25.春色の図書室
生徒たちがイースター休暇中、なまえは勉強をし続けていた。
今までできていなかった分はほぼ完璧になった。
何より、なまえは案外魔法が好きだった。
今まで理解できずにちんぷんかんぷんだったものが、今ではすんなり頭に入る。

テスト期間前でも図書室に入り浸り、さまざまなジャンルの本を読み漁った。
元々読書好きなリドルもそれに混じって最近の本を読めるので、なまえのその趣味に近い行動は嬉しくあった。

今日も、なまえは1人図書室に向かった。
テスト前ということもあり、いつもはそんなに人のいない図書室も人でにぎわっている。
なまえは日当たりの悪い一番奥の机で、勉強を始めた。
苦手な古代ルーン文字学をせっせと勉強する、嫌いではないのだが文法が難しい。

『なまえ、そこ語形変換できてないよ』
「あ…うー、こう?」
『そうそう。なまえはコツをつかめれば大丈夫だよ。応用もできるし』

人気のない場所ということもあり、時々リドルが出てきて手を加える。
なまえとしてはリドルの力を借りては、テストで好成績をとっても後ろめたいという思いがある。
しかし、魔法薬学は殆どリドルに教わってしまったし、闇に対する防衛術も然り。

そこでなまえは考えた、別の教科もリドルに教えてもらった教科と同じくらいの点数が取れれば、自分の実力ということになるのでは?と。
そのため、リドルに教わった2つ以外を重点的に勉強している。

「あれ?なまえ、こんな奥まったところに…向こうとか、空いてるよ?」
「セドリック先輩…いえ、ここが落ち着くんです。静かですし」
「そう?ちょっと良いかな?」

なまえが天文学に手をつけ始めたころ、ひょっこりと現れたのはセドリックだった。
彼も腕に多くの本を抱えていた。
なまえと同じように勉強をしにきたのだろう。

なまえはセドリックに椅子を1つ譲り、奥に詰めた。

「ありがとう」
「いいえ。それで、何か…?」
「今度のグリフィンドールとスリザリンの対戦、見にいかない?」
「クディッチの、ですよね…」

今週末は確かにクディッチの決勝戦がある。
スリザリンも出ているのだが、如何せん人が多くて見る気になれなかった。
なにより、スリザリンの姑息な手口は見ていて気持ちの良いものではないし、それを応援する気になどなれなかった。

しかし、せっかくセドリックが誘ってくれたのだ。
少し前にも、来年はハッフルパフの試合を見にいくと約束した。
それの前練習だと思っていくのも悪くはない。

「…そうですね、ハッフルパフの観戦席でなら、いいです」
「本当?助かるよ、流石にスリザリンの席は行き辛いから…」

セドリックはもしなまえが言うのであれば、スリザリンの観客席で見るつもりだったらしい。
ほっとしように微笑んだ。

勉強もその日一日休んだくらいでは問題ない。
その後1週間以上、テストまでに期間があるのだ。

「なまえはスリザリンを応援するの?」
「いえ…どちらを応援する、というよりは観戦を楽しむほうを重視で…。それに噂に聞いている限りでは、スリザリンを応援する気にはちょっとなれません…」
「なるほどね…まあ、それもスリザリンの手も戦略といってしまえばそれまでなんだけど…」

複雑そうな顔で言葉を濁すなまえにセドリックは苦笑した。
セドリック自身も選手としてスリザリンのプレイは気に食わないが、それを表立って言うことはない。
それも戦略、自分たちのそれと違うだけ。

しかし、スリザリン生であるなまえがスリザリンのプレイを疑問に思っていてくれているのは嬉しかった。
気に食わないのは他寮の生徒だけではないのだ。

「じゃあ、試合の日にエントランスで待ってるよ。…ごめんね、スリザリンまで迎えに行くべきなんだろうけれど」
「いいえ。騒ぎになると面倒ですから、大丈夫です」

気遣い、ありがとうございますと丁寧に御礼をするなまえに、ついセドリックまで畏まってしまう。
なまえは奥ゆかしく謙虚だ、それこそこちらが気にしてしまうほどに。
苦笑をしつつ、セドリックはなまえの隣を離れた。
なまえの机に散乱している本から見ても、彼女がテスト勉強をしているのは確かだ。

1,2年生のときからなまえは一生懸命勉強をしていたことをセドリックは知っている。
いつも図書室に行けば彼女はいる。

この奥まったところか、人気のない時は日当たりのいい窓辺の席。
一年中、いつ見ても図書室で本を開いて、とても難しそうな顔で、そしてなにやら慣れない様子で字を書いていた。
疑問に思うことも多々あって、何度か大丈夫かと聞いたことがあるが答えはいつも、大丈夫。
苦しそうな顔を無理に引きつらせている姿は痛々しくて見ていられなかった。
でも、毎年テストの結果は悪くて、いろんな人に馬鹿にされて、きゅっと唇をかみ締めてそれに耐えていた。

何とかなまえのことを助けてあげたくて、でも自分のふくろう試験に手一杯でなかなか手助けできなかった。だからせめてもと思って、自分が1,2年生のときに使っていた参考書をあげたりしていた。
その度に、なまえはすまなそうに御礼をしていたのを思い出す。

今はちっとも苦しくなさそうで、楽しんで勉強をしてくれているみたいだ。
なんだか今まで見守ってきた小さな花の蕾が開いたような気分だった。
ほっとすると同時に、その可憐さに見ほれるというか。

「セドリック?どうしたよ、顔真っ赤だけど。もしかして、例の彼女となんかあったか!?」
「ないよ!というか声が大きい!」
「おま…ないってそんな大声で言って虚しくないか…?」
「誰のせいだ…!」

席に戻ると、同級のやつが声をかけてきた。
なまえのことを考えているうちに顔が赤くなっていたらしく、そこをからかってきて、つい大きな声を出してしまった。
マダムに睨まれたのですぐに座り、身を縮める。
こういう時に背が高いのは不便だ、すぐに目立ってしまう。
やや八つ当たり気味に同級に文句を言って落ち着いた。

今年はなまえに大分接近できている気がする。
それがとにかく嬉しい。
また明日も、彼女と話ができるだろうか。
クディッチの試合がない今、それだけが楽しみだ。
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