03.こどくなせかい
夏休み最終日、暖炉を使うという手段でキングズクロス駅の近くまで行き、大きなカートを引いてチケットに記された場所を探す。

「9と4/3…外国ってこんな変わったホームがあるの?」

9番線の辺りをうろうろしながら呟く。
口から零れた言葉はおそらく日本語なのだろう、周りの人々がものめずらしそうに私を見た。
学校に行くにしても、英語が喋れないのでは何もできない。
授業だって何も聞き取れないだろうし、教科書も読めない。

最悪、学校でなにもできないというとんでもないことになる。
…その最悪を考えておいたほうが良いのだろうが。
あの老人を探すにしても誰かに聞かないと分からないし、もし彼がいるとしたら教員としてだろう。
教員としてだったら、アポイントメントを取らなければならない。
そのアポイントメントは無論英語でなくてはいけないのだから、…ほぼ、不可能に等しい。

しかし、あの魔法が他の教員にもできるのであれば、誰か1人でも私の異変に気づいてくれれば良い。
とはいえ、まずは学校にたどり着けるかどうかである。

チケットの示す9と4/3番線が全く見つからない。
仕方がなく9番線と10番線の間で辺りの様子を見てみた。
みな同じ日に入学式をするのだろうし、誰か他にも9と4/3にいく人がいるはずだ。
その人についていけば、いけるはず。
ランはじっとその場で待った。

「What did you do?」
「!?」

ぼんやりとカートを握り締めたまま辺りを見渡していたのだが、背後から突然声をかけられた。
びっくりして肩に置かれた手を払うことも忘れて振り返ると、背の高い青年が立っていた。
いくつなのだろう、自分なんかよりもずっと年上に見えるが外国人はみんな大人びて見える。
だから、そこまで年上ではないのだろう。

その青年の後ろには自分と同じようなカートがある。

「?…Are you OK?」
「お…OK…」
「You are a new student? I will go together!」

おいで、といっているのだろうかカートを引いて手を振っている。
兎も角彼についていけばホームにたどり着くことができるだろう。
私はカートを引いて彼のあとを追った。

「What’s your name? I’m Cedric Diggory」
「せどりっくてぃごりー?」
「Yes!」

彼が柱に向かって歩いていったのには驚いたが、真似をして柱に向かっていくと衝突することなく柱の中に入ることができた。
きちんとしたホームがあって、下がっているプレートを確認すると9と4/3とあった。
先ほどの彼は柱から少し離れた場所で待っていてくれていた。

セドリックと名乗った青年は親切にコンパートメントまで取ってくれた。

「あ…My name is なまえ」
「なまえ? Nice to meet you」
「Nice to meet you too」

ちょっとした会話ならできるが、それ以上はできない。
彼は他の友人に連れられて別のコンパートメントに行ってしまった。
その際何か言っていたが、何を言っているのかは理解できなかった。

ひとりぼっちのコンパートメント。
流れる景色を見て、日本とは違うのだと主張され続けているような気がして気分が悪くなった。

日本が大好きだったわけではない、施設が好きだったわけでもない。
でも、日本であれば言葉が通じないという事態は発生しないし、こんな不安になることもなかっただろう。




3.こどくなせかい
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