16.ひみつのじかん
授業が終わり、なまえはいち早く教室を出た。
ルーピンがそのなまえを止めようとしていたが、その声も無視して廊下を小走りで進む。
この後の授業は無いため、2人で禁じられた森にこっそり入り、薬草を取るつもりだったがそれもできそうに無い。

『なまえ、おいで。こっちだ』
「…何?」
『隠し部屋だよ』

寮に帰るつもりも無いのか当てもなく歩き続けているなまえに痺れを切らした僕はなまえの前に立った。
なまえは歩みを止め僕を見つめる。
その瞳はどろりとした闇色ではなく、戸惑いを含んだ潤んだ瞳。

僕は実体化をしてすぐ隣の壁を叩く。
すると小さな扉がぱっと現れた、50年前と変わらぬその姿。
その扉を開けて、なまえの身体に触れないように手を添えてエスコートをする。

部屋の中には背の高い本棚にぎっしりの本、クッションが本棚の傍においてあった。
部屋の隅にはテーブルと椅子が2脚あり、テーブルの上には紅茶が用意されていた。

「…何ここ」
「隠し部屋だよ。僕が昔に見つけたものだ」

扉の近くで立ち止まってしまったなまえを手招きして、部屋の奥に入れる。
紅茶のいい香りが漂っていて、古い本の匂いと混ざって嫌じゃない。
茶菓子にはスコーンやクッキーが用意されていて、いたせりつくせりだ。

「ここには誰も来ることができない。僕が隠してるからね」
「そうなの…」
「ここに入る条件は、僕が招待すること。招かない限りは誰も入れない」

なまえは興味なさそうにその話を聞いていた。
落ち着かないのかクッションを抱きしめて本を開く。
それは不安定なときのなまえの行動だ。

「なまえ」
「…何?」
「苦しい?」
「…ううん」

持っている本をなまえが読んでいないことくらい分かっていた。
隣に座ってもなまえは決して顔を上げようとしなかった。
長い髪がなまえの顔を覆い隠して、表情は読めない。

なまえが触られるのが嫌いだということは重々承知だ。
だがそれ以上になまえがぬくもりを求めてるのも知っている。

「リドルは、どうだった?」
「子どもの頃のこと?」
「うん」

なまえには僕自身のことを話していない。
話したのは去年の出来事と、自分が50年前の記憶であるということだけ。

「僕もなまえと同じように施設で育った。臨月だった母が駆け込んだ孤児院で。母はその後すぐ死んだよ。父はいなかった」

今まであった話を簡単に話した。
酷い気分になったが、なまえには知る権利がある。
なまえはマグル生まれなのだろうけれど、特に嫌悪感を抱くことはなった。
僕に似ているからなのか、よく分からないが。

なまえは途中から本を置いて話を聞いていた。

「大丈夫だよ、なまえはきちんと幸せになれるから」
「…私は?リドルは違ったの?」
「…あーどうなんだろう、確かにやりたいことはやってるし…でも幸せとは違うんだろうね」

歯切れの悪い返答しかできない。
まだ僕はなまえに自分が闇の帝王の過去であることを告げていなかった。
というか告げる必要性もそんなに無かったし、なまえが僕に興味を示すこと自体が珍しかった。

「…なまえがダンブルドアに連れ去られた原因は、多分僕にある。なまえは僕と似ているからダンブルドアは警戒しているんだよ。僕の側につくんじゃないかって」
「僕の側って…リドル死んでるんじゃないの?」

なまえは僕をゴーストか何かと勘違いしていたらしい。
まあそんなに変わらないし、ゴーストのほうがよっぽど存在はしっかりしているが。

「…一応、今も僕の本体は生きてるよ。闇の帝王としてね」
「え、そうなの…私が闇の帝王のあとを継ぐとかそう言うのを警戒してるってわけ」
「なまえの性格上無いと思うけれどね、僕は」

なまえの反応は薄かった。
それもそうだろう、去年僕に会うまで魔法界のことを何も知らなかったのだから。
一応暮らすのに必要な事項だけ教えたが、闇の帝王のことについてはあまり教えなかった。
でも、なまえのことだから全部を知ってもそこまで怖がることはなさそうだと思ってしまうのは甘えなのだろうか。

「なまえ、落ち着いた?」
「うん、もう平気。1人じゃないしね」

ふわっと笑うなまえに少し頬が熱くなった気がした。
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