40.泉のほとりの夏
漸く上り終えた丘の向こう側にはまだ星が瞬いていた。
それを背景に、セドリックとその父親、エイモスが立っていた。
セドリックは軽くあいさつした後、しきりに後ろを振り返っては何か話しているようだった。
それで、大柄なセドリックの後ろに居た小さな少女に、アーサーが漸く気づいた。

「おや、そちらのお嬢さんは?」
「ああ、うちの息子が連れてきた子でね。メアリーがこないというから、彼女を誘ったんだ。なあ?セド」
「うん、まあ…」

エイモスが嬉しそうにそう答えるのを、セドリックは苦笑しながら見ていた。
はっきりいって、ハリーやフレッド、ジョージのいるこの場で言って欲しくはなかったので、曖昧な返事を返した。

ウィーズリーの子とハリーたちは驚いたようになまえを見ている。
なまえはまだ疲れが抜けていないのか、膝に手を置いて、辛うじて立っているかのようだった。
ハリーたちには一瞥もせずに、今にも座り込んでしまいそうな様子だ。

「お前達、彼女を知っているのか?」
「え、あー…うん、僕らと同い年だ」

アーサーが何の気なしにハリーたちに問うた。
ハリーとロンが顔を合わせて、代表してロンが曖昧な返答をした。
その隣でハーマイオニーが苦々しそうになまえを睨んでいた。
なまえはそれに気づかず、しかし、隣のセドリックが気づいて怪訝そうな顔をした。

子供達の険悪なムードに、アーサーが話題を変えた。

「そろそろ時間だ、さあ、準備しないと」

エイモスが掲げた古いブーツに10人がぎゅうぎゅうと集まる。
なまえはその中央で居心地悪そうに身じろぎしていた。
しかし、中央に居られるだけましだ、他の9人は押し合いへし合いしながらブーツに捕まっていた。
なまえはブーツの靴底のちょっとだけ出たヒール部分を掴んだ。

「三、ニ、一…!」

アーサーのカウントダウンが終わると、突然ぎゅっと身体を引っ張られるような感覚がした。
びっくりして靴底を放してしまうかと思ったが、不思議と手がくっ付いたように離れなかった。
耳元でごうごうと大量の風を切っているかのような音だけが聞こえて、なまえはぎゅっと目を強く瞑った。

突然、足が地面につく感覚がして慌てたが、隣に居たセドリックが支えてくれたらしく何とか立っていられた。

「大丈夫だった?なまえ、移動キーも初めてだったよね?」
「あ…はい。大丈夫です、ありがとう」

触れられたところが一瞬ぞわりとしたが、それ以上は何もなかった。
まだ足元のおぼつかないなまえをいたわるように、セドリックは軽くなまえを支える。
漸くなまえはあたりを見る余裕ができ、ふっと目の前を見るとハリーたちが地べたに転がっていた。
なまえがどうして地べたに転がっているのだろうと思いつつ見ていると、各々立ち上がり始めた。

その後、ウィーズリー家とは分かれてキャンプ場の奥へと向かった。
あたりは色とりどりのテントでぎゅうぎゅう詰めになっていて、時々子どもがおもちゃの箒で飛んでいたりしていた。
なまえはきょろきょろと辺りを見回しながら、セドリックの背中を追いかける。

「さあ、ついたぞ!」

キャンプするところは泉のほとりだった。
会場からは少々離れているものの、小さな林に囲まれていて静かだ。

「なまえ、疲れただろ?ここに座ってて」
「え、ああ…そうします…」

セドリックが泉のほとりの岩にハンカチを引いて待っていてくれていた。
なんとも紳士的な様子に少々の驚きを覚えつつ、ありがたくそうすることにした。
ずっと歩き詰めで足は悲鳴を上げている。

なまえが座る傍らで、エイモスがてきぱきとテントを組み立て始めていた。
ところどころ魔法を使ってはいるものの、そこまで目立つようにはしていない。
一応マグルのキャンプ場と言うことを弁えているらしい。
セドリックがそれを手伝い、あっという間にテントは建った。

「お待たせ、もう中に入れるよ」
「ありがとうございます…ごめんなさい、何も手伝わないで」
「いや、いいんだ。誘ったのはこっちだしね」

なまえはテントの幕を持っていてくれているセドリックに御礼をして、中に入った。
中は魔法で大きくしてあり、3人では広すぎるくらいだ。

セドリックに誘導されるまま、なまえは部屋の中央付近にあるソファーに座り、あたりを見渡した。
普通の家のようにソファーがあったり、キッチンがあったりしていて快適そうだ。
少なくとも去年の夏に住んでいたアルバイト先の地下倉庫よりかはずっと暮らしやすそうだった。

「うわぁ…凄いですね、魔法界のテント」
「うん。結構広いんだよ。寝室が2部屋あるから、なまえ好きなほう使っていいよ」

キッチンの反対側に扉が2つあった、その上にはロフトもある。
キャンプに関して不安の多かったなまえだが、これなら問題なく過ごせそうだった。


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