131.ベールの向こうで
なぜ、みょうじがここにいるのか。
ハリーは自分の前を歩く彼女の後姿を見て、不審に思った。
彼女は先ほどのパーティに参加していたが、ハリーがパーティ会場を後にずっと前にすでにパーティ会場を後にしていたはずだ。
少なくともまだこんなところにいるような少し前の話などではない。
もう20分以上も前のことだ。

彼女はまだパーティにいた時と同じドレス姿だったから、寮には戻っていない。
なまえは確か、スリザリン生のセオドール・ノットと一緒に来ていた。
彼の姿は見ていない、なまえ1人で動いているというのか。

ハリーは透明マントをしっかりと被りながら、彼女の後を追った。
なまえはスリザリン寮とは全く逆の方向に迷いなく歩いていく。
ただ、その足取りはゆっくりで角を曲がるたびに、その角から先を確認していた。
誰かを追いかけているのか…この場合であれば恐らくドラコだろうか。
ハリーはみょうじの不可解な行動を見ながら、彼女の隣や前を歩き、マルフォイたちの居場所も探ろうとしていた。

「…うん、お願いね、リドル」

みょうじの隣の教室に耳を当てていたハリーは耳を疑った。
今、みょうじはなんて言っただろう?
彼女は今一人だけで、周りにはハリー以外誰もいない。
だというのになまえは誰かに向けて話した、その誰かの名前も言っている、リドル。

その名前は4年たった今でも忘れることはできない。
トム・リドル、今のヴォルデモートの過去の名前。
なぜ、みょうじはその名前を言ったのか。
聞き間違いかとも思ったが、この静かな廊下で聞き間違いはないだろう。
何より、ここには誰もいないはずなのに。

みょうじはそれだけ言うと、パーティ会場のほうに歩いて行った。
何事もなかったかのように、角を曲がって姿を消した。
ハリーはその背中を追ってどういうことなのか問い詰めたい気持ちを抑え、先へ進んだ。
誰かがいるのかもしれない、自分のように姿を消すことができる…見えないゴーストのような姿のリドルがいるかもしれない。
ありえないことだとは思う、だがハリーは今のみょうじの言葉が恐ろしくてしょうがなかった。

警戒をするに越したことはないし、マルフォイとスネイプに見つかるわけにもいかないから、透明マントは脱げない。
考えを巡らせながらも、ハリーは慎重に空き教室の中を探り続けた。




なまえはいったん、セオドールの元へと戻った。
彼は廊下の壁を調べるのに飽きたらしく、壁に凭れて目を瞑っていた。

「あ、ごめん」
「ううん。そっちはどうだった?」
「ドラコはスネイプ先生に連れられて行っちゃったから…話は聞けなかったの」
「こっちも必要の部屋はうまく見つからずって感じだ。一旦寮に戻ろう」

セオドールはなまえの話を聞いて、しょうがないと呟いた。
今まで悟られずに慎重に行動していたドラコのことをそう簡単に知れるわけがないとセオドールは自分に言い聞かせた。
間もなくクリスマス休暇が始まる。
ドラコは家に帰るのだろうか、それとも学校に残るのか。
学校に残るとすると、これからこの付近を調べるのは難しくなる。

セオドールはクリスマス休暇に家に帰る必要があった。
というのも、彼の父が投獄されてからセオドール自身が当主と同じ仕事を任され始めたからだ。
もともとノット家の跡を継ぐのは分かっていたから、幼少期からそのための訓練も受けてきた。
やり方は分かっているが、それでも負担になることは明白だ。

「…クリスマス、僕は家に帰らないといけない」
「うん?」
「だから、なまえ、悪いけどドラコのこと頼めるか?」
「あー…ごめん、私も今回は家に戻るの。でも、今年、ドラコは家に帰らないの?」
「どうだろう、そこまで聞いてなかった。後で聞いてみる」

セオドールは珍しい、と少し目を見張った。
大抵の場合、なまえはクリスマス休暇をホグワーツ過ごしていた。
あまり家のことも話に聞かないが、今回は帰るらしい。
この危ないご時世だから、家族に会いに行くのだろうかというところまで考えて、セオドールははっとした。

なまえに家族はない、自分は孤児だと言っていた。
とすると、同居人(なまえの話の中で出てくる一緒に住んでいそうな人はその人くらいだ)に呼び出されたのか。
ただ彼女はノクターンに住んでいると言っていたはずだ。
あんな治安の悪いところにわざわざ呼び出す意図は何だ。

「…なまえは何をしに帰るの」
「え?」
「ノクターンに戻るんだろう、この危ないときに」
「ノクターンには戻らないよ。同居人の実家に行く予定」
「嘘をつくのはうまいけど、内容が下手すぎ。同居人の実家に行く意味がないだろ」
「…うーん」

なまえは困ったように微笑んだ。
セオドールの言ったことがすべて図星だったからだ。
あーあ、と後ろに漂うリドルは呟いていたが、彼も今の状況にそこまで危機感を覚えていない。

「…まあ、なまえが言いたくないならいいけど。ドラコと違ってなまえは無茶しなさそうだし」
「ありがと」
「何かあったら言って」

なまえの様子にセオドールは諦めたようにため息をついた。
最初からセオドールにノクターンで何をするのか聞かれるのか分かっていたかのような、そしてその後彼が聞きだすのをあきらめるのも分かっていたかのようだったからだ。
なまえは言いたくないことがあるとき、相手が諦めるのを待つタイプだ。
無理に嘘をつかず、分かりやすい嘘でかわし続ける。
そのやり取りに意味などあるわけがないから、相手が諦めるというわけだ。

なまえはドラコと違って人に頼るのがそう下手ではない。
むしろ、大事なところを隠して人を使うことには長けているようにも思えた。
本当になまえだけではどうにもならなくなったとき、彼女は人を頼り、使うことが得意だ。
だからスリザリンなんだろうな、とセオドールは1人心の中でごちた。
prev next bkm
×
「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -