その日は朝から雪が降っていた。
寮内はとても静かでしんとしていた。
なまえと同室の子たちは皆実家に戻っていていないので、リドルも部屋で好き勝手することができた。
だから実体化して本を読んだりなまえと遊んだりして、クリスマス休暇を有意義に過ごしていた。
「なまえ、起きて。ほら、クリスマスだよ」
リドルは過去にこんなクリスマスを送ったことはなかった。
別にクリスマスだからといって何をするわけでもない。
普段よりもいい食事ができるという程度の日だった。
しかし、今年からはなまえとともにクリスマスを過ごせる。
1人ではなくて、2人で。
なまえのベッドの周りにはいくつかのプレゼントが置かれていた。
そんなに数はないが、それでもなまえは喜ぶだろう。
「ん…、んぅ…」
「今日は随分とよく寝てるね」
普段なら声を掛けただけで起きるなまえが今日は随分とぐずっている。
同室に誰もいないことに安心したのか、寝つきもよかった。
しかし、あまり遅くなれば朝食どころか昼食まで食べ損ねてしまう。
「…おはよ、」
「うん、おはよう。顔洗ってきなよ」
その後何度か声を掛けると漸くなまえは被っていた布団からもぞもぞと這い出てきた。
ぐしぐしと目をこするなまえを洗面台のほうに誘導してから、ベッド周りを整え、櫛を用意する。
「ああ、今日はクリスマスなのね…」
「そうだよ。はい、これは僕からのプレゼント」
「…どうやったの?」
「結構失礼だよね、その質問」
なまえとしては記憶である僕がどうやってお金を工面したかと聞きたいのだろう。
何度も言うが、僕は一応生きていて(といっても今は微妙なラインだが)お金はそれなりにある。
更に最近は便利で、通販があるのだからやろうと思えばプレゼントはできる。
プレゼントは髪留めだ。
なまえのふわふわの黒髪を結ぶために何種類か買っておいた。
バレッタやピン、ヘアゴムも飾りが付いたものが数種類。
まあ主に僕のなまえの髪を結びたいという欲からできたプレゼントである。
「綺麗…今日これ使っても良い?」
「もちろん。どれがいい?」
狙い通りなまえは髪を結んで欲しいと頼んできた。
最近は寒いからとあまり髪を結ぶことがなかったのだ。
小さな手の中でころころと髪留めたちを転がして選ぶなまえの後ろ髪を梳かす。
「これがいい」
「これね。後ろ髪は少し残そうか?寒いだろうし」
「うん。寒いのはやっぱり苦手」
なまえが選んだのはシックな大きな黒いリボンのついたバレッタだった。
寒くないように首もとの髪を多めに、横髪も残して結んだ。
首もとのぬくもりになまえも満足気だった。
髪を結んでもらったなまえは、サイドテーブルの引き出しを開ける。
そこから小さな箱を取り出す、綺麗に包装されたそれをリドルに手渡す。
「これ、リドルに。多分役に立つと思うんだ」
「…ありがとう、開けていい?」
なまえから手渡された箱には、ピアスが2セット入っていた。
同じデザインのもので、赤い石が嵌っている。
「…2セット?」
「それね、何かを仕舞う物なんだって。2人で使うとそれを共有できるらしいの。しまうものは魔力でもいいって。私から離れられないのは不便だと思って」
「つまりは、これになまえの魔力を籠めておいて僕となまえでそれを共有するってことか」
「そう」
どこで手に入れたのだろうと若干気になる品物だった。
しかし、これは便利である。
リドルとしても媒体があれば非常に楽だし、無駄がない。
「ありがとう、すごく嬉しいよ」
「うん、よかった」
リドルが照れくさそうに笑うと、なまえは満足気に笑った。
冷たい銀の感触が耳に触れる。
そこでふと気づいた。
「なまえ、そういえばピアスホールないよね」
「うん。だからリドルにあけてもらおうと思ってた」
ベッドの脇に置かれていたプレゼントたちをベッドの上に移動させていたなまえはさらっとそういった。
最初からそのつもりだったのだろう。
リドルは自分のピアスを耳に付け終えるとなまえに向き直った。
「じゃあ今やってしまおうか」
「簡単にできるの?」
「うん、そんなに痛くもないよ。魔法でやってしまうから」
なまえが怖くないように杖を持ち、耳に少しだけ触れる。
一瞬の痛みになまえは驚いたように身体を震わせたが、それ以外は身じろぎひとつしなかった。
止血もして、ピアスホールを安定させてからピアスをそこに通した。