさそうだ。
ただその独特な雰囲気が、人を寄せ付けないというのはあるような気がする、どこか隔て理を感じるのだ。
ハーマイオニーはそれを興味深そうに聞いていた。
「それなら、私が一緒に勉強しても怒らないかしら?」
「一緒にっていうのはオススメしないわ。嫌がると思う。分からないところを質問するくらいなら平気だけど、一人の時間を大切にする人みたいだから」
「そうなの…今度はなしかけてみようかしら…」
「ハーマイオニーまでスリザリン生と仲良しになるのか?勘弁してくれよ」
ロンがうんざりしたようにそういった。
スリザリン生には近寄りたくはないとう考えを男達は持っているようだ。
ハーマイオニーとジニーはそれに対して、怪訝そうに眉をしかめた。
「別にいいじゃない。それに彼女の実力が本物なら私の質問に答えられるはずだわ」
「ああ、それは確かに気になるな…」
みょうじ最大の謎は突然の成績向上である。
今までドベに近かった(大広間には50位までしか出てこないので推測だが、普段の授業を見ているにそう思える。それくらい酷かった。)みょうじが突然1位にまで上り詰めたのだ。
グリフィンドールではカンニングであろうと専らの噂で、そうだとしたらどうやったのだろうと好奇心もあった。
それは特にフレッドとジョージなのだが、確かにこの学校においてカンニングをするというのはとても難しいことだ。
何せ、さまざまな魔法がかかっていてすぐばれるのだから。
「今度あったら聞いてみましょ」
ハーマイオニーが眼を輝かせながらそういった。
みょうじのことを一番不審に思っているのはハーマイオニーだ、新学期が始まればすぐに聞きに行くだろう。
その答えが楽しみだ、とハリーはこっそり思った。