130.秘密のベール
なまえは駆け足で戻ってくるセオドールを止めて、唇に人差し指を当てた。
それで彼はすぐに意図を察したらしい、なまえと同じように角に隠れて耳を澄ませた。

「パーティーはもうとっくに始まっているだろう!嘘をつくな!」
「教授に呼ばれて遅れただけだ!」
「パートナーはどうした?ん?」
「先に行ってる、ついてくるな、このスクイブめ!」

ドラコはフィルチを振り払うように怒鳴り散らしている。
フィルチに対して嘲笑したり、馬鹿にしたりするような発言は昔からあったが、あのように声を荒げて反論するようなことはなかった。
それほど余裕がないのか、何か後ろめたいことでもあるのか。
どちらもあり得るな、となまえは考えながら、話を聞いていた。

スクイブと呼ばれたことが癪に障ったのか、フィルチは言葉にならない声を上げた。

「なら!ついていこうじゃないか?え?」
「っ…好きにしろ!」
『あーあ、腕を掴まれてあれじゃ逃げられないね。彼、本当は呼ばれてないんだろう?』

ドラコの様子を見に行っていたリドルがなまえの元に帰ってきた。
どうやらドラコはフィルチに腕を掴まれて、パーティー会場に連れて行かれたらしい。
リドルの言う通り、ドラコはスラヴ・クラブに呼ばれていない。
このままパーティー会場に行けば、そのことが露見してばれるだろう。
簡単にばれる嘘をつくほど、冷静さを欠いているということだ。

フィルチ程度にこれほど動揺するということは、何か大切なことをここでしていたということだ。
なまえとセオドールは顔を見合わせて、先ほどまでドラコがいた廊下に足を踏み入れた。

「パッと見た感じ、何もないけど」
『この階に、必要の部屋があったはずだよ』
「…もしかして、必要の部屋ってこの階に?去年、ドラコとパンジーでポッターが隠れクラブ作って必要の部屋で特訓してるの、追いかけてたよね」
「あ」

セオドールははっとしたように、廊下の壁を触り始めた。
必要の部屋であれば人に見つかる心配もないし、自分の好きなことができる。
恐らくドラコはずっと秘密の部屋で何かをしていた。
もしかすると、まだ何かしている最中だとしたら、ドラコが戻ってくるかもしれない。

ただ、パーティ会場に連れ出されたドラコがどうなるのか気になる気持ちもあった。
今のマルフォイ家が怪しい動きをしているから呼ばないだけで、本来であればドラコもまた、スラヴ・クラブに入っていておかしくはない。
恐らく、スラグホーンは彼を無下にすることはないだろう。

だが、会場にはポッターがいる。
ポッターになぜドラコがここにいるのか勘付かれたら面倒なことになる。
恐らく同じことをドラコも考えているに違いない。
ドラコとポッターは付き合いが長いだけのことはあって、ドラコはあまり嘘が得意ではないことをポッターは理解しているし、ポッターは案外賢く、勘が鋭いことをドラコは理解している。
だから、パーティ会場に長居はしたくないだろう。

「セオドール、ここで必要の部屋を探してくれる?」
「ああ…なまえはどうする?」
「パーティ会場の方に行ってみる」

もしかしたら、パーティ会場から出てくるドラコに会えるかもしれない。
必要の部屋を探すのは後でもできるが、ドラコの動向を知りたい。

夏に会ったマルフォイ夫人は1人で何かをやり遂げられそうな人ではなかった。
ベラトリックス・レストレンジとは全く違う人種だ。
基本的には、誰かに助けを借りようと考えるだろう。

ヴォルデモートはマルフォイ夫人のいないところで、なまえにドラコを手助けするように命令した。
ただこれは恐らく、うまくいかなかった時の保険とうまくいかなかったことを見ていた人間がいるという監視の意味も含まれている。
うまくいかなかったとき、なまえは最悪、遠回りではあるし気づかれはしないだろうがドラコを貶める可能性がある。

なまえはパーティ会場に差し掛かる曲がり角で止まり、リドルに会場のドアを見てもらように頼んだ。

『…来たね。スネイプが一緒だ。僕が先に行くから追おう、なまえは距離を多めにとって』
「うん」

リドルが先を歩き、スネイプ先生とドラコの後を追い、なまえはそのリドルの後を角を一つ挟むようにして、姿を見られないように追った。
マルフォイ夫人は学校にいるドラコの面倒を見る助っ人としてスネイプ先生を選んでいたのだろう。
だから今回、マルフォイが何かやっていて、フィルチにばれたのを助けたに違いない。

やはり、スネイプ先生は闇の陣営側の人間なのだろうか。
それとも、ただのお人好しで、生徒を放っておけずに助けているのか。
どちらとも取れるが、スネイプ先生の意図をなまえはつかみきれずにいる。
ただその理由の一つに、スネイプ先生自身もまだ自分がどうしたいのか、揺らいでいるからというのもありそうだとなまえは彼と向き合った時に思ったのだ。
芯はあるが、どう動くべきなのか迷っている。
根本的に、スネイプ先生は悪い人ではない。
直観ではあったが、なまえはそうだと思っている。

スネイプ先生はポッターを貶めるようなことを言ったりしたりはするものの、本当に彼を見捨てることはなかったと思う。
校長が見ているからということもあるとは思うが、それでもスネイプ先生の行動は少し不可解な部分がある。

『…空き教室に入ったな。僕が聞いてくるよ』
「うん、お願いね、リドル」

先に進んでいたリドルがパッと戻ってきた。
どうやら2人は人気のない空き教室に入って行ったらしい。
出て行くときになまえの姿を見られるのは良くないということで、なまえは一度離れて待機することにした。
セオドールの方に戻った方がいいかもしれないという考えもあり、なまえは踵を返した。

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