121.呪いと災難
ひょんなことから買い取った分霊箱を、なまえは鞄の中にしっかりと仕舞った。
最終的に破壊することになるだろうが、それまでの間に分霊箱について調べ、最終的にどちらに渡すのか考えなくてはならない。
ただ、破壊する方法もわからないのだから、まだそれは先になりそうだ。

「あれ、みょうじ?」
「こんにちは、ポッター。なんだか、久しぶりね」
「あー、そうだね。セドリックは元気?」
「魔法省勤めが大変そうだけどね」

帰り道を急いでいたなまえを呼びとめたのはポッターだった。
なまえは内心ドキッとしながらも、いつも通り声をかける。
少し前までは時々挨拶もしていたのだが、セドリックがヴォルデモートの復活に対する証言をしなかったくらいから、挨拶もしなくなっていた。

ポッターは相変わらず、ウィーズリーとグレンジャーを連れていた。
本当に仲がいいのだな、となまえは感心する。

「みょうじは1人なの?」
「まあ、そうね」
「1人なんて危ないわ!一緒に駅まで行きましょ」

グレンジャーが無駄に気を利かせたために、なまえはポッターたちとともに学校まで戻ることとなった。
悪いことではないが、分霊箱を持っているのがばれたら面倒だ。
…その前に、この分霊箱を持って校内に入ることができるのだろうか。
ホグズミートに行く前に検問があったくらいだ、恐らく帰りもある。
どうしたものかと考えながら、なまえは3人の後をついていった。

駅への一本道を歩いているのは、ポッターたち3人と、なまえ、それから3人組の前に女子生徒が2人。
2人の女子生徒は、何か言い合いをしながら歩いていた。

「きゃああああ!」
「だから、ダメだって言ったのに…!」
「何だ!?」
『…闇の魔法だ。迂闊に近づかない方がいい』

言い合いをしていた2人だったが、唐突に、1人の女子生徒が空中に浮かび上がった。
只事ではない様子に、ポッターが駆け寄る。
なまえもそれに続こうとしたが、リドルの一言で足を止めた。

空中の女子生徒は口をぽっかりと開けて、両手足を広げて叫んでいた。
まるで凧のような姿に、一同は凍り付いた。
女子生徒は長く叫んでいたように思えたが、突然意図が切られたかのように地面に落ちた。
落ちた先でも、激しい痙攣をしているようだ。
ポッターが慌てて駆け寄ろうとした。

「ダメだ、触るんじゃないぞ!どいてろ!」

それを、なまえの後ろから歩いてきたハグリットが止めた。
隣にいたもう一人の女子生徒も退けて、ハグリットは痙攣している女子生徒を抱きかかえる。
抱きかかえてもなお、女子の痙攣は止まらない。
異様な光景に皆固唾を呑んだ。

先ほどの叫びがなくなった一本道は、また静けさを取り戻している。
痙攣をしている女子をあやすハグリットの声以外、小道には響いていない。

「ハリー、そのネックレスに素手で触るんじゃねえ。そりゃ呪われてる」
「ネックレスに、呪いが…」
「みょうじ、危ないわ!」
「…包み越しなら大丈夫だと思う」

なまえはその鈍色のネックレスを入っていた布に包んで持ち上げた。
なまえの目線まで持ち上げられたネックレスを、隣にいたリドルが観察する。

『…あまり強くはない。だけど、低学年の子くらいなら殺せる呪いだ。人を殺せる呪い』
「…これは、回収してスネイプ先生に見てもらった方がいいですよね」
「そうだな。みょうじ、お前さんそれを箱に戻して持ってきてくれるか」

なまえは一つ頷いて、ネックレスを包みごと箱に突っ込んだ。
そしてそれを腕に抱いて、グループの最後尾を歩いた。

駅に着くと、なまえはその箱をフィルチに渡し、ポッターたちと同じコンパートメントに突っ込まれた。
ハグリット曰く、学校に着いたら事情聴取をされるようだ。
ポッターたちと関わると碌なことがないが、お陰で検問はあっさりクリアできた。
なまえはあの呪いのネックレスよりも危ないものを校内に持ち込むことを許した。
なまえはその事実に安堵しながら、ポッターたちの話に耳を傾けた。

「じゃあケイティは、三本の箒のトイレに行ったあと、その箱を持っていたんだ」
「そうみたい。ケイティは、渡すように頼まれたって」
「誰に?」
「…わからないわ。そこまでは聞けなかったの」

どうやらあの呪いをかけられた女子生徒は、ケイティという子だったようだ。
彼女は三本の箒で1人トイレに立ち、その帰りにはすでに箱を持っていた。
それは何かと問えば、贈り物なのだと答えたらしい。
誰に、といっても教えてくれなかった。

リドルはその話を聞いて、目を細めた。

「開ける気はなかったの。でも、誰かにそれを渡すなんて危ないって言って、取り合いになって。その拍子に箱が開いて…そんなつもりじゃなかったのに…」
「そうなんだ…」
「ケイティは誰にそれを渡されて、誰に渡すつもりだったのかしら?」
「女子トイレで渡されたってことは、誰か女だろ」
『そうとも限らないね』

変態もいるしね、となまえがぼそっとつぶやくと、女子トイレでこそこそと秘密の部屋を開けていた張本人はなまえを睨んだ。

リドルの言い分は正しい。
しかし、なまえは3本の箒のトイレを思い出していた。
あそこのトイレは狭く、女子トイレと男子トイレがかなり近く隣接している。
そして、女子トイレが手前、男子トイレが奥だ。
人の出入りもかなり多く、なおかつ、トイレへの道は一つだけで結構目立つ場所にある。
男子が女子トイレに入れば、誰かしらが気づきそうなものだ。

「マルフォイだ…きっとそうに違いない!」
「ハリー…証拠もなしにそんなこと言えないわ」
「…?」

難しい顔をして黙り込んでいたポッターが唐突にそんなことを言いだした。
グレンジャーは戸惑いながらも、毅然とした態度で否定をする。
ウィーズリーは何も言わないが、うんざりした顔をしていた。

なまえが不思議そうにポッターを見んていたのに気付いたグレンジャーが、最近ハリーとマルフォイの仲が悪いから、と答えた。
別にあの二人の仲が悪いのは今に始まったことではない。
それに今回、ドラコはホグズミートには来ていない。
別件の用事があるといっていた。

「とにかく、下手なことは言えないわ、ハリー」

グレンジャーがそういうと、ポッターは不服そうだったが黙った。
それとほぼ同時に、列車が学校に着いた。

prev next bkm
×
第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -