123.応戦
「プロテゴッ!」
「リドル!やめて!」

なまえは慌てて叫んだ。
完全にリドルはスネイプを敵とみなし、杖を向けて忘却呪文をかけようとしている。
ただスネイプも現役教師、不意打ちの忘却呪文を防御呪文で弾き、リドルからなまえを引き離そうと腕をつかんだ。
なまえはそれを振り払って、リドルの方へ駆ける。

「リドルッ!」
『なまえ!こいつは知ってる!』
「そうみたいね!だからってこんなところで暴れたりしないで」

珍しくリドルは我を忘れるほど怒っていた。
赤い双眸が爛々と光り、今にもスネイプに杖を向けてしまいそうな様子だ。
実体化を解かせるために魔力を遮断してよかった。
これでは、本当にスネイプに忘却呪文を掛けきってしまうところだった。

なまえはリドルをそのままに、スネイプに向き直った
スネイプは警戒したように、なまえとその背後を睨んでいる。

「…こんなところで立ち話も難ですし、中に入りませんか」
「そこは吾輩の部屋だが?」
「流石に談話室で話はできないでしょう」
「…まあいい。入れ」

実体化を解かれたリドルは警戒心を剥き出しにしたまま、なまえの背後を漂っている。
リドルが冷静さを失っているせいか、なまえは思ったよりも冷静でいられた。

スネイプの部屋は、薬草学の部屋とそう変わりないような雰囲気だった。
窓の数が極端に少ないからか、日の光がほとんど入ってこない。
灯りは主に、壁に申し訳程度に天井からぶら下がっているランプが1つのみ。
それなりに広い部屋の四隅には光が届いておらず、暗闇がそこに鎮座している。
部屋の中央部、一番灯りの入っている場所に机があり、それからほぼ直角の位置にソファーが二対。

なまえはそのソファーの一つに腰掛けた。
リドルが暴れたせいで魔力の消耗も激しい。
話し合いだけで終われば万々歳だが、どうなるだろう。
今回はペンダントの話だけでは済まない、リドルのことを見られたこともある。

「飲め。だいぶ消耗しているのだろう」
「…これ、何味ですか…?」
「ただのミルクティーだ!」

ソファーに座っているなまえの前に、マグカップを持ってきたスネイプになまえは目を丸くした。
中身は白濁色の液体だったので不審げに聞いたところ、怒られた。
なまえはマグカップを口に近づけながら、香りをかいでみると、確かにミルクティーらしい甘い匂いがした。
はちみつも入っているらしい。

その傍にはスコーンまで用意されている。
なぜ用意がいいのかは突っ込まずに、なまえはマグカップに口を付けた。
身体が少し温まったような気がする。

「ありがとうございます」
「…手袋の気配で吾輩が気付くくらいには、強力な呪いがかかっているのだろう、それは」
「マグコナガル先生は気づかれてませんでした?」
「気付いていないだろう。あの人は、生粋の変化術の専門だからな」

スネイプはなまえの鞄の中にあるペンダントにしっかり気付いている。
それが、たった今、ケイティを呪ったペンダント以上の力を持つものだとも理解している。
なまえはどうしたものかと考えた。
部屋の中は暖かくて、思考が鈍る。

「何を持っている?」
「スリザリンのロケット…」
「…!それをどこで手に入れた」
「その辺で買いました」

なまえが適当な答えを言っているのは目に見えている。
スネイプはそれでも冷静に問いかけを続けた。
いくらで買ったのか、誰から買ったのか、なぜそれを買おうと思ったのか。
なまえは眠気でぼんやりとした頭で、答えた。

「リドルが、買えって…」
「真実薬を生徒に飲ませるとは、いい度胸してるね」
「…それを持っていれば、みょうじが危ないだろう」
「なまえが持っていればね。今、鞄の中から気配を感じるか?感じないだろう?」

なまえはそれだけ呟くように答えると、ソファーにぱったりと倒れこんでしまった。
下手なことを喋らせないためにも、リドルが寝かしつけた。
真実薬には副作用として睡眠障害があげられるから、違和感はなかったと思う。

なまえの代わりに出てきたリドルは、冷静さを取り戻していた。
考えてみれば、スネイプは夏にヴォルデモートの館で会った。
敵ではないと見てもいいだろう。
リドルは双眸を細めて、スネイプを睨んだ。
その仕草は間違いなく、ヴォルデモート卿のそれに似ていたことだろう。
一度身震いしたスネイプに、リドルは笑みを深める。

「お前は誰だ」
「僕はリドル。今はなまえに魔力を分けてもらって生きてるだけの存在だ。そこまでの脅威はないね」
「先ほど吾輩に忘却呪文をかけようとした奴がよく言うものだな」

リドルはその言葉に、軽く笑った。
まあ、そうだ。

あの時は忘却呪文をかけて適当にやり過ごそうとしていたが、冷静になってみれば、これはチャンスともいえる。
学校内で、スネイプを味方に付ければ楽ができる可能性もある。
何より、ドラコの動向を探るにはちょうどいい。
ドラコとスネイプの関係は、恐らく昔から変わっていない。

「少なくとも僕らは君の敵ではない」
「では、なぜそれを持ち込んだ」
「僕らの身を守るためだね。最後の切り札として手に入れたかっただけさ。切り札が誰かにばれるのは避けたかったんだけど」

真実薬は、質問次第で真実が吐き出されるのか、事実が吐き出されるのか変わる。
今回、スネイプは“何を持っているのか”と問うた。
だから、なまえは“スリザリンのロケット”であると答えた。
これは事実だ、真実を吐き出させるためには、“それは何か”と尋ねるべきだった。

「…みょうじは孤児だったな」
「そういうこと」
「それで、お前は何なんだ」

スネイプは勘違いをした。
なまえが持っている“スリザリンのロケット”は、いつか高値で売るためのものであると考えた。
スリザリンが所有していたものなのだから、呪いの一つや二つかかっていてもおかしくはないと判断した。
それはあながち間違いではない、確かに、スリザリンのロケットにはかつて、スリザリンがかけたと思われる呪いがかかっていた。
ただ、今回においては間違いだった。

また、スネイプは孤児という言葉を使うときに、憐憫の情をちらと見せた。
スネイプがどのような幼少期を送ってきたのかは知らないが、孤児という境遇に同情する大人は多い。
それはリドルも経験上理解している。
そこに付け込んでおく方が、今後楽になるということも。
prev next bkm
×
「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -