18.おきたままみるゆめ
ホグズミート行きの日、なまえは変わらず禁じられた森に入っていた。
今日はここに来る前に厨房の場所をリドルに教わり寄って来た。
カゴいっぱいのチキンを貰い、なまえは森を歩いていた。

『さながら赤頭巾だね。あの犬に食われないと良いけど』
「赤頭巾は食べられないでしょ」
『最終的に食べられるだろ?』

そうだけど、となまえは答えながらひょいひょいと木の根を避けて進む。
もう慣れたもので道を間違えることもないし、転んだりすることも無い。

僕は常にあの黒犬のことを警戒していた。
本物の動物ではない上に犯罪者と知っていれば、警戒もする。
しかし、なまえにその警戒心が全くといって良いほど無い。

「そういえばさ、リドル」
『何?』
「リドルはどうしてあの人を自分の部下にしたんだろうね。私なら絶対しない」
『…それは僕も思ったよ。僕も絶対に高い地位は与えないだろうな』

こそかしこで見かけた手配書に写っていたシリウス・ブラックは、爛々とした目をしていて意志が堅そうだった。
そして、何よりもあの叫ぶ姿はスリザリンとは思えないほど乱暴で馬鹿っぽかった。
こんな使えなさそうな男をなぜ闇軍に入れたのか僕もなまえも謎に思っていたのだ。

「なんか事情があったのかもね」
『そうだと思いたいね。でなきゃ耄碌してたとしか言いようが無い』

肩をすくめながら僕はそういった。

目的地に着くと、そこには黒犬が尻尾を振って待っていた。
カゴの中身がチキンと分かったのかカゴの回りをウロウロしている。

「はいどうぞ」
「ワン!」
『…これじゃあ本当に犬だな。馬鹿っぽいし、何でこんなの部下にしたんだ?』

本当に自分はなぜこんな男を部下にしたのか…本当に使えなさそうなのに。

犬はカゴから出したチキンを嬉しそうに食べていた。
なまえはその姿に満足したのか、薬草を積み始める。
薬草図鑑を片手で開きながら自力で薬草を見分けるようにしているのは、僕の力を借りてばかりでは勉強にならないからとなまえは言っていた。
なまえは向上心が非常に高く、全くといっていいほどできていなかった1,2年の勉強もさっくり終わらせ、4年生の勉強にまで手を出している。

チキンを食べ終わった犬がなまえの図鑑を覗き込み、不思議そうになまえを見た。
今更この犬はなまえがどうしてこんなところにいるのかとか疑問に思ったのだろうか。

「何?こっちにご飯は無いよ」
『なまえ、そろそろ時間だよ』
「あ、今日はハロウィンだね。ハッピーハロウィン」

なまえはそういって犬の頭を撫でてその場を立ち去った。

薬草を袋詰めして学校の梟に任せ、大広間に向かう。
ホグズミートに行っていた生徒が帰ってきていて、ホグワーツも活気を取り戻したようだ。
なまえはスリザリンのテーブルに着き、甘いかぼちゃプリンをちまちま食べていた。

「あら、なまえ。どこ行ってたの?ホグズミートには行ってなかったでしょ」
「図書室。人いなくて快適だったよ」
「勤勉ねぇ」

3年に入って英語をきちんと喋るようになってからなまえの少人間関係は豊かになった。
パンジーは昨年までなまえのことを馬鹿にしまくっていたやつらの1人らしいが、最近はなまえとよく話す。
なまえも嫌ではないのか短いが返答をする。

「あ、お菓子たくさん買ってきたからあとであげるわ」
「ありがと…お返し何もできないんだけど…」
「今度魔法薬学のレポート手伝ってくれたら嬉しいわね!」
「…それが目当て?いいけど」

昨年まではドベだったなまえだが、今年に入ってからはそんなことはない。
魔法薬学の授業でも褒められることが多くなり、できる子として認識されている。
スリザリンでの株は大分上がったといえる。

また、最初の魔法生物飼育学でマルフォイに応急手当をしたのも、株を上げる発端になった。
その次の日、ハンカチを返しに来た彼は今までの差別に対して謝罪までした。
その辺りはスリザリンの旧家として誇り高いと言えるだろう。
今スリザリンでもっとも権力のあるマルフォイがなまえに対して謝罪したため、スリザリンでなまえのことを差別用語で呼ぶものはいなくなった。

ほのぼのと食事をして寮に戻ろうとすると、パンジーがついてきた。
2人で寮の部屋に戻り、お菓子をちょっと味見したりしていた。
するとそこにスネイプ先生が現れる、女子寮ということもあり滅多にここに来ることは無いのだが、となまえは不審に思った。

「お前ら、全員大広間に集まれ」
「…何があったんですか」
「シリウス・ブラックが城内に侵入した可能性がある。生徒は全員大広間で一晩を明かしてもらう」

はっきりとした口調にパンジーが驚いたように目を見開いた。
なまえは冷静で、わかりましたとだけ言ってベッドを片付けて、廊下に出た。

廊下にはすでに話を聞いていたらしいほかの生徒が不安そうにひそひそと話し合っている。
ブラックは純血主義者なのだし大丈夫だとか何とか言っているが、その自信はどこからわいてくるのだろうか。

大広間にはすでに寝袋で埋まっていた。
なまえは指示された寝袋に入る、どうせ寝ることはできないだろう。
人間嫌いのなまえに数十センチも隣の人と離れていないこの環境は辛すぎた。

『なまえ、暇だろう?少し話をしてあげるよ』

なまえは身じろぎもしないし、瞳を閉じ続けていた。
だが僕がそういえば、うっすらと瞳をあけてじっと僕を見た。

『秘密の部屋っていうものを知ってる?そこには去年まで怪物がいたんだ。』

話す内容は去年の話。
数日前に思い出したことだが、あそこにはまだバジリスクの遺体が残っている。

『その怪物はバジリスク。蛇の王とも言われる希少な蛇だ。去年ハリーポッターはそれを倒し、…まあ、僕を倒した』

バジリスクという単語になまえは反応した、魔法生物好きななまえにとっては興味深いものなのだろう。
倒されたと聞いて少し寂しそうな目をしていた。
それは多分、僕じゃなくてバジリスクのほうだろうなと考えると、少しバジリスクが恨めしい。

それはさておき、そのバジリスクのことだ。

『その遺体はまだ、その部屋に残ってる。今度一緒に遺体から牙とかう鱗とか採らない?かなり高値で売れると思うんだよね』

バジリスクは今では絶滅したのではないかといわれるほどの希少さだ。
そのため、その毒や鱗、牙などは滅多に出回ることはない。
それを売って金にすればなまえは今のバイトをやめ、夏休み中の宿を手に入れることもできる。
その夏休みの間に禁じられた森で採った薬草を使い、薬を作る。

今のように薬草を売るだけでは夏をすごすだけのお金が貯まらないと気づいたリドルはそれを提案したのだ。
そうすれば1年分の短縮ができる。

なまえは少し考えていた。
すでに死んでいるからといって、死者を愚弄するようなことをして良いのか考えているのだろう。
しかししばらくして、頷いた。

『それじゃあ今度一緒に採りに行こう。目は潰されているから問題ないし』

それからバジリスクの生態系を教えたりしているうちに夜が明けた。
結局ブラックは見つからなかったようで、教師たちは緊張感を保ったままだった。
まあ見つけるのは大変だろう、今ブラックは犬なのだから。
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