31.いちねんのおわり
なまえは朝までぐっすり眠っていた。
朝食の時間に近くなっても起きないため、パンジーが起こしに来た。

「なまえー!早く起きないと朝ごはん食べ損ねるよ!」
「ぅん…、いま行く…」

寝ぼけ眼で準備を始めたなまえをパンジーが手伝おうと近づく。
なまえは吃驚して思わず飛びのいた。

「あ…、ごめん」
「え、あ、ごめん、私人に触れるの苦手なの…大丈夫、すぐ済ますから」
「うん、待ってていい?」
「もちろん。ありがとう」

飛びのいたお陰か目が覚めたなまえはてきぱきと身の回りのことを済ませる。
着替えて、髪をとかして、ベッドの周辺を片つけようかと思ったが、リドルが後はやっておくといってくれたので、パンジーについていった。

朝食の場にルーピンはいなかった。
昨日の麻痺呪文が効いたのか、人狼に変身して暴れまわって疲れたのかは定かでない。
とりあえず、手前にあったキッシュを取り分けて食べ始めた。

もくもくと食事をしていると、スネイプ先生が大股で大広間に入ってきた。
完全に不機嫌で、スリザリン生も皆何があったのだろうといわんばかりだ。

「どうしたのかな?すごく不機嫌みたいだけど…」
「そうね…珍しい」

普段から不機嫌そうな彼だが、表立った行動に移すのは珍しい。
しかも他の教員もいる大広間でなど。

彼は教員の席に向かったが、座ることなくそのまま校長の隣に立った。
何をするのだろうと全校生徒の関心がそこに集中する。
なまえは食べかけのオレンジにフォークを指して、それを見守った。

「校長、やはりルーピンを…人狼を教員にしたのは間違いだったのです…!」

何を言い出すのかと思えば、ルーピンのことだった。
事情を知っているなまえは落ち着きを払いつつ、オレンジを口に運んだ。
隣のパンジーはぎょっとした様子で、校長とスネイプを見ていた。
一瞬の沈黙の後、波紋のようにざわめきが広がる。

いままでルーピンを気に入っていた生徒も、人狼と知れば掌を返したように彼を避けるだろう。
可哀想なことだが、人狼はどちらかといえば動物に近いものとして処理される。
ドラコを傷つけたヒッポグリフと同じように、人を傷つけようとすれば社会的に処分される。

ルーピンもそれについてはきちんと分かっていたのだろう。
でなければ、今年一年持つこともなかっただろうから。
最後の最後で気を抜いたのだろうか、まあそこは関係がない。

「まさか、ルーピン先生が人狼?」
「大騒ぎになるね」
「ダンブルドアは何を考えているのかしら!人狼を教師にだなんて!」

パンジーも怒っているらしい。
なまえはそれを軽く聞き流し、オレンジのお代わりを取ろうと手を伸ばした。
するとそれに気づいたのかオレンジの傍にいたドラコが取り分けてくれた。

「今の、聞いたか?なまえ」
「うん。なんだか大変なことになったね」
「こんなこと、父上が聞いたら!来年の闇に対する防衛術の先生はいい人が来ると良いな」
「そうだね。次もきちんと勉強を教えてくれる人だと良いね」

なまえとしては勉強をきちんと教えてくれる先生なら誰でもよかった。
たとえそれが人狼であろうと、なんであろうと。
ドラコはその言葉の意図に気づかなかったのか、なまえにオレンジの載った皿を手渡すと、他の人との話しに興じ始めた。

なまえは辺りを見回してみたが、皆ルーピンを罵るようなことばかりだった。
その言葉に飽き飽きして、隣のパンジーに声を掛け、先に大広間を出た。


暇があったので薬草を届けるために梟小屋に行き、部屋に戻った。
その際、いつもより多くの人とすれ違ったように思えた。
恐らくは、親に教師が人狼だったと報告するためだろうとなまえは考えた。

部屋につくと、すでにパンジーが戻ってきていた。

「あ、なまえ。先に出てったのに部屋にいないからどこに行ったのかと思ったわ」
「ちょっと用事があってよってたの」
「そう。…今日授業ないけど、なまえはどうするの?」

なまえは図書室に行って、薬学の本を写したい。
夏休みのうちに、自分で作れそうな薬を作って売ると決めている。
その下準備を今のうちからしておいたほうがいい。

「図書室に…」
「図書室?また勉強するの?」
「ううん…、普通に本読みたいだけ」
「なんだ…せっかく話を仕入れてきたのに」

パンジーの話は結構面白い。
今だと恐らく、ルーピンがどうなったのかとかスネイプ先生が何故あんなに不機嫌だったのかとかそういった裏話を聞けるだろう。
とはいえ、図書室には閉館時間というものがある。
逆にパンジーの話は夜でもいい。

「じゃあ、夕食後に部屋でその話、聞かせて。興味はあるの」
「分かったわ!それまでに色々また聞いとくから楽しみにしてて!」

少し落ち込んだ風だったパンジーだが、その話を聞いて嬉しそうに部屋を出て行った。
それをみて、なまえも部屋を出て図書室に向かった。

試験終わりということもあり、図書室には殆ど人はいない。
マダムがまた貴方?と言わん限りの視線を送ってきたのを視界の端に捕らえて、軽く会釈した。
なれた足取りで魔法薬学の棚に向かう。
作ろうと思っているのはポリジュース薬や生ける屍の水薬、真実薬などだ。
風邪薬などを作ってもあまり需要がないので、滅多に作れないようなものを作ろうと思っていた。

また、バジリスクの毒を使った解毒剤なども研究してみようと思っている。
そちらに関してはリドルが主にやりたいらしい。
そのために必要な資料を今のうちに写し、レポートにして夏休みに役立てたいところ。

いくつかの薬学の本を持ってなまえはいつもの奥まった場所に向かう。

「…あなた、なまえ・みょうじ?」
「…?そうですけど」

声をかけられたほうを見ると、ふわふわの栗毛の女の子が立っていた。
ネクタイカラーはグリフィンドール。
グリフィンドールの女の子がスリザリンに話しかけてくるのは珍しい。
男の子は喧嘩を吹っかけてくることがあるので、そう珍しくはないが。

なまえは不審げにその女の子を見た。
彼女はなぜか眉根をきゅっと寄せてなまえを睨むように見ている。
何かしただろうかと小首を傾げたが、後ろのリドルは楽しそうにくすくす笑っている。

「テストも終わったのに、図書室にいるなんて勤勉なのね…」
「え…?あ、ああ…ただの趣味のために読書をと思って…」
「趣味で、その薬学の本?…やっぱり私の認識が甘かったんだわ…」

まぁ趣味というよりかは仕事に近いのだが、それを言うわけにはいかない。
彼女は悔しそうにしているが、なまえは何がなんだか分からない。
リドルだけは愉快そうに目を細めてグリフィンドール生を見ていた。
なまえはこのグリフィンドール生を知らないが、リドルは知っているらしい。

『ははっ…いいざまだね』
「えっと。それで貴方は誰?」
「え…あ、ああ!ごめんなさい、ハーマイオニー・グレンジャーよ」
「あー…グレンジャーさん」

なるほど、ドラコたちが憎しみ蔑んでいたマグル生まれのグレンジャーさん。
なぜリドルが彼女を知っているのか疑問だが、何か自分と会う前にあったのだろう。

どうでもいいのだが、彼女と内容のない話をしている暇はない。
明日はセドリックとのお茶会の日であまり時間はないから、今日中にやることはやってしまいたい。

「あの、もういいですか?私、やることあるので」
「ええ…いいわ、呼び止めてごめんなさい」

少しきつい言い方をしたせいか、グレンジャーはあっさりとひいた。
なまえはその間に早足でいつもの場所に向かい、座る。
リドルがおかしそうに笑っているので、その事情も聞きたい。

「知り合いなの?」
『うん、2年生のときにちょっとね。彼女を石にしたんだけど…彼女はハリーポッターの友達さ』
「…そうなの」

彼女を石にしたとはどういうことなのかさっぱりだったが、一応納得した。
リドルの憎い敵、ハリーポッターの親友の1人らしい。
そういえばドラコから聞いた話だと、ハリーポッターはいつも3人で行動しているそうだ。
そのうちの1人があのグレンジャーということだ。

なるほど、昨日のテスト結果も彼らにとっては一入だろう。
大嫌いなハリーポッターの親友のマグル生まれに泥を塗った結果になったのだから。

「…どうでもいいな」
『なまえは随分残酷なことを言うね。彼女は勉強だけが取り柄だったんだよ。だからあんなにショックを受けてたんだ。いいざまだよ、本当に』
「結局のところ、私のほうがちゃんと勉強した、それだけでしょ」

リドルは残酷というが、それは本心からの言葉ではない。
この状況を楽しんでいるようだ。
なまえは別にグレンジャーの顔に泥を塗るために勉強したわけではないので、不本意である。
彼女がなまえに恨みを持つのは全くもって筋違いだ、元々なまえはグレンジャーなんて知らなかった。

勝手にうらまれるのは気分が悪い。
なまえは露骨に嫌そうな顔をした。

『まあね。なまえのほうが努力してたってだけだ。でも、今年でいきなり最下位からトップに踊りでたって言うのはちょっと不自然だからね。なまえは何もして無いけど』
「なるほど…ちょっとやりすぎたかな」
『でも間違いなく不正はないんだから、誰も何もいえないと思うよ。ほっとけばいい、来年も同じ成績なら誰も文句は言えないだろうしね』

リドルはさらっとそういって笑っていた。
来年も1番が取れるかは定かでないが、また同じように頑張ればいい。
結局、マグル界も魔法界も同じだ、努力すればきちんと成果を実らせる。

そうだと分かれば問題ない、次も好成績を残そう。
しかし、目立ちすぎて恨みを買うのは避けたいので適度にしよう。
なまえはそう来年の計画をたてるのだった
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