15.すこしのきぼうも
それから何事も無く時は過ぎる。
木曜日の魔法薬学ではスネイプが怪我をしたマルフォイの手伝いとしてウィーズリーとポッターを宛がい嫌な雰囲気が広がり、ロングボトムが失敗をした。

大体いつもどおりだ、なまえはそれを離れたところで見ていた。
ロングボトムの鍋を見て皮肉を言っていたスネイプがわざと足音を立てて、こちらに向かってきた。
昨年まではロングボトムと同じくらいなまえも失敗をしていたからだ。
自寮ということもあり減点はしないが、あまり良い顔はしない。
いつも何かゆっくり言ってちょっと手伝ってくれる。

しかし、今年からはリドルが居るので問題は無い。
リドルがなまえの後ろからこっそり見守ってくれているので、もう失敗はありえない。

「みょうじ、薬の進みはどうかね?オレンジ色にはなっていないようだが?」
『大丈夫だよ、きちんとできてる。上達したね、僕のアドバイスも殆ど無しだったし』
「大丈夫です」

オレンジ色というのはロングボトムの作った薬の色である。
普通の縮み薬ではありえない色だ、一方なまえの鍋の中では完璧な色に仕上がっていた。
これからのために魔法薬学に重点を置いて勉強をしていただけあって3年生で習う薬は殆ど全部作れるようにしてある。

スネイプは鍋の中からスポイトで、持っていたビーカーの中の蝶に数滴垂らし、きちんと薬ができているかを確認した。
ビーカーの中の美しい青い蝶は醜い芋虫に姿を変えた。
その様子を見てスネイプは驚いたようになまえを見た。

「どんな勉強をしたんだ?完璧にできている。グレンジャーよりも早く、的確にだ」
「英語の勉強をしたんです」
「ふざけているのかね?まあいい。スリザリンに5点やろう」

なまえは正直に答えたが、スネイプはそれをジョークだととったらしい。
一応お礼を言って、なまえは使った機材を片付けに向かった。

その後ロングボトムのペットにロングボトムが作った薬を服用させたが、何事も無く授業は終了した。
昼食をとって、次の授業は闇の魔術に対する防衛術の授業だ。
グリフィンドールの一つ前のコマでスリザリンだけの授業なので非常に静かだ。
新任のルーピン先生はぼろぼろの身なりで、白髪の多い男だった。
その姿を小馬鹿にする人が多いのは金持ちの家の子が多いスリザリンならではである。
ノクターンで生活していたなまえにとっては見慣れた姿だ、特に気になることも無い。

「みんな、こんにちは。教科書はしまっておいて。今日は実地練習をしようと思っているんだ」

にっこりと笑ってそう言う。
そして杖を振ると辺りにあった机や椅子が一瞬で姿を消し、その代わりに教室の中央には大きな洋ダンスが現れた。
その洋ダンスは家具らしくなくがたがたと音を立てている、何かが中に入っているらしい。

「この中にはボガートが入っているんだ」

ルーピン先生はボガートの話を始めた、暗くて狭いところに生息していて対象者の一番怖いものを形態模写する妖怪で対抗呪文はリディキュラス。
そこまで説明をすると生徒たちを一列に並べた。
なまえは教室の入り口付近で話を聞いていたのだが、皆が押し合いへし合い後ろに下がろうとするので一番前につれてこられてしまった。

ルーピンが注意事項を話す間、なまえはぼんやりと自分の一番怖いものを考えた。
が、特に思い当たらない。

「君は、みょうじだね。君の一番怖いものは何かな?」
「…わかりません。だからちょっと楽しみです」
「おや、面白い答えだ。いいね、やってみよう!…大丈夫、何かあったらすぐ助けてあげるから」

ルーピンはなまえを安心させるようになまえの隣に立ち、杖を構えた。
なまえもそれに倣い、洋ダンスに杖を向ける。

「さあ行くぞ!」

ルーピンはそのなまえの様子を見て、洋ダンスの扉を魔法で開けた。

なまえの目の前に立つのは、知らない男女だった。
女性のほうはなまえに似ていて、豊かな黒髪に柔らかな垂れ目をしていた。
男性はきりっとした釣り目に、セミロングほどの長さの髪を一つに束ねている。
2人は睨むようになまえを見るとすぐに視線を逸らし、2人で会話を始めてしまった。
なまえは戸惑ったようにその2人を見た。

「誰…?」

呆然としたなまえの姿にルーピンは驚いた。
後ろにいる他のスリザリン生はなまえが怖がって硬直しているように見えているだろう。
しかし、本当はそうではなく、彼女は戸惑っているだけだった。
見たこともない男女が、自分の一番恐怖する相手だというのは意味が分からない。

楽しそうにしていた2人が突然なまえを見る。

「みょうじ!」
「っ…リディキュラス!」

名前を呼ばれてなまえははっとして呪文を唱える。
その刹那、2人はなまえのほうを見て唇を動かした。
声にならない言葉はなまえにしっかりと届いた。

届いたその言葉の意味を理解するよりも早く呪文は2人の姿をかき消す。

そして、なまえは言葉を理解する。
言葉を理解して次はあの2人の正体に気づいた。
さっと血の気が引く音を聞いた気がした。

ルーピンはそんななまえに気づかず、なまえを褒め称えてスリザリンに加点をした。
が、なまえはそんなことどうでもよかった。

列の最後尾に着いたなまえはぐっと唇をかみ締める。
その隣にリドルが立ち、肩を抱くように寄り添う。
リドルも最後の言葉に気づいた、そしてあの2人の正体も。

なまえは絞るように声を出す、今まで聞いたことも無いような低く唸るような声だった。
怒りに震え、真っ黒な瞳は憎しみに歪んでいた。

「…やっぱり、捨てられてたんじゃない。私」
『なまえ、』
「いらなかったんだ。気味が悪いって、そう思われたから私捨てられたんでしょ」
『…なまえ』
「だから嫌いよ、人間なんて。自分と違うものを疎外して捨てて。…それがたとえ血が繋がった子どもでも、自分たちと違ったらただの敵でしかない。大嫌いよ」

あの2人は、消えるその瞬間なまえに向かって一言、「死ね」と言ってのけた。
2人はなまえの両親だ、なまえの記憶に少しだけ残っていた両親の姿。

なまえは孤児院に捨てられた子だった。
捨てられる理由は貧困であったり、望まれぬ子であったりさまざまだがなまえは後者だったらしい。
なまえは赤ん坊の頃からその強い魔力から、泣けば周りのものが壊れたりしていたらしい。
だから孤児院でも相当に恐れられた存在だった。
両親もそれを感じて捨てたのだろう、気味の悪い、魔女の子だといって。

でもなまえは心のどこかで、仕方がなく捨てたのだと思いたかった。
しかし、それが打ち砕かれた。
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