124.和解
スネイプは次に、リドルについて言及した。
これも想定のうちだ、リドルはここで一つ賭けをしなくてはならない。
“スリザリンのロケット”のことを誰にも話させないようにする必要がある。

「まあゴーストが一番近いけど、少し違うものだね」
「…トム・リドルなのか」
「ああ、そうだ。僕は今の闇の帝王の前身ともいえる。ただ、別に今、あいつと連絡を取っているわけでもない」

なまえが“スリザリンのロケット”を持っていると闇の帝王にばれると、大変なことになる。
なまえを気に入っているらしいとはいえ、流石に分霊箱を持たせるほどではないだろう。
基本的に人を信頼しない奴だ、殺してでも奪いに来る。
だが、リドルはこの切り札を闇の帝王に対しての切り札として使うつもりではない。

スネイプが闇の帝王にこのことを報告する可能性は低いように思う。
これが分霊箱とも知られていないし、ただの“スリザリンのロケット”という価値の高いものであるということだけだ。
万が一、闇の帝王に話すとすれば自分の地位が危うくなった時に献上する時くらいか。
ただ、牽制として今は何もしないが、やろうと思えば闇の帝王には自分から報告できるということを理解させる必要がある。

「なんでお前がみょうじについている?」
「拾われたんだよ。なまえが1,2年の時に成績が最悪だったの知ってるだろ?あの時、なまえは本当に英語が理解できてなかった。だから僕が彼女に翻訳魔法をかけたり、勉強を教えたりする代わりに、魔力をもらって永らえてる」
「…あれは本当だったのか」
「嘘をつく意味はないだろ。気づいてやれなかったお前らが明らかに悪い」

スネイプは微かに驚いたらしい。
確かにスネイプは以前、みょうじに英語ができないといわれたことがあったことを思い出した。
あの時は冗談だと思っていたが、そうではなかったらしい。
不機嫌そうにしているリドルを、スネイプは凝視した。

なまえのことを話すリドルが、あまりにも人間味を帯びていて、本当に自分の知る闇の帝王の過去なのか不安になるほどだ。
顔は似ても似つかないが、(目の前のリドルは非常にハンサムだ)その双眸や雰囲気、話し方は確かに似ている。
ただ、とにかくこのリドルはなまえを好み、彼女のために動いていることは理解できた。

「お前は今、みょうじのために動いているということで間違いはないのか」
「ない。僕には今、なまえしかいないから」

こうして話してみれば、リドルは聡明で冷静な青年だ。
先ほど、激高して呪文を放ってきたのが嘘のように。
そして何より、なまえを大切にしている。

スネイプは考えた。
この2人はいつかダークホースになりえるのではないかと。
みょうじ一人では大した力を持っているわけではないが、リドルという優秀な人材を手元に置いている。
闇の帝王の過去ということは、現在の彼の考えていることもそれなりにわかることだろう。
ただ何にしろ、いったい彼らがどこに向かおうとしているのかを探らねばならない。

「…お前は先ほど、“スリザリンのロケット”が切り札になるといったな」
「言ったね」
「“切り札”を切る相手は誰の予定だ」

リドルは一瞬で雰囲気を変えた。
恐らくリドルも気にせず使っていた言葉だが、なぜ、“切り札”なのか。
金に換えるだけなら、そんな言い方はしないだろう。
“切り札”という言葉であることの意味は、誰かの敵になる可能性があるということだ。

一気に警戒を深めたリドルに、スネイプはため息をついた。
リドルは確かに賢く、物事をよく考えている。
だが、彼は見た目通りの経験しか積んでいない。
まだボロを零すようなところもあるし、何より自分がミスを犯さないと思いこんでいる。
若さゆえの驕りが、まだ彼にはある。
スネイプが目を付けたのはそこだった。

「…私たちはあくまで中立です。安全安心な方に着く予定ですので、その時に味方になってくれそうな方に切りますよ。まあ、それが通用するかはわかりませんけど」
「なまえ、いつから起きてた?」
「なんでリドルが私についてるのかってところらへん」
「そう」

言葉に詰まるリドルの代わりに答えたのは、なまえだった。
なまえは途中から起きていたのだが、リドルがうまくやってくれそうだったので、起きずにそのまま話を聞いていた。
ただ、リドルが墓穴を掘ったので起き上がった。

なまえはソファーから身体を起こして、スネイプを見定めた。
彼女はリドルと違って、非常に謙虚で自己評価が低めの子だ。
驕ったり、過信することはほぼない。
リドルはなまえにこの場を任せることにして、ソファーの後ろに下がった。

「なるほど。その時によってダンブルドアか闇の帝王に着くか決めるということだな?だが、“スリザリンのロケット”に揺らぐのは闇の帝王くらいだと思うが?」
「そんな極端なことは考えていません。その時、“私たちを助けてくれる人”に私たちはついていきます。そんなトップクラスの人に渡すつもりはないですよ。お金に物を言わせれば動く人もいますし、“スリザリンのロケット”という歴史的価値を理解している人を捕まえて動かすこともできる。それにお金さえあれば、私は祖国に帰ることだってできます。それで戦線離脱、それで充分です。私たちに戦う意味合いはありませんから」

スネイプもリドルも、なまえの言葉にきょとんとしていた。
2人は考えすぎていた部分がある。
スネイプはなまえがある程度の呪いが掛けられたものを持っていたという部分から彼女を警戒し、疑っていた。
リドルはリドルで、自分たちが分霊箱という切り札を手に入れ、気が高ぶっていた。
なまえはただひとり、全く違う視点から物事を考えていた。

一般的な第三者から見て、なまえはただの孤児だ。
成績はいいが、派手な動きをするわけでもなく、ポッターに敵対するわけでもない。
スリザリンの中では穏便派で、問題行動を起こしたこともない。
敵対するグリフィンドールの寮監、マグコナガルに気にいられるレベルでスリザリンらしくない大人しい生徒だ。

そのなまえが“スリザリンのロケット”を持っていて、それを隠していた。
ただそれは、孤児で何かとお金に困り、なおかつ保護者がいないという不安定な状態で自分の身を守るための、または魔法界から脱するための“切り札”と考えればおかしなことではない。

「では、私に渡すということもできるというのかね?」
「まあその時が来れば、それもいいでしょうが…先生が私のことを守ってくれるとも思えませんし、選ばないでしょうね。だって先生、嘘付きですから」

ミルクティーのこと、私は忘れませんよ、となまえは拗ねたようにそういった。
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