125.軸
スネイプは“スリザリンのロケット”について、それ以上の言及をすることができなかった。
なまえの言うことは確かに理に適っていたからだ。
真実薬を騙して飲ませたことについては、謝罪をした。

「いえ、私も疑わしいことをしてしまっていたので大丈夫です。…あの、彼のことはどうか内密にお願いします」
「校長にも言うなということか」
「はい。校長は特に彼を警戒していますから、ばれたらどうなることか。誓って、彼が誰かに危害を加えることはないんです」

ソファーに座り、新しい紅茶を受け取ったなまえはスネイプに頼んだ。
リドルがスネイプに呪文を放ったことについて、なまえが一番恐れていたのはこのことだった。
リドルの存在が教師にばれるということは、ダンブルドアにばれる可能性も高まったということ。
なまえは分霊箱の存在が知られることよりも、“スリザリンのロケット”を保有していることよりも、何よりも、リドルの存在がダンブルドアに知られることが恐ろしかった。

「みょうじ、お前は確実に中立なのか」
「まあそうですね。どちらについても、私に有益はないですし。今くらいの暮らしが保証されるのであればそれが一番です」

なまえの本心はここにある。
別にヴォルデモートに命を狙われているわけではないし、ポッターたちに恩があるわけでもない、あえて言うならダンブルドアが嫌いなだけだ。
2人の物語に首を突っ込むことはない。
ノクターンに住んでいて、色々なところで出会った人々と仲良くなったから少し動いているくらいだ。
…まあその結果、ヴォルデモートに目は付けられたのだが。

意外にもなまえは利益や理性で動くタイプではない、自分の感情で動くタイプだ。
過ごしやすいだとか、この人が気に入っただとか、気が合うだとか。
そういう想いで動く。

「…そうか、それならば心変わりは少なさそうだな」
「まあ…そうかもしれませんね」

最近心変わりして先ほど恋人と別れ話をしていたとは言えないが、頷いておいた。
スネイプはいつもの嫌らしい仏頂面ではない顔をしている。
なまえは注意深く、彼の顔を見ていた。
不安と疑心、それから少しの安心。

なまえはそこまでスネイプに警戒されているわけではないと悟った。
そして、スネイプが何かしらのことに巻き込まれているのでは?と感じた。
夏にスネイプに会った時とは、少し顔つきが違う。
何かあったのかもしれない、なまえはその部分を懸命に考えた。
ヴォルデモートからの命令は、ないとは言い切れないが、スパイという身の上を考えるとないと思われる。
スパイという作業自体が、すでに任務になっているからだ。

「先生は、色々言われていますが、…誰の味方なんですか?」

ダンブルドアはもう、表立って何か行動を起こすことはなさそうだ。
魔法省にも見限られているみたいだし、頼りになるのは不死鳥の騎士団のみ。
そちらにも本心はおそらく見せないだろうとなまえですら思うのだ、ヴォルデモートが思わないわけがない。
そうなると、スパイ活動は報告くらいしかあるまい。

スネイプという名前が、純血でなさそうなことは分かっている。
かといって、スネイプが純血という名前に踊らされているようにも見えない。
スネイプ自身が闇の帝王の腹心になる意図がつかめない。
ポッターを助けたりもした、ダンブルドアの信頼は厚く、だが闇の帝王の腹心として働く一面も持っている。
いったい、スネイプという男の本心はどこにいるのか。

なまえは知っている、こういう、どっちつかずでふらふらしている人は大抵、欲や権力ではなく人や居場所を求めているだろうことを。
そして、自分自身が全く同じ境遇にあることを。

「誰の味方ですか、スネイプ先生」

なまえは真っすぐに、スネイプを見た。
少なくとも自分は、リドルという人の味方になるために動いている。
だから、リドルだけが味方で、それ以外はどうでもいい。
スネイプも同じ人間なんだとなまえは感じていた。
同じ感覚を、スネイプも感じているのであれば、きっと答えてくれるだろう。

こういう、どっちつかずの人間ほど、扱いやすいものはないから。
お互いがどっちつかずの人間であれば、お互いに利益や結果を求めない人間ならば、信頼ができるから。
同じであれば、頼ってくるはず。

「…、私は、今はもう亡い人のために動いているに過ぎない」
「亡い人…」
「私は私のために動いている。誰の味方というわけでもないだろう。あえて言うなら、私は私の味方だ」
「分かりやすいですね」

スネイプは一度静かに目を閉じて、もう一度開いた。
瞬きというには長い時間だった。

なまえは静かなバリトンの声を、ただ聞いていた。

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