133.薄暗い冬
なまえはパーティの翌日にホグワーツを発った。
ホグワーツ特急で一度ロンドンへ向かい、その後ダイアゴン横丁を経由し、ノクターンに入った。
やろうと思えば煙突飛行もできたが、なまえはそれがあまり好きではない。
付き添い姿くらましも嫌いななまえだから当然と言えばそうだが、効率と安全面を考えるとよろしくないとリドルは最後まで不機嫌だった。

「来たな、首突っ込み娘」
「何それ」
「危ないことばっかに首突っ込むんだからなあ、本当に」
「それは悪いと思ってるけど、しょうがなくないもの」

不機嫌なのはリドルだけではない。
オリュンポスでなまえを迎えたコレットも非常に不機嫌だった。
予めなまえはコレットに今回のノクターン訪問の意図を伝えてあった。
なまえは過保護な2人に多少うんざりしながらも、彼らの心配は尤ものことなので何も言わずにいた。

コレットは盛大にため息をついて、まあ座れとカウンター席の椅子を引いた。
なまえは階段の近くに荷物を置いて、大人しく席に着いた。

「今回、俺もついていくからな」
「あ、それは助かる」
「姿くらましもできない未成年だけで行かせられるか」

どん、と乱暴に置かれた大きなマグカップとともにそう言い捨てたコレットは胡乱気になまえを見た。
対してなまえはそれに対して素直に礼を述べ、マグカップに口を付けただけだ。
別に怒られているわけではないと思っているから、あまり気に留めていなかった。

コレットはきっとなまえたちは気づいていないだろうし、気にもしていない部分を自分だけが責任を感じていると思っている。
コレットが宿を貸したり、人狼街の子供たちになまえを引き合わせなければ、きっとなまえは一般のホグワーツ生のように多少危ないながらも、平穏に暮らしていただろう。
無論、コレットが宿を貸さない選択肢はなかったし、人狼街の子供たちに出会ってしまったのは偶然である。
ただそれでも、何かしてやれたことがないのかと悔やんでいる。

なまえはその意図にうっすらと気づいてはいるものの、別に彼を責めるつもりも慰めるつもりもなかった。
そう思うのはコレットの勝手であるし、彼は彼なりにやりたいようにすればいいと思っていた。
別にコレットが敵に回ることはないだろうと思っているから。

「ありがとう」
「別にいいんだよ…っつっても、意外とノクターンは静かだけどな」
「そうなの?」
「魔法省もほぼあの人の手中だろうからな。あの人が来てる感じもないし、もし来るとしたら、魔法省が落ち着き次第、だろ」

マグカップの中はミルクココアで、なまえはそれをのんびりと飲みながら、コレットの近況を聞いた。
人狼街の子供たちも、その他の大人の人狼も今のところは静からしい。
子供たちはできる限り外には出ないようにし、外部との接触を断っているらしい。
その中でも、代表の者だけがコレットの元に現れては報告をしてくれているようだった。

ただ、大人の人狼たちは人を選んで近づかないと危ないため、温厚な人にしか話を聞けていないらしかった。
問題は過激派の人狼で、一般の魔法使いに恨みを持っているものだ。
恐らくその辺りはヴォルデモートの考えについていくようなものもいるだろう。

ヴォルデモートはなまえにノクターンに魔法省の介入がないように、といっていたが、その真意は、ノクターンに闇の陣営以外を入れるなということだ。
もし、不死鳥の騎士団側の人間が紛れ込んでいるなら報告しろということ。
紛れ込むとしたら、恐らく、リーマス・ルーピンだ。
彼は人狼として、人狼街に潜り込むことができる。

「まあ、変わりないならそう報告するけれど…人狼街に新しい人狼さんがきたりなんてした?」
「いや、そこまで聞いてない」
「んー…そう。まあいいか」

そこまで聞いてない、という言葉に、なまえは少し考えるように間を置いた。
敢えてかそうしている可能性もあるので、特に気にしないことにした。
開心術の得意なヴォルデモートの手前に出る可能性がある以上、無意味な情報は聞かない方がいい。
自分にとって無意味であったとしても、誰かにとっては重要なことの可能性を考えるべきだとなまえは思っているからだ。

甘いココアを喉に流し込みながら、ノクターンの街並みを思い浮かべる。
他に気になるのは、スタッズキッチンによく来ている労働者たちだ。
スタッズキッチンには浮浪者や肉体労働者など多種多様な人間が来店する。
今まで来ていたのに突然来なくなった客がいれば、その人は恐らく陣営に引っこ抜かれた可能性もある。
その人が働いていた場所と陣営が繋がっている部分がわかるかもしれない。

「明日は人狼街とスタッズキッチンに行ってみようと思うの」
「スタッズキッチンは確かになんかありそうだよなあ…」

なまえとしては、ノクターンには魔法省も闇の陣営も入り込んでほしくはない。
ノクターンの特性として、闇の陣営が入りやすいのも、受け入れられやすいのも理解はしている。
別に拒否するべきだという考えではなく、ただこれ以上治安を悪くするのだけは避けたい。
ノクターンはどんな人間であっても受け入れてくれる。
それがマグル生まれだろうが、人狼だろうが、犯罪者だろうが、拒むことはなく、老何男女平等に取り扱われる。
その軸は変わって欲しくなかった。

きっと闇の陣営が入り込めば、その軸が代えられてしまう。
なまえにとって、それはリドルを失う次に失ってはならないものだと考えていた。

「今日はこのまま泊まる。夜だし危ないから外には出ないよ」
「そりゃ懸命なことだ」
「別に死にたいわけじゃないからね」

肩をすくめたコレットに、なまえは微笑んでそう告げた。
ノクターンの夜が危ないのは今に始まったことではない。
己を過信せず、夜は出歩かないのが一番だ。

なまえは荷物を魔法で浮かせて、部屋に運んだ。
階段の出窓から見える外はまばらに街灯が見えるだけだ。
それ以外には闇に覆われていて、人の姿も見えはしなかった。
隠れるならちょうどいいのだろう、闇の陣営にとっても不死鳥の騎士団にとっても。
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