23.ひかりのゆくすえ
髪も結び、服も着替えた。

届けられていたプレゼントは4つ、ティゴリー、パンジー、マルフォイの3人からだった。
ティゴリーからはマフラーと手袋、パンジーからは可愛らしいモチーフの付いたネックレス、ドラコからはブックカバーだった。
なまえはそれらを丁寧にしまって、4つの目のプレゼントを見る。

宛名だけが書かれたそのプレゼント。
リドルが魔法で呪いがないか確認している時にはらり、とカードが落ちてきた。
なまえがそれを拾おうとすると、リドルがその前に拾ってなまえに手渡す。

「特に呪いはかかってないよ。あけて平気」
「ありがと…誰から…あーああ、なるほどね…」

誰からだろうかとカードを見ると、そこには犬の足跡がぽんと押されていた。
名前を書かなくても誰だかわかる。

「あの人、お金あるんだね」
「ブラック家といえばかなりの富豪だよ」
「ふぅん…中身、なんだろ」

犬の格好で完全なホームレス状態…というより指名手配の身なのに暢気だ。

中身は可愛らしい靴と2冊の本だった。
さすがずっと犬であったこともあって、足元が気になったらしい。
黒の靴にはアクセントにリボンが付いていて可愛い。
サイズがぴったりだったことに驚いた、そんなに足を見ていたのか。

本はどこから持ってきたのか、古めかしい禁書のようなもの。
内容は薬草についてのものと、薬学についてのものだった。
こちらはリドルすら驚くような内容で、彼のほうが喜んだ。

プレゼントを片付け終え、昼時よりも少々早いが大広間に向かった。
殆ど誰もいない大広間で1人食事を取り始める。
しんと静まり返った大広間で1人黙々と食事をしていると教員たちが現れた。

「まぁ!1人で食べていたのですか」
「いけませんでした?」
「そう言うわけではありませんが…」

大広間で1人食事を取っていたなまえを見つけると、マグコナガルが驚いたようにそういった。
なまえはどうでもよかったので簡単な返答をすると、何か言いたげだったが押し黙った。

『なまえ、ダンブルドアが見てるから気をつけて。翻訳魔法がかかってるってばれると面倒だ』

教師陣の中にはダンブルドアもいた。
なまえはリドルの警告どおり、その後は一言も喋らずに食事をした。
喋ったのは1単語だけなので、翻訳魔法がかかっているとは思わないと思う。

しかし、最近のなまえの躍進に関しては耳にしているだろう。
今まで英語ができずにドベだったなまえだったが、今は失敗も少ない。
ドベであり続けることは簡単だが、なまえは少々意地になっている面もある。
なまえは自分を捨てたことを見返してやる、という思いなのだろう。

なまえがデザートに手を付けるかという時に、他の生徒が現れた。
ノエル・ド・ブッシュを切り分けているなまえの隣にはスリザリンの5年生が座った。
しかし、会話もなくなまえはもくもくと食事を続ける。
ダンブルドアがメリークリマス!などといいながらクラッカーを鳴らすのを無視して、切り分けたケーキをほおばる。
甘党ななまえはその他にもミンスパイやケーキを食べられて満足気だ。

皆がチキンに手を出し始めるとほぼ同時になまえは席を立った。

「おなかいっぱい…」
『あれだけ食べればね。少し休んでから森に行く?』
「…外に行こうっと」

なまえは警戒しているのか独り言を言っているように見せているようだ。
用心するに越したことはないと思っているのだろう。

いつもどおりキッチンでチキンを貰って、森へ向かう。
さながら赤ずきんのようだ、被っているフードは黒だが。
持っていた鞄からティゴリーに貰ったマフラーをつけて、森に向かう。

いつもの場所に行くと犬が既に待っていた。
なまえの姿を見るとぱたぱたと尻尾を振り、カゴをしきりに気にしている。

「はいはい、ご飯だよ。あ、プレゼントありがとう」
「わん!」
「ここで使うと汚れちゃうし、学校用にするね。ケーキしかあげてないのに…」

カゴをあけて、犬にチキンを与える。

なまえからすると犬の面倒を見ているのは薬草摘みのついでである。
それだというのに、高価なプレゼントを貰ってしまって恐縮しているらしい。
犬は喜んでもらえたと満足気だったのだが、なまえが申し訳なさそうにしているのでそれにつられて申し訳なさそうにした。
あほらしすぎるのでリドルが口を挟む。

「逃走援助してるんだしいいんじゃない?」
「リドル、出てきていいの?」
「うん。といよりなまえは気にしすぎ。人の好意…ああ、犬だったね。犬の好意なんだしほっときなよ」
「…そうなの?」
「わん」

チキンを食べ終えなまえの足元に横たわっている犬が、吼える。
気にすんなといわれているような気がしたので、なまえもそれ以上は追及しなかった。

そのあとは犬と戯れつつ薬草を摘み、日が暮れる前に学校に戻った。
人が少ないからかしんと静まり返った廊下を1人歩いていた。
雪がちらちら舞っていて綺麗だ。

「やあ、なまえ、いいクリマスじゃの」

外ばかり見て気が散っていたので廊下に人がいることに気づかなかった。
…その人がダンブルドアだともっと早く気づいていれば廊下を引き返していたのに。
リドルも迂闊だったといわんばかりの苦渋の顔である。

とりあえずなまえはだんまりを決め込むことにした。
口は災いの元、何も分かっていない振りをしておこう。

「喋れない振りかね?さすがスリザリンじゃ」

卑しい口調になまえは眉根を顰めたくなったが、ぐっとこらえて何も分からない振りをし続けた。
その隣でリドルは憎しみの目でダンブルドアを見る。

「誰にその翻訳魔法を掛けてもらったのかね?わしが聞いたところでは教員ではないようじゃが」

教員にも根回ししているらしい。
ダンブルドアのほうがよっぽどスリザリンらしいとなまえは思ったが、口にはしない。

翻訳魔法がかかっていることはもうばれているらしい。
しかし、なまえとしてはダンブルドアと話したくなかった。
養子縁組もされたかどうか分からない、お金は本当に教育費だけで自分を捨てた人。
過去の古傷を抉られたような気分だった。

「どこに住んでいるのかね。漏れ鍋ではないじゃろうからの。ノクターンかね?」

なまえはぐっと小さな掌を握ってこらえた。
何がしたいのだろうか、この男は。
なまえに養育費も与えずに捨てたのはこの男で、なまえは仕方がなく身1つでノクターンで生活しているのに。
ノクターン以外になまえを受け入れてくれるところはなかったのに。

リドルはそこまで考えて、不思議に思った。
なまえを闇に接触させないために言葉を奪ったのであれば、ノクターンに行くような事態になるのは不本意なはず。

「やはりかね。やはりお主のような人は闇に走る運命なんじゃな。わしが手を差し伸べても」

…漸くその言葉で気づいた、この男相当狂ってる。
なまえはその発言に吃驚して、恐怖を覚えたようだ。

リドルも気味悪く思った。
この男は自分の過去の失敗に関して、自分のせいではないと思いたかったらしい。
僕で失敗した、しかしそれは彼が生まれ持って闇を抱えていたからそうなった。
僕と同じような境遇のなまえも同じようになった、自分は悪くない。
自分を擁護するためだけになまえを捨てた。

リドルがそう考えていると、なまえが口を開いた。
無垢な桃色の唇が、歪む。

「…貴方に手を差し伸べる人はいなかったんですね」

その言葉にダンブルドアは凍りついた。
何もいえない様子なのでなまえは一言、失礼します、とだけ言って彼の隣を通り過ぎた。

なまえはダンブルドアの目に付かない場所まで来ると、走ってスリザリンの寮へ逃げた。
寮の自室に付くや否や、部屋に鍵をかけ、しゃがみ込む。

「っは…気持ち悪い…なに、あれ」
「…同じ気分だよ。最悪だ。あいつ、なまえのことを道具か何かとしか思ってない」

全力疾走したせいか、なまえは呼吸を整えるので精一杯だ。
途切れ途切れの言葉の端々には嫌悪感と哀れみが篭っていた。
なまえはがたがた震えて蹲ってしまっているのを見て、リドルが近づく。

「なまえ、触るよ。ベッドに行こう、そこだと冷える」

リドルはなまえの膝の裏に手を通し抱きかかえる。
びくっと身体を震わせたなまえだが、その後は大人しい。
ベッドに降ろすとなまえは毛布を被って震える。
よっぽど怖かったのだろう。

「大丈夫、なまえには僕が付いてるから。なまえは闇に走ってるわけじゃない」
「うん、分かってるよ。気持ち悪かっただけ…あの人に育てられなくてよかった」

杖を振り、温かい紅茶をだしたリドルは優しくそう言う。
なまえはどこか安堵したようにそういった。

闇の帝王の過去がリドルなのであれば、よっぽど闇にいたほうがまともなのではとすら思う。
光を追い求めすぎてああなったダンブルドアなどには付いていきたくない。


ひかりのゆくすえ

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