114.ちょっとした異変
年度初めての授業は、これまた初めての先生を迎えた魔法薬学だった。
スネイプの時は優でないと取れないこの科目だったが、スラグホーンに代わってからは良でも可になった。
そのため、それを知った良の人たちも集まっていて、それなりの人数が教室内にいる。

スネイプは本当に才能のある優秀な生徒だけを集めて、少人数授業をし、優秀な生徒をより優秀に仕上げたいという思いがあったに違いない。
しかし、スラグホーンは可能性のある生徒を広く育てたいといった考えの持ち主らしい。
どちらが正しいのかというのは判断しかねるが、なまえにとってどちらがやりやすかったかといえば、スネイプのやり方だった。

セオドールも同じ考えだったのか、非常に機嫌が悪そうだ。
ドラコのぐりふぃんドールへの嫌味も、普段なら適当に返事をするだけなのに、一緒になって悪態をついている。
そのやり取りを気にせず、スラグホーンは薬の説明をしていた。

「生ける屍の水薬を1時間で仕上げた者に、この幸運の液体をプレゼントしよう」
『ああ、いけるんじゃない?』
「あれって本当に効くの?」
「効くよ。結構有名。うちにも使いすぎてダメになった人が時々来るくらいには」
『使いすぎると、精神的にダメになるんだ』

なまえはふと隣にいたセオドールに問いかけた。
彼は、さらっと断言した。
きっとセオドールが言うのだから、効くのだろう。
ただし、副作用もあるようだ。

さて、生ける屍の水薬だが、なまえは以前に作ったことがあった。
精神的におかしな人も多いノクターンでは、不眠症の人も多くいる。
生ける屍の水薬がないと眠れない人に高く売れる。
ちなみに、飲みすぎると昏睡状態に陥ることから、自殺や他殺にも使われている。
閑話休題、なのでなまえには自信があった。
ただ、別になまえは幸福の液体が欲しいとは思わない。

「やだ、なにこれうまくいかないわ!なまえ、どうやったのよ?」
「なまえ…もしかして作ったことある?」
「うん、まあ。この豆、切れないから潰した方がいいよ。あと、回す回数は教科書通りでいいけど、最後に逆時計回りに半回転くらい攪拌するといいみたい」

なまえのテーブルは、セオドールとパンジーがいる。
ザビニとドラコが同じテーブルだ。

セオドールが驚いたようになまえの鍋を覗きこんだ。
どうやら彼は作ったことはないが、作っている過程を見たことがあるらしい。
なまえのアドバイスを教科書にメモすることを優先し始めたセオドールは、なまえの鍋に釘づけだ。
自分の物を作るのは諦めたらしい。
パンジーは諦めていないが、なまえに聞きながらやっているので間に合わないだろう。

「なまえ、1時間でできそう?」
「できるよ。同居人の手伝いで何度か作ったことがあるから」

怪しまれるのも嫌だったので、なまえはあえて同居人の手伝いと言った。
なまえのテストの成績がいいのは周知の事実になりつつあるが、6年生にもなると実験も難しく、専門的なものになる。
専門的なものを簡単に作れるとなると、怪しまれることもあるだろう。
そう思ってのことだった。

2人は何も疑問には思わなかったようだ。
なまえはいつも通りに水薬を作り上げ、教授のところに持って行こうとした。
すると、前のテーブルにいたポッターも同じタイミングで立ち上がった。
その様子を、なまえもセオドールもパンジーも、リドルでさえも驚いた顔で見た。

「完璧だ!」
「え?」
『…なんかあるだろうね』

リドルが目を眇めて、ポッターを見た。
なまえは驚きながらも、自分の作った生ける屍の水薬をスラグホーンに渡した。
スラグホーンはこれまた大げさに、こちらも完璧だ、と声を上げた。

「君、名前は?」
「なまえです」
「苗字は?」
「…みょうじですが」

みょうじ、聞いたことのない名前だ、と怪訝そうな顔をされた。
当たり前だ、なまえは家族がいるわけでもない上に、英国人でもない。
リドルが嘲笑して言った。

『スラグホーンはね、昔からコネの元を作るのが好きな奴だ。出世しそうな優秀な生徒を集めて、パーティをしたりサロンを開いたりして可愛がるんだよ。僕もよく呼ばれた』
「私は英国人ではないので、知る人はいないかと思いますよ」

なまえは別にスラグホーンに呼ばれたいとは思っていない。
彼のお人形になるつもりも、出世をする予定もない。
だから、あまり関わり合いにはなりたくなかった。

幸運の水薬は1つだけ。
生ける屍の水薬を作ったのは2人。
スラグホーンは困ったよ、と笑った。

「私はいりません。代わりに、幸運の水薬の調合表を頂けませんか」
「ん?まあ、いいが…幸運の水薬の調合はこれよりも難しい。研究者でも失敗するくらいだ」
「構いません。気になるだけですから」

スラグホーンは、幸運の水薬をポッターに、その調合表の写しをなまえに渡した。
なまえはそれを見て、眉をしかめる。
本当に難しそうなうえに、素材が高価すぎた。

それを眺めながら、なまえはテーブルに戻った。
パンジーにはもったいない、もったいないとしきりに言われたが、なまえにとってはこちらの調合表の方がよっぽど価値がある。

『へえ、初めて見た。作れたらいい収入源になるかな』
「あとでセオドールも見る?」
「うん」

なまえはその紙を丁寧に折り畳んで鞄にしまった。
これでまた一つ、セオドールと顔を合わせるきっかけができた。
情報の伝達が楽になるなと思う反面、たぶんセオドールはまじめに調合表の話をしたいんだろうなと思った。
別に面倒ということはないが、ドラコが蔑ろにならないといいけど、と思うばかりだ。
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