29.あんそくのゆめ
テストは何の問題もなく始まり、問題なく終わった。
闇の魔術に対する防衛術の実技テストが厄介だったくらいで、他は大して問題なかった。
その実技テストには、おいでおいで妖怪やまね妖怪が含まれていた。
前者は兎も角、後者ではまた嫌な思いをした。
2度目なのでもう何も見ないように対抗呪文を唱えたものの、ちらりと視界の端に写った両親が全く不快だった。

しかし、他の筆記や実技はほぼ完璧といって良いほどの出来だ。
なまえもリドルもテストの結果が楽しみだった。

テストの結果は成績優秀者だけ貼り出される、主に上位100名ほどだ。
しかし、普通に毎年梟便で通達が来ていたので、貼り出されるほうは見ない方針だった。
貼り出されるほうは毎年寮を問わず皆見に来るため、込み合うのだ。

部屋で勉強には関係のない趣味の本をのんびりとなまえは読んでいた。
サイドデスクにはティーセットとお菓子があり、優雅なひと時を思い立たせた。
しかし、それもすぐに壊される。

「なまえ!なまえなまえなまえなまえ!!ちょっと!!!」
「…何?パンジー…」

テンションのおかしくなっているパンジーが合図もなしにカーテンをしゃっとあけた。
なまえは眩しそうにそちらを見て静かに問う。
パンジーもなまえの声音が不機嫌そうなのに気づいてすぐに謝った。

「ごめんなさい…でも、来て!」
「ええ…?なんで…」
「貴方の成績のことよ!ほら、早く!」

パンジーは渋るなまえを急かしたてて部屋から連れ出した。

興奮しているパンジーに連れられて、着いた先は大広間の隣の大きな壁の前。
そこにはたくさんの人が溜まっていて、なまえは更に眉根を顰めた。
しかしパンジーはそのなまえの様子に気づいていないのか、興奮したまま指差す。

「ほら、なまえ!見てよ!」
「…パンジー、私が人ごみ嫌いなの知ってるでしょ…?」
「ええ、知ってるわ!だからこんな遠くからなんじゃない!とにかく、ほら、見える?」

一応パンジーは廊下の一番端のほうから成績発表の紙を見ていた。
なんなのだろう、となまえはパンジーの指差す先を見た。

指差す先にあるのは無論、成績発表の紙。
それの一番上、つまりは1位の場所になまえの名前が書いてあった。

「…あら」
「あら、じゃないわよ!なまえ、あなた1番なのよ!?」
「はー、頑張った甲斐があった。…じゃあ私部屋に戻るね」
「ちょっと!?それだけ!?」

なまえの点数はすべての教科が100点以上であろうことを示していた。
きっと魔法薬学が一番好成績なのだろうがここからでは分からないので、後は本当に通知を待つのみだ。
勉強すればきちんとできる、ということが実証されたためなまえは少し安心していた。

もしあれだけ勉強して点数が悪ければ、それは自分に魔法の才能がないということ。
別に英語が分かろうが分かるまいが、魔法の才能がなければこの世界にいるのは辛いと思っていた。
だが勉強すればできる、才能がないわけではないということがこれで分かったのだ、このまま自分は魔法界にいていい。
それだけ分かればよかったので、なまえは成績の順位なんて興味はなかった。
まあ、上位であるのは嬉しいが、そう騒ぎ立てるほどのことでもない。

「そんなこと言われても…とりあえずもう寮戻ろうよ。お茶の最中だったし…」
「もう!だって1番なのに…!…あーもういいわ、分かった!寮に戻りましょ。それで、お茶でもしながら成績アップの秘訣を聞く。それでいいわ」
「秘訣って言っても努力あるのみ、としか…」

ややヒステリー気味だったパンジーも諦めたらしい。
なまえは特に喜ぶでもなくけろっとしていて、もうすでに人込みに酔い始めているらしく、眉根を顰めて俯いていた。

寮に戻ると、なまえは逃げるように部屋に戻ってしまった。
談話室に居れば何かしらの質問を受けるだろうと見越したのだ。
部屋に戻り、パンジーと少し話をした。

成績をよくするには、ということを延々と聞かれたが、パンジーも知ってのとおりなまえの場合は努力あるのみだ。
毎日のように図書室に通っていたなまえのことを知っているパンジーは、それを言われてしまうと何もいえない。

「もー、来年はたまに私の勉強も見てね」
「いいけど…私基本的に1人で勉強したいから、たまにでよければ」
「知ってるわよ…そんなこと。知らなきゃ聞けたんだけど…なんだか一生懸命頑張ってるみたいだったし」

パンジーはパンジーなりに遠慮していたらしい。
来年はきちんとパンジーのことも考えてあげようとなまえは誓うのだった。

とりあえずお菓子をとりに行こうと部屋を出て、談話室を通ると待ってました、と言わん限りにドラコ、ザビニ、図書室で会った彼に出くわした。

「なまえ、成績発表見たか?お前、1位だったぞ…!」
「ああ…パンジーに連れられて見にいったわ…」

ザビニが嬉しそうにそういってくるのを、なまえはうんざりした様子で対応した。
隣のドラコも内心は嬉しいのかにやにやしている。
2人とも自分が取ったわけではないのに、かなり嬉しそうだ。

曰く、1,2年の間はスリザリンの敵、グリフィンドールのマグル生まれがずっと1位だったらしい。
そのため、スリザリンはそれにイライラしていたのだ。
それが今年翻ったということがあり、皆嬉々としているらしい。
クディッチでは負けたが、テストで巻き返した!ということのようだ。

「(私もマグル生まれなんだけど…)そんなに喜ぶこと…?」
「当たり前だろ!あのグレンジャーを負かしたんだ、これであいつも少しはへこたれただろうな!」
「…その子も頑張ってただろうに…」

その子はグレンジャーというらしい、こんなにのけ者にされて可哀想に。
なまえは暢気にそんなことを考えつつ、目の前のテーブルにあったゼリービーンズに手を伸ばした。
少しだけリーチが足りずに、もどかしい思いをしていると、それに気づいた名前を知らない彼が取ってくれた。

「あ、ありがとう…」
「…セオドール・ノットだ」
「え…あ、なまえ・みょうじです…」
「知ってる、ブレーズから聞いた」

皿ごとなまえに持たせて、ノットはなまえをじっと見た。
吃驚して皿を落としそうになるのを何とか留めて、なまえもおずおずとノットを見る。
ドラコやザビニはグリフィンドールのグレンジャーの嫌味に夢中だ。
もう帰って良いだろうかと思うのだが、ノットが目を離してくれない。

「…何やってるの?」
「綺麗な色だと思って」
「セオ、お前その人の顔じっと見る癖どうにかしろよ!なまえ怯えてんじゃんか!」

なまえが怯えて後ずさりしたことで、後ろにいたパンジーが気づいた。
不審げにノットを睨み、なまえを自身の後ろに隠す。
パンジーの声で漸くお目付け役のザビニがノットを叱り付けていた。
ノットに悪気はなかったのか、ごめん、と謝っていた。

「…はぁ、吃驚した。もう私部屋戻ってもいい?」
「ああ、悪いな。セオも悪気はないんだ、許してやってくれ」
「うん、分かってる。またね、ノット、ドラコ、ザビニ」
「ああ、また夕食に」

なまえは部屋に戻ってベッドに飛び込んだ。
なんだか色々あって疲れてしまった、夕食まではまだ時間がある。

「なまえ、寝るの?」
「うん…」
「分かったわ、私、他の部屋に行ってくるわね。おやすみ」

パンジーは気を使ってか、それともまだ成績発表について話足りないのか、部屋を出て行った。
とりあえず服を脱ぎ、着替えてベッドにもう一度飛び込んだ。
ベッドで寝そべっていると、毛布がかけられた。
ふと、ベッドサイドを見るとリドルがいるらしい。

「ん…リドル?」
「うん。温かくなったとはいえ、何もかけずに寝たら風邪引くよ」
「ありがと」

相変わらずリドルは面倒見の良いお兄さんだ。
リドルのお陰で成績もよくなったし、友達も出来た。
彼には感謝しても仕切れない。

じっとリドルの足を見ていると、上からリドルの掌が降ってきた。
わしゃわしゃと髪を撫でられているようだ。

「…なぁに?」

甘えっぽい声が出た、そういえば最近勉強ばかりでリドルと会話してなかったかもしれない。
くすくすと笑う声が降ってくる、少し恥ずかしくなって手元の毛布を鼻の辺りまで引き上げた。

ぎしっとベッドが軋む音がする。
ベッドの端にリドルが座ったようだ。

「テスト、1番だったね。おめでとう。よく頑張ったよ」

そっと優しく髪を撫でる手が頬に降りてくる。
細く冷たいリドルの指が、薄いガラスを撫でるようになまえの頬を撫でた。
いつもなら嫌だと思うその行為も、今日はそう思えなかった。
その手が優しさと思いやりで溢れているのか、それとも眠いからかは分からない。
どっちもかもしれない。

褒められたことが嬉しくて、照れくさそうに笑う。

「リドルのお陰。ありがとね…来年からもよろしくお願いします」
「もちろん。結構なまえのこと気に入ってるんだ。当分離れる気はないよ」

ほわほわと温かい気持ちになる、心地よい眠気とバリトンの声。
おやすみ、と小さく言われてぼんやりとした意識さえも放り投げて。

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