137.交錯
脱狼薬の作成がひと段落着いたので、なまえは白衣のまま自室に戻った。
自室に戻って、まだ実体化しているリドルに少し驚きつつも、やたらに疲れるのはそのせいかと納得した。

「何やってるの」
「あ、なまえ」
「あ、じゃなくて。実体化解いてよ、疲れるから」
「ああ、ごめん」

先ほども理由なく1人にさせてくれというから、そうしたけれど、なんだか無性に腹が立つ。
信じてと言われたからそうしたが、何をやっていたかくらい知りたい。
なまえは白衣をベッドに投げつけて、その隣で座っているリドルの上に飛び込んだ。

「実体化解いてっていったのに」
「え、ここ、解くタイミング?」
「ベッドが遠い…」

丁度リドルの胸辺りに飛び込み、押し倒す形になってしまったなまえが不機嫌そうにそういったので、リドルは驚いた。
甘えの一種かと思い、わざとかと思っていたのだがそんなことはなかったらしい。
ただ役得なので、そのままでいることにした。
名残惜しそうにシーツを掴もうとするなまえの指先を掠め取って、触ってみた。
少しだけ乾燥してかさついた肌が気になる。

なまえはなまえで実体化を解かなかったリドルに少しだけ驚いたが、意外と居心地が良かったのでそのまま彼の胸に顔をうずめた。
心臓の音だとか、温度だとか、匂いだとか、そう言うものは特にない。
記憶という曖昧な存在を魔力で実体化させたとしても、そういう細かな人間らしさまでは作り出せないらしい。

「…何やってたの?」
「秘密…危ないことはしてないよ、考え事」

そう、となまえは答えて目を閉じた。
やはりリドルの実体化時間が長いと疲れがたまる。
なまえ自身もあまり魔力が多い方ではない、扱うのは上手な方なので節制はできるのが救いだ。

リドルが何をしていて、何を思っていたのか気にはなるが、よくよく考えてみれば、彼はなまえの魔力を得ているとはいえ、全く持っての他人だ。
隠し事の一つや二つはあるだろう。
なまえはそう思って自分の気持ちに蓋をした。

「なまえ」
「何…?」
「ずっと一緒にいる、そのためには何でもやるつもりだから」
「…危ないことだけはやめて」
「一緒にいるって言ってるのに、危ないことはしない」

うっすらと目を開けたなまえの額に、リドルはキスを落として消えた。
ぽすん、とベッドに落ちた身体を伸ばしたなまえは、両腕で顔を覆うようにして唸る。
これは狡い、と。
リドルは消えることができるからいいけれど、この場に残されるこちらの身にもなってくれと思いながらも、ベッドから立ち上がった。

そろそろコレットが帰ってきていてもおかしくない頃合だ。
ボージンアンドバークスのことも頼まなくてはならない。
なまえは起き上がって、部屋を出た。

「お、なまえ。降りてきたか。夕飯できてるぞ」
「ありがとう、コレット」
「なまえは忘れてるかもしれないけど、今日はクリスマスイブだからな?」
「…覚えてる、流石にね」

今年は忙しくなることが分かっていたので、その前にアイシングクッキーを作って準備をしておいた。
箱の中にさらにクッキーで作った家を建て、その中に人形型のアイシングクッキーを入れておいた。
家の壁は絵が動くようにしたし、人型アイシングクッキーもダンスができるくらいにはしておいた。
クリスマス前後は忙しくなるだろうと思っていたから日持ちするものを選んだのだ。
一応その他にもプレゼントを付けておいたので、恐らく問題はないだろう。

ただ、ディナーのことは忘れていた。
いつもは学校で出されたものを食べていたので、個人的に出してもらうのは初めてだ。

「東洋人にはこっちの方がいいかと思ったんだが…どうだ?」
「こっちの方が嬉しい…!」
「おー、そりゃよかった」
「クリームシチューなんてどこで見たの?」
「マグルに大人気のインターネットだな」

なまえの目の前に置かれたのはクリームシチューとターキー、それから温野菜のサラダ。
クリームシチューが出てくるとは思わなかったので、なまえは目を輝かせた。
もともとクリームシチューは日本特有のシチューであることを、なまえは渡英してから知った。

クリームシチューの情報源が料理本でないことに驚いたが、コレットは昔から意外とマグルの製品を取り入れているらしい。
パソコンも動かせると自慢気に話していた。

「そうそう、人狼街のことなんだが。やっぱりあっちも引き抜き入ってるみたいだ。というか、人狼のほとんどがもともと闇側につくって感じらしい」
「やっぱり…」
「ただ、ありゃあそっちの方がましだからって理由だ。もっと条件がいいところがあれば、そっちにくっつくな」

どちらに付く可能性もあるということか、となまえはパンにシチューを付けながら考えた。
ならば本格的に脱狼薬が役に立つということだ。
このクリスマス休暇の間に作れるものは作っておきたい。
なまえが頭の中で休暇中の計画を練り直していると、今までピアスの中に引っ込んでいたリドルが出てきて、ボージンアンドバークス、と囁いた。

突然のことにびっくりしてコップをひっくり返したなまえを怪訝そうに見たコレットが、どうした?というので、慌ててそのことを伝えた。

「ボージンアンドバークスに行きたいの」
「あー、あそこか。いいけど…俺も言った方がいいのか?」
「できれば。前に私が言ったら冷やかしだと思われて追い払われたから」
「まあ、そりゃそうだな」

ボージンアンドバークスに行く女学生なんて、冷やかしにしか見えない。
コレットも納得したらしく、じゃあ明後日にとのことになった。
流石のボージンアンドバークスもクリスマスは休みなのだという。
明日はゆっくり休めよ、というコレットの言葉になまえは頷いたが、明日は一日脱狼薬にかかりきりだろうなと思った。
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