20.あまくてあったかい
バジリスクを弔い、採取した牙や毒、鱗を魔法をかけてほぼ無限に入る鞄に詰めて寮に戻った。
寮では今日あったクディッチの話で持ちきりだった。

「なまえ!あなたどこに行っていたの?試合は見に行っていなかったようだけれど」
「ああ…興味ないから。何かあったの?」

スリザリンの談話室にしては珍しく騒がしい。
なまえは眉根を顰めてそこを通り過ぎようとすると、ソファーに座っていたパンジーが声をかけてきた。
仕方がなくなまえは彼女のほうを向き、話を聞いた。

どうやらクディッチの試合中ディメンターが入りこみ、ポッターが箒から落ちたそうだ。
そのせいでグリフィンドールは惨敗したのだとか。
なまえは興味なさそうにその話を聞いていた。
心なしか後ろのリドルは嬉しそうだ。

パンシーの話を最後まで聞いて、なまえはふと浮かんだ疑問を投げかける。

「…今日ってスリザリンとグリフィンドールの試合だとばかり思っていたのだけれど」
「ああ、ドラコの腕の調子がまだ悪いから」
「狡猾ってこういうことをいうのではないと思うんだけれどね…」
「何か言った?」
「いいえ」

そう、少し前まで確か今日の試合はスリザリン対グリフィンドールだったはず。
しかし、今聞いた話だといつの間にやらハッフルパフ対グリフィンドールになっていた。
今日は悪天候だし試合はするには不利であることは明白。
そこでスリザリンはお得意の狡猾さで今日の試合を回避したというわけらしい。

なまえが小さく呟いた言葉はリドルにだけ聞こえていて、リドルは苦笑をもらす以外何もできなかった。
これは狡猾というよりもただ単に卑怯である。

兎も角なまえはパンジーを置いて先に自室に戻った。
自室にはまだ誰もおらず静かだ。
なまえはベッドに腰掛け、魔法薬学の本を開く。
眠るには少し早いし、しかし課題をやるには余り時間が無い。
そのため、読書をすることにしたようだ。

「今、作ると売れそうな薬って何かな」
『…うーん、なまえが作れそうなのだとポリジュース薬とか脱狼薬かな?あれは味が最悪だって聞くから、もし味を変えることができたら表彰レベルじゃない?』
「味か…もともとの調合を邪魔しない程度に味を変えるの、難しそうだけど」
『うん、難しいよ。まずは何も見ずに調合ができるようにならないと』

ぱらぱらと本をめくりながらなまえと他愛も無い話をする。

なまえは甘党なので、もし味を変えるなら甘いものにするだろう。
そうすれば子ども向けの薬として売れるのかもしれない。
別にポリジュース薬や脱狼薬以外にもさまざまな魔法薬があるが、魔法界の薬は総じて味が悪い。
味をよくすれば飛ぶように売れるだろう。
大人だって、味が良いほうを選ぶに決まっている。

「とりあえず、いろんな薬の味を変えることからやってみようかな」
『そうだね、今作れる風邪薬とかそういうものの味を変える練習してみたら?』

その後も2人でさまざまな薬に関しての話をしていたが、パンジーが帰ってきたので中断した。
パンジーは今日の試合についてまだ話し足りなかったのかなまえに話し続けた。
ポッターが落ちたときのことを恐らくは捏造を入れて面白おかしく話しているようだが、なまえはうんざりしているようで、話の途中でもう寝る、といってベッドに逃げ込んだ。


次の日、なまえはハッフルパフの寮の前にいた。

「お?お前確かスリザリンの…」
「なまえ・みょうじです。ティゴリー先輩はいらっしゃいますか?」
「おお、寮にいるぞ。…ってか、こんなとこで人が来るのを待ってたのか?風邪引くぞ。中入れよ」

なまえに声をかけてくれたのは、よくティゴリーと一緒にいる先輩だった。
少し乱暴な口調ではあるものの、気さくで優しい人だ。

寒がりのなまえはまだ冬の始まり程度の季節だというのに、すでにマフラーを巻いている。
その姿を見て、ハッフルパフの生徒も可哀想に思ったらしく、談話室の暖炉の前の席を空けてくれた。
なまえはそこに申し訳なさそうに座る。

「セドリックつれてくるからそこにいろよー。あ、これでも食って待ってろよ」
「ありがとうございます」

暖炉の前のテーブルには色とりどりのお菓子が置かれていた。
彼の所有物なのか、もともとここにいた生徒のものなのかいまいち分からなかったので手をつけなかった。
ちょこんと微動だにしないなまえを周りのハッフルパフ生がものめずらしそうに見るものだから、なまえは少し居心地が悪そうだ。
小さな身体を更に小さく縮めて、暖炉の燃える火を見ていた。

「なまえ、用事があるなら連絡をくれればスリザリンまで行ったのに!」
「いえ…たいした用事じゃないですし」

ティゴリーは走ってきたのか少し頬が赤かった。
なまえの座っているソファーに座って、テーブルのお菓子を手にとる。
食べる?と差し出されて、ようやくなまえはそれに手をつけた。
色とりどりのグミをひとつ摘まんでもくもくと租借する。

それを飲み込んで、ようやくなまえは口を開いた。

「試合、お疲れ様でした。後味が悪い試合でしたけど」
「ああ…うん、まあね。ありがとう。…なまえ、試合見に来てたの?」
「いいえ。でも友達に話だけ聞きました」

ティゴリーは自分の好きなクディッチのことについて珍しくなまえ言及したと若干喜んだが、ぬか喜びだった。
明らかな社交辞令である。

今度は大きなマシュマロの入った袋をなまえのほうへ向けると、なまえはちらりとティゴリーを見てから袋に手を入れてピンクのマシュマロを引っ張り出した。
なまえの片手ほどもあるマシュマロをランはちびちびとかじり始める。
その様子を見て、ティゴリーが話題を変えた。

「それで、用事って?」
「ああ…この前のお菓子のお金と…あとできれば今回もお願いしたくて」

前回のホグズミート行きのときにティゴリーにお菓子を頼んだのだが、そのお菓子のチョイスがなまえ好みだった。
パンジーの買ってきたお菓子は何だか得体が知れなくてまだ手をつけていないようなものもあるというのに、ティゴリーの買ってきたお菓子はどれも美味しそうだったし実際美味しかったのだ。
そのためなまえは次のホグズミート行きのときも頼もうと決めていた。
あと、前回お菓子のお金を渡し忘れてしまったので、それと今回の分をティゴリーに渡すためにここにきたのだ。

「お金、半分で足りるよ」
「いえ、手間賃ですから」
「そんなのいらないよ!そんなに気にするようなことでもないし」

袋の中身を確認したティゴリーが怪訝そうになまえに言った。
なまえとしてはティゴリーに手間をかけてしまっているからと大目に入れていた。
それをティゴリーは受け取り拒否した。
なまえは困ったように彼を見つめる、彼の意志は固そうだ。

「…でも、申し訳ないんです」
「うーん…そうだ、じゃあこうしよう。今度僕とピクニックしてくれない?」
「…はい?」

唐突な誘いになまえは素っ頓狂な声を上げる。
なぜそうなったのだろうとなまえは小首をかしげ、ティゴリーを見る。
ティゴリーの顔はまだ赤い、暖炉のせいだろうか。

「…ティゴリー先輩、暑いですか?」
「えっ!?いや、大丈夫だよ!…で、どうかな?」

じっと彼の顔を見ていると、彼は慌てたように目を逸らしテーブルの上のマグカップをなまえに差し出す。
そのカップに顔を近づけると甘い香りがした。
中身はココアのようだ、カカオのいい匂いと暖かな湯気がふわっと広がる。
それを一口飲んで、返事をした。

「別に構いませんけど…でもそれでフェアかっていうと微妙じゃありませんか?ティゴリー先輩得しないじゃないですか」
「そんなことないよ。ピクニックのお弁当は全部なまえの手作りにしてもらおうと思ってたから」

なるほど、となまえは頷いた。

なまえが実は料理上手なことをティゴリーは知っていた。
なまえとティゴリーは1年のときから深くはないものの関係が続いている。
そのため、ティゴリーはなまえにハロウィンのときにお菓子を渡したり、クリスマスになればちょっとしたプレゼントを贈ったりしていた。
そのたびなまえはしっかりとお返しをあげていたのだ。

しかし、お金の無いなまえができるのはお菓子を作ってあげることくらい。
偶然、生徒が厨房に入っていくところを目撃し、それ以来そこでお菓子作りに励んでいる。
材料費はタダで自分好みの味のお菓子が作れるとあって、なまえは大喜びをしたものだ。

「わかりました。いいですよ」
「じゃあお金は返すよ。ピクニックは…試験が終わって、ブラックが捕まったらにしようか」
「…それって相当先じゃないですか。お菓子でよければ週1くらいで届けに行きますよ」

寒い時期は行きたくないという思いはティゴリーも同じだった。
もし寒い時期に行って、なまえに風邪を引かせてしまったら大変だ。
それに、今はブラックがいるかもしれないし何よりディメンターもいるので、悔しいが今は我慢するしかないとティゴリーは考えた。

とはいえ、ブラックもいつ捕まるか分からない。
ここまで逃げおおせたのだからなかなか捕まらないであろうことは、予想するに容易い。
そのため、なまえはちょっとずつお菓子をティゴリーに渡すことを提案した。
ティゴリーもそれでいいとすぐにその案を飲んだので、すぐに決定した。
毎週火曜日の放課後、天文塔の空き教室で会うことにしてお互いに気を使わないような約束にした。

「楽しみだな、来週の火曜日」
「…頑張りますね」
「あ、紅茶は僕が持ってくよ。重いしね」

楽しそうに笑うティゴリーにつられて、なまえも少し微笑む。
まるで兄のように優しいティゴリーがなまえは好きだった。
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