118.微かな異変
「なまえ、セオドール。お前らスラグホーンに誘われてないのか?」

朝の散歩から戻ってきたザビニが、なまえとドラコ、それからセオドールを見て開口一番にそういった。
どうやらザビニは毎回呼び出されるらしい。
ドラコが呼び出されないのは、ただ単に家のごたごたがあってのことだろう。
セオドールは毎回呼び出しを無視しているという。
なまえには特に誘いがなかった。

「あー、めんどくせえ」
「つまらないの?」
「全く持ってその通り。爺さんの下らない自慢話に付き合わされるだけだからな。出てくる食事だけだよ、いいのは」
『ああ、変わってないのか、あの人』

ザビニがうんざりしたよういそう吐き捨てた。
その後ろで呆れたようにリドルがため息をついている。
どうやらスラグホーンのことを思い出しているらしい。

なまえは誘われていなくてよかったと思う反面、断ればいいのにとも思った。

『…あ!』
「ん?」
「どうした?」
「あ、ううん、なんでもない」
『あー、なまえ、あとで詳しく話すけど、スラグホーンには近づかなくていいと思う』

リドルが後ろで珍しく声を上げた。
普段はなまえに話しかける時くらいしか声を出さないから、なまえまで驚いてしまった。
なまえが声を上げたのを見たザビニが首を傾げる。
なまえもまた、話しかける時くらいしか声を出さない。

リドルは自分の失態を誤魔化すように間を置いてから、なまえに話しかけた。
過去を振り返っている最中に、重大なことを思い出したからだ。
ぎりぎり、リドルがリドルであった時の記憶だ。
自分が生み出されるに至ったルーツを与えられたのは、ちょうどそのあとのこと。

きっと、ダンブルドアとポッターは、ヴォルデモートの核心を知るためにスラグホーンに近づこうと試みるだろう。
ただ、なまえにとって、それはどうでもいいこと。
リドルのついているなまえは、知っていようがいまいが関係はないにしろ、ヴォルデモートの核心を知っている。
なまえはもともとスラグホーンに興味を示していなかったが、示す必要性もなかった。

『なまえはマルフォイに注意しておけばそれで大丈夫だ』
「おはよう!今日はみんなそろい踏みね」
「おはよう、パンジー」
「あ、なまえ。部屋に火を入れておいてくれてありがと。今日は冷えるわね」
「そうなの。私も起きてびっくりした」

パンジーが降りてきたのをきっかけに、セオドールは幸福の液体の調合表を几帳面に畳んで、鞄にしまった。
それを名残惜しそうにドラコは見ていたが、やがて立ち上がって大広間に行こうといった。

いつだって、先陣を切って歩くのはドラコだ。
なまえはその背中を見ながら、グループの最後尾についた。
いつだって、なまえは大抵、後ろにいる。
前の人たちを、周りを、後ろを、しっかりと見定めるために。

「そういえば、なまえ、今日ホグズミートに行くんでしょう?」
「え、ああ。そう」

今日はホグズミートに出掛けることができる休日だ。
なまえはあまり楽しみではなかったが、パンジーは楽しそうだ。
パンジーも事情を知っているのに。

なまえはため息一つついて、困ったようにパンジーを見た。
パンジーは好奇心にあふれた瞳でなまえを見ていた。

「…なまえ、ホグズミートのどこに行くんだ」
「え?まだ決めてないけど」
「三本の箒はやめといた方がいいわよ、いろんな人がいるし」
「そこは選ばないと思う…静かなところを選ぶつもり」

三本の箒は、それこそホグワーツ生が多すぎる。
生徒だけではなく、教授までいることがあるのだから、別れ話の場にふさわしいとは思えない。
背の高いセドリックはただでさえ目立つ。

なまえは行くなら人気の少ない小道のカフェだね、と答えた。

「ドラコもどこかに行くの?」
「いや、僕は別の用事があるから行かないが」
「そうなの。何か買ってくる?」
「大丈夫だ」

行き先を尋ねられたなまえはてっきりドラコもホグズミートに行くつもりなのだと思っていた。
ついていくなどと言われたらどうしようかと思ったが、その心配はないらしい。
ドラコの隣にいたザビニが、茶化すように今日はマグコナガルとデートだもんな?と笑った。

顔を赤くしたドラコが足早に大広間に入って行ってしまったので、慌ててなまえも後を追う。
その際にセオドールがこっそりと教えてくれた、ドラコは補修があるとのことと、最近宿題をさぼりがちなことを。

何か買い出しでもあるのかと思ったが、それも違う。
では、どうしてドラコはなまえがホグズミートに行くのを気にしたのだろうか。
なまえは少し疑問に思いながらも、セオドールの隣に座った。

prev next bkm
×
「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -