129.夜の散策
セオドールが歩く後をなまえは追うように歩いた。
特に会話もなく、ただヒールが大理石に当たる音だけがしていた。

「…なまえ、少し散歩してもいいか?」
「え?」
「なまえが寒くなければだけど」

今まで無言だったセオドールがただ一言、そういった。
散歩といっても、校内だし、日も暮れて外も見えないし、彼の意図も読めない。
立ち止まってなまえを見据えるセオドールを、なまえは見つめ返すしかできなかった。
ただ、セオドールが何かをしたいという時は決まって、何かがあるときだ。

なまえは寒さに備えてショールを羽織っていたし、ヒールもそこまで高いものではない。
だから、散歩をするのに辛い恰好というわけでもない。

「別にいいけど…どうして?」
「…今日、ドラコが朝早くから部屋を出て行って、それ以来会ってない。今、ホグワーツには生徒が少ないし、動くにはいい時期だ。どこかにいるかも」

セオドールは呟くようにそういって、前を歩きだした。
確かに彼の言うことは、的を射ているのかもしれない。
なまえは彼の隣に立って歩いた。

校内をぐるりと一周するように歩いてみたが、ドラコの姿はなかった。
すれ違う人の数も片手で数える程度しかいなかった。
動くなら確かに格好の時期だ。
歩きながら、セオドールはなまえにドラコの様子を話した。

最近のドラコは課題もやらず、部屋から出てどこかへ行っているらしい。
セオドールがそれに付いていこうとしたが、何度も撒かれてしまった。
恐らくは警戒されているのだろうというのが、彼の意見だった。
また、クラッブ、ゴイルもともに居なくなることが多く、きっと彼らもドラコの手伝いをしているのだろうことが伺える。

「ドラコは今日、僕らがスラヴ・クラブに出ていると思っているし、警戒は薄いと思う」
「まあ、そうかも」
「絶対ドラコは何かしてる。やめさせないと」
「うーん…」

セオドールは基本的に穏便に物事を済ませるタイプだと思っていたが、少し違っていたようだとなまえは感じた。
無口で素直なタイプだが、多少なりとも真面目すぎる面があるらしい。
もともとセオドールとドラコは入学前からの付き合いがあるようだったが、ドラコが一方的に苦手意識を持っていたらしく2人が仲良くしている姿はそう見られなかった。
それも、セオドールの真面目すぎる性格が原因だったのかもしれない。

なまえはやめさせる云々というよりは、ドラコの動向を把握しておきたいという部分に重きを置いている。
もしやめさせて、ドラコの家族に何かあったら、恐らく彼は正気でいられなくなるだろう。

西塔から東棟へ、東棟の2階から1階に一度降りて、2階、3階と回ってみたが、ドラコの姿はない。
どうやらセオドールは城内をぐるりと回るつもりらしく、2階のパーティ会場のあるフロアまで回ってきた。
あと2つ角を曲がれば、パーティー会場に着くなとぼんやりと考えていたなまえの足元でふにゃあ、と猫の鳴き声がした。

「ミセス、ノリス?」
「…フィルチか」
「お前ら、そんなところで何してる!」
「パーティーの帰りです。彼女の気分が優れないとのことでしたので」

なまえがしゃがみ込んでノリスの喉元を掻いていると、前からフィルチがやってきた。
明らかにパーティー会場の方へ足を向けていたにもかかわらず、なぜか納得したフィルチは無言でなまえとセオドールの横を通り抜けようと足を踏み出した。
この先のパーティー会場の近くまで行くつもりらしく、なまえとセオドールの双方を睨んで去って行った。
ミセスノリスもそのあとについていく。

フィルチにパーティーから帰る途中と行ってしまった以上、彼の後はついていけない。
もし西塔の3階を調べるのであれば、一度動く階段のある吹き抜けまで戻って3階に行かなければならなかった。
セオドールもなまえと同じことを考えていたが、彼の中でドラコに対する熱が完全に冷め始めていた。

「…帰ろうか」
「あ、うん」
「これだけ探したし、部屋にいるかも」

一気に諦め始めたセオドールになまえは苦笑いしながらも、まあいいかと思った。
ドラコのことは気にならないわけではないが、西塔3階には変化術の教室や呪文学の教室、図書館がある程度だ。
あまり気になるところはないし、隠れられそうな場所もない。
最初から飽きていたリドルはようやくか、と呟いた。

ドラコが見つからなかったことが少しセオドールの機嫌を悪くしたらしい、彼はなまえを置いて、さっさと動く階段のある浮き抜けの方へと歩いて行ってしまった。
なまえも彼を追いかけようと歩き出したその時、背後からフィルチの生徒を詰問する声がまた聞こえた。
いったい誰が捕まったのだろうか、となまえは気になって立ち止まった。

「僕はパーティーに呼ばれたんだ!」
「…ドラコ?」
「え?」
『見てこようか』
「お願い」

立ち止まって曲がり角の方を見ていたなまえには、しっかりとフィルチの問いかけに乱暴に答えるドラコの声が聞こえた。
既に階段の方へと向かっていたセオドールには聞こえていなかったらしく、彼は足を止めてなまえを見た。

なまえは様子見をリドルに任せて、セオドールが戻ってくるのを待った。
曲がり角はすぐそこで、覗けばきっとドラコとフィルチの姿が見えるだろう。
しかし、なんとなく姿を見られるのは良くない。
フィルチに帰ったんじゃないのかと言われるのはもちろん、ドラコに不信感を抱かれるのも嫌だった。
後者については考えすぎという部分もあるが、神経質になっているドラコの負担を増やす可能性がある以上、慎重になって悪いことはない。
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