120.蛇の遺物
駅まで送るといっていたセドリックをうまくあしらって、なまえは1人ホグズミートを歩いていた。
まだ明るい時間で、他のホグワーツ生の姿もちらちらと見受けられる。

「ここ?」
『そう…なまえ、ここから先、出てくるものに絶対に手を触れないで』

リドルは赤い双眸を細めて、ドアノブを睨んでいた。
ここは先ほど通り過ぎた、古びて煤けたお店だ。
看板はキィキィと音を鳴らすだけで、何が書いてあるのかわからない。

なまえはそのドアノブをひねった。
無駄に重たい扉が、音を立てて開かれる。

「誰だ!?」
「こんにちは」

ドアを開けると、真っ暗な部屋に一筋の光が差した。
なまえはドアを開けたままで、中を見渡す。
声を荒げたのは、背の高い男だ。
小さい男は既にその姿を消していた。

なまえはドアを抑えたままで、男と対峙する。
男は警戒したように、部屋の奥から出てこない。

『なまえ、さっきの小男からもらったペンダントを売って欲しいって言って。値段は惜しまなくていいけど、普通のペンダントよりも少し高い値段を最初は提示して。気に入ったから、それが欲しいって伝えるんだ』
「あの、先ほど男の方から譲ってもらっていたペンダント、私も物凄く気に行ってしまって。よかったら、売って欲しいんです」
『無理はしなくていい。ダメと言われたら下がって』

なまえはよくわからないままに、男に声を掛けた。
男も怪訝そうにしていたが、やがて、いくら出せる?と聞いてきた。

あまりアクセサリーを買うタイプではないなまえは、そこで困った。
相場よりも少し高い値段ってどれくらいだろうか。
なまえは自分の貯金額や、ドラコやパンジーのお小遣いの話を思い出した。
そのおこづかいの3か月分が、ちょうど自分の貯金額の4分の1であることを思い出した。

その額くらいなら、ちょっといいアクセサリーを買えるのかもしれない。

「100ガリオンでどうですか?」
「…まあ、悪くはない。ただの家名入りペンダントだしな」
『なまえ、高すぎだよ…でもまあ、いいか』
「家名入り?」

背後でリドルが頭を抱えている。
どうやら値段が高すぎたらしい。

ただ、その値段で男は満足しているらしい。
満足してくれなかった時が大変だと思っていたが、いい方に転がったらしい。

家名入りのペンダントといわれて、なまえは聞いてみた。
どこの家名が入っているのかを。

「セルウィンっていう聖28一族の家柄だな。まあ、そこまで有名な家じゃない。ペンダントの造りはいいけどな」
「そうなんですか。別に家に興味はないんですけど」
「ま、100ガリオンなら売ってもいいぞ」
「ありがとうございます。それじゃあ、小切手で」

なまえは軽く杖を振って、小切手と羽ペンを取りだした。
そこで男もようやく冷やかしじゃないと確信したらしく、手元にあったランプを灯し、なまえを呼び寄せた。

なまえはランプの元で100ガリオンの小切手を書き、彼に手渡した。
その代わりに、ペンダントをもらう。
ランプの光に当てられて、ペンダントのくすんだ金色が淡く光っていた。
ペンダントの表面についている水晶のようなものには、確かにSと大きく書かれている。

なまえはペンダントをできる限り素肌では持たず、手袋越しに持った。
持ってみると、とても重いような気がしたし、少し気分が悪くなったような気がした。
リドルが素手で持つなといったのは、これが闇の魔法具だからだろう。

「ありがとうございます」
「いや別にいいぜ」

なまえはそのペンダントを余っていた革の袋に突っ込みながら、店を離れて人の少ない方へと速足で進んだ。
あまり長いこと、持っていたくなかった。

店を出たなまえはなんだかぐったりと疲れたような気がして、額に浮かんだ汗をぬぐった。
寒いはずなのに、変に動悸がする。

「なまえ、それ貸して。袋ごと。杖も」
「え、あ、うん…」
「…少し座って休んでいて。本当にこれ、いいものじゃないんだ」

なまえは革の袋と杖をリドルに手渡して、近くの柵に軽く腰掛けた。
リドルは手渡された袋に何かしらの魔法をかけている。
しかも、何重にもだ。

その様子に、なまえもそのペンダントがただのペンダントではなく、しかも俗に出回っている闇の魔法具でもないことに気が付いた。
ペンダントは、魔法をかけられると淡く緑に光った。
袋越しでもわかる光だから、相当光っているのだと思う。
リドルが魔法をかけ終えると、その光も次第に弱まって行った。

「どこから出回ったんだか」
「それ、何?」
「分霊箱…後で詳しく話すよ。もうこれは持っていても平気。開けないようにさえすればね」
「…え!?」

分霊箱の話はリドルの口から何度か聞いたことがある。
かつてのリドルも、分霊箱だった。
ヴォルデモート卿の魂の欠片…なんだかとんでもないものを手にしてしまったらしいことを、なまえはようやく自覚した。

リドルはなまえの反応に困ったように笑い、持っている分には大丈夫、とだけ伝え、なまえの手に袋を渡した。
そして、すぐに実体化していた姿を解いた。
少し疲れが残っていることを鑑みるに、それなりに強力な魔法をかけたらしい。

『僕が壊れたのだって気づかなかったみたいだし?たぶん、下手に壊さない限りは盗まれていたって気づかないんだろ』
「まあ、そうか…」
『切り札としてはいい役目を果たすと思うよ。…どちら側につくとしてもね』

セルウィンの家名ではなく、スリザリンの家名が入ったペンダント。
確かにリドルの言う通り、闇の陣営に対しても、ダンブルドアの軍勢に対してもいい切り札にはなりそうだ。

ただ、なまえはそれ以上に、分霊箱というものが手に入ったことに興味を持っていた。
今、リドルがうまく封じてくれているこの分霊箱の仕組みがわかったら、リドルをもう少し楽にしてあげられるのではないかと。
完全にヴォルデモートから切り離されているとも確証が取れない今、なまえはヴォルデモートの消失によるリドルへの被害を危惧し続けている。
元分霊箱の中の記憶という曖昧な存在のままのリドルを何とかしてこの世に定着させることはできないか。

分霊箱の性質や中に閉じ込められていた魂の性質、魂の消し方。
それらを理解することができれば、リドルの生存の確証が取れるかもしれない。

なまえは手の中の革袋をぎゅっと握りしめた。

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