128.戦略とコミュニケーション
会場にはすでに何名かの生徒が集まっていた。
生成色のチュールの垂れ幕が幾重にも敷かれた天井、中華風の赤橙のランプ。
普段暗く落ち着いた色で統一された寮で過ごすなまえにとっては、少し目が痛くなるような光景だった。

部屋自体もあまり広いわけではない。
談笑をするためのスペースであり、ダンスをするような予定もいから当然といえばそうなのだが、なまえにとっては想定外だった。
できる限り部屋の端に寄って、来ている人を見回す。
グリフィンドール、レイブンクローの生徒が多いようだった。
スリザリン生はあまりいない。

「なまえ、疲れた?」
「まあ…でももう少しいる。せっかくパンジーが着付けしてくれたし」

ノットはなまえの傍にスツールを持ってきて、座るように促した。
立式のパーティだったため、椅子はないようだ。
ザビニは既にスラグホーンに捕まっていて、引き攣った笑顔で写真を取られている。

ノットはザビニを盾にそこから逃げ出してきたらしい。
こういう時、おしゃべりなザビニは損な役回りになる。
無口でとっつきにくいノットとプライドの高いドラコをうまく取りまとめるザビニは、その2人と話す機会を欲する人の登竜門になりがちだ。
曰く、母親に取り入るためにザビニを介す男どもを蹴散らしていた実績があるから、心配には及ばないとのことだった。
外交官にでもなれるのではないかと思いながらも、なまえは遠巻きにスラグホーンと話しているザビニを見ていた。

ノットは飲み物を取りに行ったようで、傍にいない。
ぼんやりと周囲を見ていると、ポッターやグレンジャーも会場内にいるようだった。
ポッターが物珍しそうにこちらを見ている。

「…スラグホーンが来る。なまえは行った方がいい」
「んー…いや、いるよ」
「いいの?」
「うん。早いところ終わらせちゃおう」

淡い桃色の飲み物が入ったフルートグラスをノットから貰って、なまえは軽く唇を濡らした。
確かに、ノットの後ろからスラグホーンがこちらにやってきている。
なまえが立ち上がったのを見て、ノットは振り返ってスラグホーンを見据えた。

ノットはこういった場で目上の人間と話すことに慣れていないわけではない。
むしろ、ノットの父はかなり歳を取っているため、知り合いは年上が多い。
その知り合いたちは皆、ただ歳を重ねているだけではない。
無論、ただ歳を重ねただけの人間もいる…ノットは自分の父がそれに準ずる人であると感じている。
ただ、父親の周りの人間はそうでない。

ノット家は大きな癒者一族だ。
ノットの父は才能がなかったといわれるが、セオドールにはそれがあった。
その才能を見出したのは父ではなく、父の周りで仕事をしている現役の癒者たちだった。
幼いころから暇な医者に勉強を見てもらっていたセオドールにとっての友人は、間違いなく彼らで、皆40歳をゆうに超えていた。
そして、その年齢に準じた風格と威厳を有していた。
だからこそ、セオドールはその人たちと向かい合うときは、尊敬すべき人たちとしてそれにふさわしい態度を取るように心がけていた。

だから、大人と向き合うのは得意な方だった。
ただ歳を重ねただけの大人に向き合うのも、またできないわけではない。
ただただ、つまらないだけで。

「こんばんは。ようやく来てくれたんだね、セオドール!」
「ええ。ご無沙汰してます」
「君もね、ミス」
「はい」

スラグホーンは反応の薄いなまえではなく、落ち着いて受け応えができるセオドールと会話することにしたらしい。
なまえは静かにセオドールの半歩後ろに下がった。

スラグホーンは、セオドールの魔法薬に対しての知識や家のことを褒め称えた。
セオドールはそれをうまく受け流しつつ、スラグホーンを持ち上げつつ、話を進める。
なまえは純粋にセオドールの話術に驚いた。
普段は非常に無口だから気づかなかったが、意外と社交性がある。

「魔法薬学といえば、後ろのお嬢さんも素晴らしい!ねえ、ミス・みょうじ。マグル生まれとは思えないくらいだ!グレンジャーも素晴らしいが、魔法薬学についてはみょうじの方が優れているね、そうだろう?」
「グレンジャーと比べること自体が間違っていると思いませんか、スラグホーン先生」
「はは、そうかもしれないがね」

なまえはマグル生まれといわれたことに、ピクリと反応した。
別にマグル生まれであることを隠しているわけでもないが、スリザリン生としてそれを大声で言われるのは好ましくない。

しかし、なまえよりも先に反論したのはセオドールだった。
彼が先ほどよりも強い口調で答えたため、スラグホーンは少したじろいだ。

「お褒め頂き光栄です、先生」
「いやいや、本当に君は才能ある魔女だ。周りの人間に影響されたのだね」
「ええ。セオドールにはいろいろと教えてもらっています」
「僕の方こそ、なまえから得るものは多い」

さっさと話を終わらせようと、謙遜するのをやめて受け入れることにした。
謙遜すれば、その謙遜した部分を評価してまた話を始めるだろうと思ってのことだった。
セオドールはそれをうまく汲み取り、スラグホーンが入ってこられないような雰囲気を出した。

その計画通り、スラグホーンの話をよそに、お互いを褒め始めた2人にスラグホーンは苦笑いしながら、私は邪魔なようだねといって去って行った。
遠巻きになまえとセオドールを見ていたザビニが、入れ違いでやってきた。

「うまくやるじゃん」
「まあ。もう帰ろう、挨拶もしたし」
「お前マジで帰ることしか考えてないのか…」

セオドールはとにかくこの空間が嫌なのか、帰りたくて仕方がないようだ。
なまえも気持ちは同じだが、せっかくパンジーが綺麗にしてくれたのに、という思いもあるため、どうするか迷っている。
ザビニの呆れた顔の向こうに、ポッターがいた。

そういえば、今日はよく彼と目が合う。
何かあるのだろうか、と思いながらも、なまえはセオドールの後ろに隠れるようにスツールに座った。

『まあ帰ってもよさそうだけど』
「…セオドールが帰るなら、私も帰る」
「じゃあ帰ろう」
「お前らなあ…まあいいけど…俺は残るわ、ダフネが友達と喋ってるし」

リドルがそういうのもあって、なまえはスツールから立ち上がった。
パートナーを置いて行くわけにはいかないから、なまえが帰るといわなければセオドールは帰れない。

ザビニはパートナーであるダフネに合わせるようだ。
彼自身、スラヴ・クラブにも慣れているから、そこまで問題はないだろう。
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