126.クリスマス休暇の前に
なまえはそのあとすぐに解放された。

寮まで送るといったその後、なまえとスネイプの間に言葉はなかった。
だがお互いに、お互いが敵でないことを確認できた。
ただそれにどのような意味があるのかは、わからないが。

『結果オーライといえばオーライなのかな』
「今後もう少し自重して」
『…悪かったよ』

なまえは怒っていたのかもしれない。
リドルの軽率な行動で、危うくダンブルドアに存在がばれるところだった。
なまえにとって、最も重要なことは今の暮らしを維持すること。
金でも名誉でもない、それはリドルも理解していることだろう。

1つお互いのうちで齟齬があるとすれば、その暮らしにリドルがいるのかどうかだ。
無論、リドルもこの先、なまえの隣に自分がいることを望んではいる。
ただその根底でいつかは自分がいなくなることを、いつでも自覚している。
その矛盾をリドル自身はそれを意識していない、ただ、時々行動に出てくるのをなまえは知っている。

今のヴォルデモートにはなかった、自己犠牲と愛。
それが今のリドルにはあった。
なまえはそれが許せない、自分が守ろうとしているものを無意識にとは言え、投げうとうとするその意識が。

「…まあいいや、とりあえずたぶん大丈夫っぽいし」
「あ、なまえ!遅かったじゃない、どうしたの?」
「うん、ちょっとね」

談話室のドアを開けると、そこにはパンジーとザビニ、ノットがソファーの傍で談笑していた。
なまえを見かけると、パンジーが駆け寄ってきた。
3人は、今日は寒いとのことで城の中に一日居たらしい。
ソファーの前のテーブルには、チェス盤や本、クッキー、ティーカップが散乱している。

なまえがソファーの傍に行くと、ザビニが縋り付くような目でなまえを見た。
彼の手には、黒のポーン。

「なあ、なまえ。こっからどうにかなんねーかな?」
「…ならないんじゃない?」

どうやらザビニとノットは何度もチェスをしていたらしい。
パンジー曰く、ザビニはちっとも勝てなくて、負けるたびにかけていたお菓子を持って行かれているらしい。
お菓子で済んでいるあたりが、2人らしい。
ちなみに、ちらと見た盤上は間違いなく、またザビニの負けだ。

ノットは、のんびりと紅茶を片手に本を眺めている。
どうやらザビニとのチェスは読書の片手間に行っているらしかった。

「ドラコは?」
「今は部屋だろ。あいつ課題溜め込みすぎだからな」
「…呼んでくる。もう夕食だし」

ノットはザビニのキングを倒して、席を立った。
どうやら、ザビニに勝ち目はなかったらしい。
なまえがそのチェス盤を見ていたが、どうみても勝ち目がなかった。

ノットがドラコを呼びに行くのと同時に、パンジーも一度部屋に戻るといって席を外した。
なまえはノットの座っていた席についた。

「そういや、なまえ。セオがクリスマス暇かって」
「え?」
「いや、そういうんじゃないんだけど。ほらあれだよ、スラブクラブのクリスマスパーティ」
「ああ…あれ。セオドールも行くんだ」
「俺も行くけどな…断りようがないし」

なまえの元にも手紙は来ていた。
だが、リドルがスラグホーンに時間を割く必要はないといったので、特に干渉していない。
きっと彼自身もなまえのことを家柄は良くないが、それなりに優秀な子ということで読んでいるだけだ。
そこまでの執着はないだろう。
断ろうと思えば断れるが、付き合いで行くくらいならまあいいかと、なまえは考えた。
特にクリスマスに用事もない。

ただ、流石に今回はドレスを用意しなくちゃな、と思ったあたりでドラコとノット、それからパンジーもやってきた。

「お、来たな。じゃあいくか」
「ああ」
「…ドラコ、課題はちゃんとやったほうがいい」
「余計な世話だ、ノット」

ノットと一緒に降りてきたドラコは青い顔を彼に向けた。
彼は少し痩せたようだ、背の高さも相まって針金みたいだった。

何かやっているのだろうことは分かるが、ドラコのやっていることは一向につかめない。
彼が追い詰められて行くのだけが目に見えてわかる。
ドラコの父もノットの父も同じようにアズカバンに入れられた。
それでもなお、ドラコのほうが大変なのは間違いなく、家への思い入れが深いからに違いない。

ノットは父との折り合いが悪く、家に関して思い入れは一切ない。
自分のやりたいことが決まっていて、それ以外を見ていない。
あとはなまえと同じ、スリザリンの同年代の中ではかなり優秀だ。
だから、スラグホーンに呼ばれるのだろう。

「…なまえ、あとでいい?」
「うん?」
「クリスマスのこと。ドラコには聞かせたくない」
「ああ…うん」

ぼんやりと列の最後尾を歩いていると、その歩幅に合わせてノットが隣に並んだ。
ノットは小声でそういった。
なまえはそれに小さく頷き返して、思った。
早くドラコのやっていることが何なのか、見つけないといけない。

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