127.派手な聖夜
昔はあんなに活発だったクディッチも、今やスリザリンでは娯楽として機能していない。
どうやらグリフィンドールのウィーズリーがキーパーになったとか、スリザリンチームはやりたいアホだけがやってるとか、色々と聞いた。
主に、ザビニからだ。

今まではドラコからこういった情報は聞いていた。
変わってしまったのだと、身にしみて感じる。

「なまえ?ちょっと聞いてるの!?」
「聞いてる…」
「ドラコにばれないように、ね!」
「わかってる」

髪をシニヨンにしてもらいながら、なまえは答えた。
パンジーはこれから実家に帰るようで、ドアの近くにトランクを置いてある。
長いなまえの黒髪を綺麗に纏め終えたパンジーは、満足そうによし、と呟いた。
パンジーの隣にいたアリシアがうんうんと頷いていて、どうやら彼女のお眼鏡にも適ったらしい。

なまえは涼しくなった首元を隠すように、ファーを巻く。
白く華奢な鎖骨には、シルバーのネックレスがかかっていた。
2つのディープグリーンの石を蔦のような細い銀細工が繋いでいるデザインのもので、以前、パンジーにプレゼントされたものだ。
そのネックレスを見ると、ようやくそれを使う時が来たわね、と嬉しそうに笑ったパンジーの顔が脳裏にちらつく。

「にしても、やっぱりなまえって綺麗よねえ…」
「え?」
「綺麗な顔してるし、線も細くて華奢で、守ってあげたくなるっていうか…一定の男にはモテそう」
「そう?細すぎるのって気持ち悪いでしょ?」
「最近、なまえもちゃんとつくべき場所にはついてるし」

パンジーはなまえの結い上げられた髪のてっぺんから、爪先までざっと見た。
アリシアがポツリと零した言葉に、パンジーが力強く頷いた。
なまえはきょとんとしているが、リドルはきちんとパンジーの話を理解している。

16歳になったなまえは身体に丸みも出てきて、数年前までの細すぎる身体が思い出せないくらいだ。
適度についた肉はなまえの身体のラインを強調するようになってきたし、肌や髪の艶が出てきたし、纏う雰囲気も変わった。

「ドレスのセンスもいいし…結婚早そう」
「まだ16歳なんだけど…」
「別にいいじゃない?ディゴリーにセオドールに選り取り見取りじゃないの」
「なんでそうなるの…」

なまえはうんざりしたようにパンジーを見た。
そう、魅力的になったとはいえ、中身はそう変わっていない。
一般的な女性の幸せに興味がないし、想像もつかないのがなまえだ。
だから、パンジーの話を億劫そうに聞くほかない。

「そういえば、アリシア先輩、彼氏さんとクリスマスですか?」
「そうなの。あんまりいい時期じゃないと思っているのだけどね。でもほら、こういう時こそ、一緒にいたいじゃない?」
「わかりますよ、それ!なまえもそう思うでしょ?」

そろそろ待ち合わせの時間だな、と思いながら立式の古時計を見ていたなまえはいきなり話を振られて慌ててアリシアたちを見た。
星でも入っているんじゃないかと思うくらいに輝いている瞳を見て、なまえは苦笑いした。
セドリックの一件をまだパンジーに話していないから、多分、セドリックの話をしているんだろうなとなまえは考えた。

曖昧に笑って頷くなまえの心境に気づいているのかいないのか、パンジーはうっとりと話をつづけた。
アリシアはなまえの異変に気付いているのか、少し困惑した顔でパンジーを見ていた。

「なまえってどんなシチュエーションがいいの?」
「え」
「どこで一緒にいたいとか、何したいとか!」
「えーっと…んー…」
「私、一緒にお風呂に入ったりするの好きよ?」

シチュエーションって何の?とは聞けず、なまえは固まるばかりだった。
今までじっと堪えていたリドルがとうとう笑い出したのを、なまえは恨めしげに睨むばかりだ。
なまえがこういった話題に疎いのを分かっていてパンジーは話をしているわけではなく、ただ単に親友の女の子と恋バナをしたいという純粋な思いで話をしているということはよくわかっているので、この話題を無下にするのも心が痛む。

回答に困る質問をされたなまえに助け舟を出したアリシアは、なまえに、ね?と同意を求めた。

「確かに、お風呂はいいかも…お風呂、好きだし」
「やだ、結構積極的じゃない!」
「…そう?」

リドルは昔から時々お風呂に勝手に入ってくるけど、と思いながら、なまえはドレスの裾に皺を付けないように気を付けながら座りなおした。
なまえが入ってくるなとリドルに言うからか、最近は少なくなってはいるが、そんなこともあったくらいだ。
なまえにとってお風呂はリラックススペースなので、そういうところなら2人でのんびりできるのだろうかと考えた。
しかし、よくよく考えてみれば恥ずかしいことこの上ないので、絶対にやらないだろう。

なまえの曖昧すぎる淡泊な回答に、話題のミスを感じたパンジーが、まあ、綺麗ってことよと無理やり話を切った。
立式の時計は既に待ち合わせ時間を5分ほど過ぎた時刻を指示していた。

なまえはパンジーと一緒に階段を下りて、談話室に向かった。
そこにはすでに、ノットとザビニ、それからグリーングラスが待っていた。
どうやらザビニのパートナーがグリーングラスらしい。

「ごめんなさい、お待たせして」
「いーよ、別に。どうせパンジーが気合入れたから遅れたんだろ」
「煩いわねー、せっかくのことなんだから可愛くしたくなるじゃない」

ザビニとパンジーがじゃれ合いのような言い合いをしているのを尻目に、なまえはノットの傍に寄った。
事前にノットとは話し合っていて、お互いに青を基調としたスタイルでいこうとしていた。
そのため、なまえはオフショルダーの淡いブルーのドレスを選んだ。
ドレスの裾に散らされたパンジーの花びらが、パンジーに大好評だった。

そのドレスに合わせるように、薄水色のシャドウに自然な桃色のチークを選んだパンジーがザビニに食って掛かっている。
なまえは苦笑いしながら、もうそろそろ、とノットに声を掛けた。

「行こうか」
「うん」

ノットとなまえがスラヴ・クラブに参加するのは初めてのことだった。
そのため、基本的にはザビニについて回っておくようにすると決めている。

寮を出て、スラグホーンの指定したパーティールームまで向かう。
あまり人はいないのか、廊下は静まりかえっていた。

「まあ、実家に帰るやつが殆どだよなあ。グリーングラスは帰んのか?」
「いえ…父が今年は帰ってくるな、と」

なまえは今年の夏にグリーングラスにあったことを思い出した。
彼もまた、闇の陣営の手下として働いている。
ドラコの一件が合った以上、子供を手元に置いておく方が危険と判断したのだろう。
ましてや、息子ではなく娘なのだから、余計に心配に違いない。

なまえは不安そうに話すダフネをちらと見た。
彼女も父親の事情を理解しているのか、気まずそうに顔を伏せた。

「ま、ダンブルドアがいるうちはこっちのが安全かもな」

ザビニがそう言い纏めると、隣のダフネも頷いた。
スリザリン内でも、様々な意見がある。
大きく分けて、ダンブルドアに守られるか、ヴォルデモートに守られるか。
現実は、熱狂的なヴォルデモート信者出ない限りは、前者を選ぶ。
多少虐げられたとしても重要なのは、家族の安全と平和だ。

ただ、表面上はそれを出してはならないし、悟られてはならない。
悟られないわけがないのだが、それでも純血の家はある程度の体裁を保たないと、裏切り者として真っ先に始末されてしまう。
なまえからしてみれば、それは非常に矛盾した行為だ。
純血主義とあくまで、純血の権限と保持のために生まれたはずだった。

それが今や、純血であることを強いて彼らを追い詰め、一般の魔法使いからは何か危ないことをしでかす奴らとして腫れもの扱い。
味方であるはずの純血主義のボスに殺されることに恐怖している。

「まあ、今日はのんきに行こうぜ。なんたって、このご時世だろうが何だろうが、いつまでも自分の体裁を煌びやかに見せるだけに生きてる爺さんの開催するクリスマスパーティーだ。最高に楽しいぜ」
「言い過ぎだ、ザビニ」
「でも、大体あってる」

ザビニの長すぎる皮肉をくすくす笑いながら、なまえとノットも同意した。
一歩遅れて、ダフネが笑い出した。

目の前には無意味に装飾の施されているオレンジの扉がある。
その奥では、外を見ることをやめた年寄りが開く、とってつけただけのクリスマスパーティーがあるのだろう。

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