27.スリザリンのあさ
寮はお葬式のような暗い雰囲気だった。
これは見覚えがあった、1,2年のときもこの雰囲気になったことはあった。
なるほど、クディッチが原因だったのだとなまえはようやく気づく。

試合を見ていたこともあり、その落ち込みように感化されたのかなまえまで落ち込み始めた。
談話室に居づらくて部屋に戻ったが、そこもどんよりとした空気で満ちていた。

「ああ、なまえ。試合、観にいってたの?」
「うん、残念だったね。ドラコ、頑張ってたのに」

戸惑いつつも部屋に入ったなまえに気づいたパンジーがカーテンを開ける。
いつも元気なパンジーが本当に落ち込んでいるので、なまえは更に気が重くなった。
スリザリンの席に居なかったのだから、なにか言われると思って身構えたが、そんなことはなかった。

パンジーはその反応にほっとしている様子には気づかず、話を続ける。

「そうなの、だからドラコすごく落ち込んでて…」

やはりドラコは落ち込んでいるらしい。
励ましてあげたいのは山々なのだが、なんて声をかければいいのか分からない。
パンジーが励ましたって元気を取り戻さないのだから、なまえが何か言っても無駄だろう。
なまえはベッドに座り、ぼんやりと考えた。

『なまえ、もう遅いから寝たら?』
「うん…」

明日ドラコになんていおうか悶々と考えるなまえにリドルが声をかけた。
久しぶりに人の多いところに行ったのだ、なまえも自覚していないとはいえ疲れてる。
早めに寝て疲れを取ったほうがいい、お世辞にも身体が強いほうではないのだ。

なまえも疲れていると思ったのか、すぐにベッドにもぐりこむ。
直に暗くしたカーテン内からはなまえの安らかな寝息しか聞こえてこなくなった。


次の日、なまえはひとりでに起き、部屋を出た。
髪も結ばず、本だけを持って談話室に向かう。
朝の早い時間なので談話室には誰も居なかった。

「悩んだときってあんまり眠れないよね、ドラコ。おはよ」
「…おはよう、なまえ」

暖炉の前のソファーを独り占めして本を読んでいると、男子寮からドラコがやってきた。
なまえの挨拶しか聞こえていなかったのか、挨拶だけに返事をした。
これはなまえの体験談だが、落ち着いていない時や悩み事があるときは寝つきが悪くて、目が覚めやすい。
もしかしたら、ドラコが朝早く談話室に現れるかもしれない。

とはいえ、言うことは全く決まっていない。
無計画だが、まあ1人で悶々と考えるよりもきっと2人のほうが良いだろう、ドラコにとってもなまえにとっても。

「なんでこんな時間に…」
「あんまり寝つきよくなかったの、ドラコもそう?」
「まあ…そんなところだ」

そんななまえの気など知るよしもないドラコは不思議そうになまえを見ていた。
なまえも普段そんなに早起きというわけではない。
朝食だってぎりぎりの時間に行って、ちょっと食べて出て行くくらいだ。
それはまあ身だしなみに時間がかかっているだけなのだが、それこそドラコの知るよしもない。

「そういえば、昨日ハッフルパフの席にいただろ」
「…よく分かったね。スリザリンで観てもよかったけど…あの熱気はどうもダメで…」
「確かにダメそうだな。ティゴリーに誘われたのか」
「うん。いい加減クディッチ、観てみようと思って」

シーカーというのはスニッチを探すためにさまざまな場所をくまなく見る。
そのため観客席を見ることもある。

偶然ハッフルパフの席になまえを見つけたときは驚いた。
なまえのあのおっとりした性格とか、人見知りの感じなどでランにクディッチ観戦は向かないだろうとは思っていた。
だからいつも見に来ないのに納得していた。
そのなまえがまさか、ティゴリーの誘い1つでクディッチを観戦するとは。

どこかもやもやする気分を抑えつつ、ドラコは話を続けた。

「どうだった?初めてのクディッチ観戦」
「うーん…思ってたよりかは悪くないかも。人が多いのには辟易だけれど、観戦に熱中しちゃえばそんなに気にならないから」

確かに、観戦に夢中になっていれば周りなんて気にならないだろう。
それはどんな魔法使いだってそうだ、クディッチはあの素早い試合運びが見所。
観戦中はフィールドから目が離せない。

「とにかく、凄いの一言しか言えないかな。私、箒は苦手だからあんなに早く飛べるの、羨ましいよ。楽しかったし、また観に行く。…試合と関係のない寮でね」

穏やかに微笑んでそう言うなまえにドラコは頬を赤くした。
感情の起伏があまりないなまえが笑う姿など滅多にない。

元々綺麗な顔をしているのだが、普段は殆ど無表情で澄ましたような感じなので可愛いとは思われにくい。
まさか笑顔1つでこんなに印象が変わるとは思わなかった。
言葉を無くしたドラコを、なまえは不思議そうな顔で見ていた。

「ドラコ、大丈夫?」
「っあ、ああ…」
「そう、よかった。パンジーがね、ドラコ、元気ないって落ち込んでたから。少しでも元気になってもらえたらなって思ったの」

ドラコが元気になるとパンジーまで元気になるんだよ、不思議だね、とのんびり笑うなまえがちょっぴりおかしくて笑えた。
鈍感ななまえだからこその発言だ。
他の誰かじゃできない、なまえだけにしかできない。

今までなまえに酷いことを言ってきたけれど、彼女は気にしていないんだろうか。
前に一度は謝ったものの最近不安に思う、…なまえはそんなこと何も気にしていないかのように見えるが。
掘り返すのも嫌だ、でも謝らないでこのままというのも気持ちが悪い。

「なまえ、その…今まで悪かったな…」
「え…?あーうん、大丈夫。分かってなかったから。ほら、私、英語圏の人じゃないから、そっちのジョークとか嫌味とか殆ど理解できてないんだよ。気にしてない」

一瞬、何のことだか分からなかったようで、なまえはきょとんとしていた。
しかし、思い当たる節があったのか困ったように笑ってそう言った。
なまえはアジア系の顔立ちだ、英語だってそう上手ではなかったのだろう。
翻訳魔法をかけていなければ、ジョークや嫌味は全く理解できなかっただろう。

ドラコは少しほっとした。
本当にひどいことを言っていたのだ、なまえが知らなくてよかった。

「ん?なんだ、珍しい組み合わせだな」
「おはよう、ザビニ」
「はよ。珍しいなーみょうじがドラコと、ね」
「煩いぞ、ザビニ。余計な詮索は無用だ」

気がつけば大分時間がたっていたようだ。
男子寮のほうから出てきたのはブレーズ・ザビニだった。
彼はドラコの同室だが、ドラコとあまり馬が合わないらしい。

ランもあまり話したことはないが、さばさばした性格の人だということだけは知っていた。
しかし、その程度である。

「ふぅん、まあいいけどな。んで?お坊ちゃんは機嫌、直ったのかよ」
「煩いって言ってるだろ!お前こそ、こんな朝早くになんなんだ」
「ほほー、随分元気になってんじゃん。それと、俺は元々朝早いの。いつもお前が起きたころには俺いないだろ」

なまえの目の前で繰り広げられる痴話喧嘩をなまえは欠伸1つして見守った。
ザビニはにやにやしながらドラコを茶化し、ドラコはそれにいちいち食って掛かる。
ドラコも食って掛かるのをやめればいいのに、やめないからヒートアップしていく。

険悪なムードになりかけたころ、他の先輩たちも起きてきて、あほらしいことはやめろ、と一蹴。
先輩に言われてはドラコもザビニも何も言えず、ようやく大人しくなった。

「んでさ、みょうじ。俺もなまえって呼んでいい?」
「いいよ」

なまえの隣に座ったザビニが突然話を振ってきた。
今まで蚊帳の外だったなまえは驚いたが、こくりと1つ頷いて答える。
なまえの反対隣のドラコは若干不機嫌そうだ。

ある程度の距離を保って座ってくれているから良いものの、少し落ち着かない。
早くパンジーが起きてくることを祈りつつ、小さくなりながら話を続けた。

「なまえってアジア系だろ?どの国からきたんだ?中国か…そっちのほうな感じするな」
「あ、うん…大体あってる。日本出身」
「おお、日本か。随分遠いとこから来たな。こっちじゃ日本もどこかわかんねえ奴らいるもんな」

日本が分かるということに吃驚したが、聞けばザビニの父親の1人が日本人だったらしい。
なにやら複雑な家庭環境があるらしいが、そこは聞かないでおいた。

ザビニは終始さまざまな話をしてくれた。
純血主義らしいのだが、スリザリン寮内ではあまり争いごとを起こしたくないのだとも言っていた。
恐らくそれはドラコも同じだろう。
なんだかんだでスリザリンにもそんなに悪い人はいないのだ。
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