01.すべてのはじまり
ぽたり、と汗が額から顎まで伝って落ちて地面にしみを作った。
暑い暑い夏休みだが、施設では決してエアコンをつける事はない。
節電、と先生たちは言っているがどう考えたって、経済的につけられないだけだということをもう知っている。

部屋にいたって、外にいたって暑さは変わらない。
風が吹いている分、外の日陰にいたほうが涼しいだろうとそう思い、ここにいる。
大きな樫の木の下は、枝葉のお陰で日陰になっており過ごしやすい。

手の中の本はあと数ページで読み終わるであろう。
最後を読むのが惜しいくらいに面白い小説だ。
味わうように、じっくりじっくりと読み進めている。
まだ終わらせたくはない、どうせ明日も同じように暇なのだしゆっくりで良いだろう。

「なまえ、こんなところにいたの」
「…先生。何か用ですか」

私は一人が好きだ。
他の人は私のことを気持ち悪いと思ってるし、私も他の人と話したりするのは気持ち悪い。
人が嫌いといえばいいのだろうか、関わりたくない。
それが私の面倒を見てくれる先生であってもである。
その私の思いが相手にも伝わっているのだろう、相手もあまり私に話しかけてくることはない。

だというのに、今日はなぜか話しかけてきた。
でもどうせ成績のことだとか夏休みの間の予定だとかの話だろう。
それ以外の話なんてない。

「あなたにお客様よ」

…生徒指導か何かだろうか。
学校で特に問題行動をした覚えはない。
里親候補かとも思ったが、私などを引き取るくらいなら他の子の方が良いと施設の先生たちは進めるだろうしありえない。

廊下ですれ違う子どもたちが何事かと一瞬私のほうを見る。
私が目を向けると蜘蛛の子を散らすように逃げていった。

先生の後について応接室へ入ると、院長先生の向かいに大柄な白髪の人が座っていた。

「院長、連れてきましたよ」
「ええ、ありがとう。それじゃあなまえ、こちらに」

そう促され、院長先生の後ろに立つと、その白髪の人の顔を見えた。
大柄ではあるものの老人で、豊かな白い髭に半月型の眼鏡、その奥には水色の瞳。
明らかなのはその人が日本人でないことだ。

院長先生とその人は何か話しているようだが、全て英語で何も分からなかった。
面倒なのでそのまま突っ立っていると、話が終わったのか院長先生が私のほうに向き直る。

「なまえ、この人があなたを引き取るそうよ」

なんとも他人事な言い方である。
それにしても、まさか私を引き取るなんて、と思ったがその老人も”一般的”には見えないし妥当なのかもしれない。
といったものの、私は英語も喋れないのにこの人に引き取られて大丈夫なのだろうか。
でも、私に拒否権はないのだから。

「はい、わかりました」

それ以外の返事は許されていなかった。





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