14.とおくないみらい
ポッターは先に降りていたらしく、すでに他のヒッポグリフが放たれている。
そのためイザベラは人のいなくなった放牧場の隣の空間に降り立つ。
なまえはイザベラに乗ったまま、柵を乗り越え放牧場にイザベラを誘導してから降りた。

そのなまえの近くで、マルフォイがバックビーク相手にお辞儀をしていた。
バックビークは先ほどポッターを乗せたことで生徒になれたのか、ポッターのときより早くお辞儀を返してきた。
マルフォイはバックビークに近寄り、くちばしを撫で始めた。

「簡単じゃないか。お前ぜんぜん危険じゃないなぁ?そうだろう?」

なまえはその様子をイザベラとともに見守っていた。
マルフォイにしては大人しくくちばしを撫でているなとくらいにしか思っていなかった

が、次の言葉を聞いて凍りつく。

「そうだろう?醜いデカブツの野獣君?」

一瞬だった、バックビークの鋭い鉤爪がマルフォイを捕らえる。
マルフォイがよろめき地面に倒れこむのをみてバックビークがもう一度その脚を振り上げた。
その間に割って入ったのはイザベラとなまえだった。
イザベラはバックビークを窘めるように嘴で彼の首を撫でる。

なまえは地に伏せているマルフォイの傷を見る。
広範囲にわたって傷ついているがそこまで深い傷ではなく、血は出ているものの大量というわけでもない。
なまえは持っていたハンカチで止血を試みる。

「僕、死んじゃう!」
「…それはないんじゃない?」

マルフォイの言葉になまえが呆れたように突っ込む。
この程度の傷で死ぬようでは人として何らかの欠陥があるとしか言いようがない。

クラス中がパニックに陥っている中、ハグリットが慌てた様子で駆け寄ってきた。
なまえはその場を離れ、あとはハグリットに任せることにした。
バックビークはハグリットの手によってすでに木につながれていた。
その隣でイザベラがあたりの様子を伺っている。

なまえはイザベラの嘴を撫でて、「またね」とだけ言って放牧場から出た。

クラスの人々の反応はさまざまだった。
主にスリザリン生がハグリットを罵倒し、グリフィンドール生は心配していた。
なまえはマルフォイもハグリットも両方とも悪いと考えていたので、そっとその場を離れた。

「…一番心配なのはバックビークかな、こういう時って絶対に処分って話になっちゃうよね」
『そうだね。しかも傷つけた相手が悪い。マルフォイ家は大きな家だから、権力に物を言わせてくるだろうよ』

その後の授業がなかったなまえは図書室の奥まった場所に座っていた。
夕食まではここにいるつもりなのか、本を広げていたがその手は止まったままだ。
考えている内容は今日のバックビークの件だった。

なまえは思った以上に動物好きなようで悲しそうな目をしていた。
しかしなまえにできることはあまりないだろう、すぐ傍にいたものとして証言はできるかもしれないがそれがマルフォイ家の人に通じるかといえば否だ。

『なまえ、動物が好きなんだね。意外だ』
「そう?人間なんかよりもよっぽど従順だし純粋だし…可愛いと思うけど」
『…まあ人間に比べたらね』

あくまでなまえは人間と比べて動物が好きらしい。
今なまえが開いている本も魔法生物図鑑である。
完全に今日の授業で魔法生物に興味を持ったようだ。

今開いているページはヒッポグリフの項目である。

「将来は動物を飼える環境で暮らしたいな。田舎で1人で」
『もう老後の話?早すぎだよ』

呆れたようにリドルが笑う、なまえも照れたように笑った。
個人で飼える魔法生物について調べているようだ。
ヒッポグリフも飼えないことはないだろう、ただそれには広い土地が無いといけないが。

「室内で飼える可愛くて頭がいい子って居ないかな?」
『ニーズルとか?あれ、見た目はほぼ猫だよ』
「そうなの?いいなぁ…飼いたい」
『ニーズルは飼育に許可が必要だけど、混血なら大丈夫なはずだよ。ペットショップで聞けば売ってくれると思うけど』

なまえがきちんと面倒を見れるのかどうかは甚だ疑問だが(自分の生活だって苦しいのに)、なまえの心を癒すのには一役買いそうだ。

先ほどヒッポグリフの背に乗って空を飛んでいたなまえのあの顔を思い出す。
いつもの暗い表情などではなくて、無邪気で明るい笑顔。
人嫌いで温かさに触れられないなまえにとって、小さくて温かい動物の存在は心の休まりどころになるかもしれない。

「そっか…でもペットショップって嫌い。動物はモノじゃないよ」
『我がままだね。ゆっくり考えてごらんよ』

なまえらしい意見にリドルはくすりと笑った。
今までそんなことを考える暇も余裕も無かったので楽しそうだ。
このままなまえが幸せになればいい。


とおくないみらい
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