17.そうぐう
その後もルーピンの授業は面白かった。
初回のことを次の授業のときに心配されたが、大丈夫ですとだけ言っておいた。
お茶をしないかと誘われたが、それれを丁重に断り逃げた。

大好きだった魔法生物飼育学はとてもつまらないものになってしまった。
レタス喰い虫を延々と育てる作業になってしまったからである。
なまえは薬草摘みをするときにこっそりとヒッポグリフたちと遊ぶようになっていた。

クディッチの試合が近くなり、クディッチに出る人たちは練習に励んでいた。
無論、なまえはクディッチに興味が無いので人がいなくなるのを良いことに禁じられた森で薬草摘みに出かけていた。

『あ、それ摘んで。珍しいやつだから』
「うん…あ」

昼間でも薄暗い禁じられた森で、なまえたちは薬草を摘む。
卸問屋に届ける日程が決まっているので、それまでに指定された薬草を届けなければならない。
そのため、最近では毎日禁じられた森に入っている。

なまえが森の奥であるものを見つけた、黒い塊である。
木の根に蹲っている黒い塊になまえが近づくと、ピクリとそのとがった耳を立たせる。

「犬…おっきいな…真っ黒」

なまえがそっと手を伸ばして頭を撫でると、犬はこちらを向いて気持ちよさそうに目を細めた。
むっくりと起き上がった犬は1メートルほどもあり、汚れて痩せていた。
野良犬だろうが、行儀はよい。

「…ん?何でこんなとこに犬?」
『気づくのが遅いよ、なまえ。これ犬じゃなくてアニメーガス。十中八九、シリウス・ブラックじゃない?』
「ふぅん…まあいいや。犬、大分痩せてるね。私ね、明日もここに来るから。明日はちょっとご飯も持ってくるよ。チキンで良いでしょ?」

ご飯の言葉に、犬は尻尾をぶんぶん振る。
リドル曰く、これはシリウス・ブラックで凶悪な指名手配犯らしいが、仕草は犬そのものだ。
犬歴が長すぎて頭まで犬になっているのではないかとリドルが疑うほどだった。

『なまえ…それ犯罪だよ?知ってた?』
「何を今更」

ノクターンに住み、禁じられた森で薬草を勝手に摘み売っているなまえにとって逃走援助など大したこと無いということらしい。
まあ何か言われたとしてもただの野良犬だと思っていたといえばいいし、問題は無いだろうが。
その後も薬草を取りつつ、犬と戯れてなまえはご機嫌だ。

『そうだ、なまえ。ホグズミートには行けないんだよね』
「うん」
『行きたい?』
「ハニーデュークスのお菓子…誰かに頼もうかなって思ってる」

特に行きたいわけではないらしい。
人込みが苦手ななまえにとっては辛いかもしれない、もしなまえが行きたいのであれば抜け道を教えようかとも思ったのだが。
なまえに人並みのことはさせてやりたいと思っているリドルだが、無理強いはよくない。

日が暮れて夕食の時間が近づいたので、なまえは一旦城に戻る。
廊下を歩いていると、前から背の高いがっちりした青年が数名の生徒と歩いてきた。
なまえは邪魔にならないようにと廊下の端による。

「なまえ?久しぶりだね!元気?」

「え…、あ。ティゴリー先輩。こんにちは。元気ですよ」
「そっか、…顔色良いね、ホント元気そうでよかった」

八ッフルパフのセドリック・ティゴリー先輩だった。
1年生のときに列車に乗るのを手伝ってくれて以来、学校で会ったときには絶対になにか挨拶をくれる。
去年まではそれすら何と言っているのか分からずに適当に返事をしていたのだが、ティゴリーはなまえのことを割と本気で気にしているようだった。
周りの生徒がティゴリーを不思議そうに見ている。

「ごめん、スティーブ。先に行っててくれ」
「おう、頑張れよー!」
「煩いぞ!」

そのうちの1人にティゴリーがいうと他の数名を連れて、大広間のほうに向かっていった。
なまえは不思議そうにティゴリーを見上げる。
西日に当てられてかティゴリーの頬は赤く染まっていた。

今まで挨拶程度しかしていなかった、というかできなかったので不思議な感じだ。

「あの、先輩。心配してくださってありがとうございます。去年も一昨年も」
「え?ああ、そんなの気にするようなことじゃないよ。寮も学年も違うから挨拶くらいしかできなかったけど…」

優しく笑うティゴリーの顔は初めてあったときからずっと変わらない。
なまえがスリザリンで嫌われ、グリフィンドールで同情されてもティゴリーは変わらず接してくれた。
廊下ですれ違えば丁寧な英語で挨拶をしてくれていた。
一応お礼を言っておくべきだろうとなまえはそう思ったのだが、ティゴリーは気にしていないと笑うだけだった。

「あ、あのさ。今度のホグズミート、誰かと一緒に行くとか決めてある?」
「?ごめんなさい、私保護者がいなくてホグズミートいけないんです」

後ろでリドルが可笑しそうに笑っていた。
ティゴリーは驚いたように目を見開いていたが、取り繕って真顔でごめんと謝ってきた。

「気にしないでください。…先輩はホグズミートへ?」
「うん。お節介かもしれないけど案内とかしたくて…その、」
「ありがとうございます」

なまえはどうしようか少し迷ったが、再び口を開く。
ばつが悪そうに俯くティゴリーを覗き込みように見る。

「あの、お願いがあるんです」
「…っ、えっと、なにかな?」
「ハニーディクスのお菓子が食べたいんです。私の代わりに買ってくれませんか?お金は渡すので…」
「もちろんかまわないよ。何が良い?」

ティゴリーに甘いお菓子を頼みつつ、2人で大広間に向かった。
ホグズミートに行った次の日にあう約束もして、大広間で別れた。
その後パンジーたちに質問攻めにあったのは言うまでも無い。
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