21.ゆきのひのまぼろし
その後は何事もなく過ぎた。
試合が終わってすぐの頃はマルフォイがポッターを詰ったりしていたが、それも飽きたのかいつの間にか無くなった。
特筆することといえば、魔法薬の授業中にウィーズリーがマルフォイに鰐の心臓を投げたり、病欠していたルーピン先生が戻ってきたりしたことくらいだ。

あと、週に一回のティゴリーとのお茶会は毎週行われている。
あまり会話をしないなまえの代わりに彼は1週間学校であった大きなことをなまえに教えていた。
ついでに勉強を教えてくれたりもするのでなまえは結構その時間を気に入っていた。
人と一緒にいることがあまり好きではないなまえだが、ティゴリーはそれを知っていて丁度いい距離を保ってくれているようだ。

季節は冬、まもなくクリスマスという頃だ。
今年最後のホグズミートということもあり、皆どこか浮かれたような様子だった。

なまえは通年どおり、お菓子を焼いていた。
今年はフルーツタルトにするようで、小さな箱に一つ一つ丁寧に包装している。
数は5個と多くないが質が高くできていて、ケーキ屋さんのショーウィンドウに飾られていても違和感が無いくらいだ。
ミックスベリーがきらきらと光るように魔法をかけ、保存魔法をかける。

それが終わるとその場でお手製のクリスマスカードを書き始めた。

『毎年こんなことしてるの?』
「うん。でも去年まではティゴリー先輩の分だけだったけど、今年はマルフォイとパンジーもだから」
『なるほど』

そこに自分の分が入っていないものだからリドルは少し不機嫌になった。
それに気づいているのかいないのか、なまえはクリスマスカードを書き、それに魔法をかけていた。
クリスマスカードの上では可愛らしい天使がくるくると踊っている。

その天使やカードの装飾までなまえのお手製なのだから、これも一種の才能として認められるだろう。

「これでよし。あとは梟にお任せで」
『お疲れ様』

そっけなくリドルがそう言うと、そこでようやくなまえはリドルを見た。
赤い瞳が深い闇に囚われる。

困ったようになまえは笑いながら言う。

「だってリドルは食べられないじゃない。別のを用意してるよ」
『味覚はあるし、食事はできる。…でも別のって何?』
「そうなの?今まで何も食べないからできないと思ってた。別のって言うのはまだ秘密。1個は私のだから半分上げるね」

確かに今までリドルはなまえの前で食事をしたことはなかった。
そもそも食事の必要が無いのだからするわけも無い。
しかし一応味覚は残っている(はず)なので、食べられるし感想も述べられる。

しかし、なまえはリドルにだけ別のものを用意していたようだ。
リドルはその事実に内心喜んだ。
なまえの特別に選ばれた気がして、とにかく嬉しかったのだ。

「さっさと出していこう」
「行くってどこに?」
「薬草摘み。クリスマスまでだよ、期限」

ここ最近何度も摘みに行っているが、卸売りの相手はもっと欲しいといってきたのだ。
貴重で尚且つさまざまなものに使えるため需要が高い。

なまえは厨房で忙しなく動いている屋敷僕妖精にチキンを用意するように頼んでから、梟小屋に向かう。
適当な森梟を選んで、クリスマスプレゼントの宅配を依頼する。
ほぅ、と控えめに鳴いて彼は空高く舞い上がった。

その後もう一度厨房に戻り、チキンを手に入れ森に向かう。

「犬、チキン持ってきたよ」
「わん!」

もうこれも恒例の事態となっているが、黒犬にチキンをやる。
シリウス・ブラックも随分と犬らしくなり、今では匂いで薬草の場所を教えてくれるまでになった。
これでいいのだろうかと甚だ疑問なのだが、薬草の場所が分かり便利といえば便利なのでそのままにしている。

「あ、明日はクリスマスだからね。犬って甘いものダメらしいけどあなたなら大丈夫そうだから」

ちょっと早いけれど、といって取り出したのは先ほど作ったケーキの1つ。
どうやら彼にも作っていたらしい。
呆れたようにリドルが見る中、犬は嬉しそうにそれを食べていた。
千切れんばかりに振られた尻尾に満足したなまえは、薬草を摘む作業に戻った。

薬草を積み終え、なまえが犬のそばによる。

「また来るね。ばいばい」

犬は少し迷ったようにその場をうろうろしていた。
なまえはそれに気づきながらも、無視して森を出ようとする。

リドルはその様子を眺めていた。

「お、おい!」
「やめときなよ。なまえは犬だからお前のことを許してるんだ」
「?!」
「人としてのお前を認めてるわけじゃない、シリウス・ブラック。見誤るな」

シリウス・ブラックが犬の姿から人の姿になったのを確認して、リドルがその前に立ちはだかる。
なまえに言われたことでもないが、こうしたほうがなまえにとってはいいと思ったのだ。

シリウス・ブラックは指名手配所よりもずっと明るい目をしていた。
なまえのお陰で食事はできただろうし、遊び相手もできたのだ。
精神的に癒されたといって過言ではないだろう。

そして、今日のことだ。
大切にしてもらっているとシリウス・ブラックはそう錯覚したんだろう。
しかし、実際になまえが大切に思っているのはあくまで黒犬であるシリウス・ブラックに過ぎない。
人としての彼を見てしまえば、なまえは二度とここに来なくなるだろう。
なまえの夢を壊してはいけない。

「誰だ、お前は」
「そんなことはどうだっていい。とにかくなまえにその姿で近寄るな。食事が欲しいなら犬の姿でいることだ」

ぎろりとシリウス・ブラックを睨めば、彼は怪訝そうな目を向けてきた。
何もないところから人間が出てきて、しかもそれがホグワーツの制服を着たスリザリン生とくれば警戒に値するのかもしれない。
しかし、この馬鹿はすっかりなまえもスリザリンであることを忘れてしまっているのだろうか。

2人は少しの間睨み合っていたが、リドルが先に動いた。
学校に向かっていたなまえとの距離が遠いために、魔力不足になったためである。
それにはなまえも気づいているのか、森の入り口辺りで待ってくれているようだ。
雪も根深い時期だ、風邪でも引いたらまずい。

リドルは踵を返して姿を消した。
消したといっても霊体になっただけだが、少なくともシリウス・ブラックにはそう見えただろう。

『ごめんね、なまえ。待った?』
「ううん」

霊体の姿のままなまえの後ろに立つと、なまえはくるりと振り返ってリドルを確認してから歩き出した。
辺りは雪だらけで、真っ黒なローブを羽織ったなまえはよく目立っていた。
prev next bkm
×
「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -