32.ディアマイフレンド
なまえは目的の薬の作り方などをメモし、図書室を出た。
時刻は夕食時だったので、そのまま大広間へ向かう。
スリザリンのテーブルで既にデザートに手を出しているパンジーの姿を見つけてその隣に座る。

「なまえ、夕食食べないのかと思ったわ」
「夢中になってたらこんな時間だったの。パンジー食べ終わっちゃった?先に帰ってても平気」
「ううん、待ってるわ。一緒にいきましょ」

なまえは軽く夕食をとり、待っていてくれたパンジーと一緒に寮に戻った。
談話室ではざわざわとしていて、戸惑いの声があふれていた。
パンジーがそれを混じりたそうに見ていたので、先に部屋に戻るとだけ言って、彼女と別れた。
彼女は1時間もすれば帰ってくるだろう。

部屋に戻るとなまえはベッドに腰掛け、考え始めた。
噛まれれば人狼になる、というのは狂犬病に近いなとなまえは考えていた。
狂犬病の犬は普通なら処分される、治しようがないし、人に危害を加える害獣だから。

人狼も同じだが、彼らは犬ではなくて人だ。
満月の夜以外は普通の人間だ。
狼になるとき以外の彼らには人権があり、殺すわけには行かない。
隔離というのもありじゃないのかとは思うものの、噛まれるリスクを考えるとそれも普通の人間は嫌う。

自分たちと違うというだけで、人は非常に残酷になれる生き物だ。
なまえはそれをよく知っていた。

「難しい問題」
「悶々と考えていたようだけど、何が?」
「人狼。確かに噛まれる危険はあるけど、それは満月のときだけ。しかも今は脱狼薬もある。なのに、こうやって忌避されるのはやっぱり人の性なんだろうなって」
「…確かにね。一般的、基本的から反れた人を人は嫌うから。仕方がないよ」

確かに仕方がない。
異端者は異端者同士でいる以外にない。
それが平和なのだろう。

ぼんやりとそんなことを考えていると、隣に座っていたリドルがふっと霊体に戻った。
おや、となまえがリドルのいた場所に眼を移すと同時に、部屋のドアが開いた。
入ってきたのはパンジーだった。

「なまえ!いるかしら」
「いるよ、こっち」
「いっぱい話し聞いてきたわ!お菓子も持ってきたし、今日はちょっとくらい夜更かししたっていいでしょ?」

なまえは基本的に夜の女子特有の会話には参加しない。
恋愛だとかおしゃれだとか流行だとかにあまり興味がないからである。
そんな話をするくらいなら寝ていたほうが有意義であるとすら思っている。

しかし、今日の話は恋愛などにはあまり関係がなさそうだし、まあいいかと1つうなずいた。

「まールーピンは退職するんじゃない?みんな親に手紙書いてたし、辞めさせられると思う」
「妥当だね。スネイプ先生はどうしてそんなこと言いふらしてたの?らしくないのに」
「これはただの噂なんだけど、スネイプ先生がシリウス・ブラックを見つけて捕らえようとしたのに、人狼になったルーピン先生に邪魔されてできなかったんだって。だから腹癒せにって感じ?」
「なるほど」

納得の理由ではある、それが真実なのかはわからないが。
事のあらましも聞けたので、なまえはその事件に大分興味をなくしていた。

シリウス・ブラックは結局まんまと逃げおおせたらしい。
魔法省はまたその行方を追っているらしいが、あんな野良犬見つからないだろう、じっとしていれば。
あの犬は馬鹿だから、もしかしたら捕まるかもしれないが、どうでもいい。

スネイプ先生はご愁傷様といいたい。
なんというかあの人はもう少しで掴めそうな幸運を逃してしまうタイプの人らしい。
それで怒りに任せて、あたりの信頼を揺らがせてしまう人。
可哀想だが、なんともならない。

ルーピン先生はちゃっかりしている。
本来、人狼が学校の森をうろついているというだけで問題なのに、教師仲間に鉢合うなど大問題だ。
恐らく鉢合ったのであれば、戦闘もあっただろうに。
その辺りの責任を逃れ、辞職という形だけに収まった。

「まぁ、今回の一番の被害者はスネイプ先生かな」
「そうかもね。…そうだ、なまえ。いい機会だから聞きたいことがあるんだけど」
「何…?」

パンジーは分かっているのかいないのか分からないが、適当に相槌を打った。
別の話がしたいのか、パンジーはそういうとずずい、となまえのほうに近寄った。
なまえは居心地悪そうに身を捩じらせて、怪訝そうに聞き返す。

「なまえ、ティゴリー先輩と付き合ってるの?」
「…どうしてそうなるの?別に付き合ってないけど…ただの友達」

やけに目を輝かせてパンジーはそういってのけた。
なまえは怪訝そうな目元のまま、答える。

「嘘だぁ!だって前見たよ、2人で楽しそうにお茶してるの!しかも毎週でしょ?それで付き合ってないって言うわけ?」
「うん。だって普通にお茶会するだけだよ。お菓子と紅茶持ち寄って、お話したりするだけ。それ以上何もないし」
「え、好きじゃないの?」

どうも火曜日のお茶会を見られていたらしい。
言い逃れができないなら、認めてしまえばいい。

なまえは別にセドリックが好きというわけではない。
というよりも、好きかといわれても困る。
なまえは恋愛勘定に疎いので、もしかしたら恋なのかもしれないという感情すら分からない。

「わかんない。でも一緒に居て嫌じゃないし、話も合うから一緒に居るだけ」
「…それって好きなんじゃないの?なまえって誰かと一緒に居ること、殆どないじゃない。なまえが誰かと仲よさそうに話してるのなんて見たことないわよ」

言われて見ればそうかもしれない。
勉強を一緒にやるのもセドリックかリドルとだ。
リドルはまあ、常々一緒なのでいいとしても、それ以外に真っ当な人間で(生きてるという意味でだ)一緒に居るのはセドリックぐらい。

そういわれてみると、セドリックとは友達以上の関係なのかもしれない。

「そうかも」
「それで好きじゃないってほうがおかしいわよ」
「でも、likeであってloveじゃないとは思う」

仲が良いことは認めよう、確かに彼の隣は居心地がいい。
でももし、毎日のようにお茶会をしていたらどうだろうか。
あまり長続きはしない気がする。
距離感が重要で、近づきすぎはよくないと思うのだ。

そう思う相手なのだから、恋愛的な好きではない、となまえは思った。
しかし、パンジーは違うらしい。

「そうかしら?なまえ、自分では気づいてないかもしれないけど、ティゴリー先輩と居るとき、楽しそうよ。なんていうのかなぁ…ふわっとしてるって言うか。普段はゆらゆらしてる感じだけど」

なまえは思い当たる節がなくて小首をかしげていたが、リドルには思い当たる節があって複雑な気持ちになった。
確かになまえはセドリックと居るとき、楽しそうだ。
優しくしてくれるセドリックがなまえは好きなのだろう、自覚はないようだが。
しかし、それがlike以上であるかといえば、そんなことはないとリドルは思っている。

『僕には兄妹のようには見えるけどね』
「ふぅん…でも多分違うと思うよ。楽しいけど、なんだろう、セドリック先輩、お兄ちゃんみたいな感じ」

なまえはリドルの言葉のほうに納得した。
確かにお兄ちゃんのようなのだ、リドルもそうだが。
面倒見がよくて、話しもうまくて、優しいお兄ちゃん。
家族愛に近いそれは決して恋愛には発展しない。

パンジーもそう言われば、と思ったらしい。

「確かに…えーなんか残念だなぁ…」
「お喋りのネタにしたかった?」
「失礼ね!なまえにそう言う人ができたら安心だなあって思ってたの」
「ああ…ごめん。ありがと」

冗談で言ったつもりが、本気で起こられてしまったので、慌てて謝った。
普段冗談を言わないせいか、冗談だと思われなかったようだ。

去年まで仲が良いとは決していえなかったが、今年1年で随分仲良くなったとなまえは思った。
まさか自分を心配してくれる友人ができるとは。

prev next bkm
×
「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -