11.やさしいあか
毎年、駅から学校までは馬車で向かう。
馬車には馬などおらず、自力で動いている…ようにみえるのだそうだ、一般人には。
私にはその馬車を引いているものが見える。
セストラルと呼ばれる天馬の一種らしいが、日本人が想像する白くて綺麗なペガサスのようなものではなく、地獄の使いのような黒くて骨ばった姿をしている。
1年のときは怖かったが、今では愛嬌もあって可愛いと思える。

「ああ、君が最後ですね。さあ乗って」
「はい」

セストラルは死をみたことがあるもののみがその姿を見ることができるらしい。
私はいつ死を見たのだろう、覚えがない。

ともかく学校に着いた。
組み分けに興味はないため、ずっと膝の上に本を置いて読んでいた。
ダンブルドアからの忠告は一応聞いておくが、破る気満々である。
今年は禁じられた森に入り、薬草を取らなければ。

夜にこっそり部屋を抜け外に出る方法をリドルから教わったため、出ること自体に問題はない。
吸魂鬼も守護霊の呪文がうまくできるようになったし大丈夫だ。
問題はシリウス・ブラック、まさかこんなところまで来ているとは思えないが警戒に値する。
…大体、ダンブルドアがいるこの学校にわざわざ来るのだろうか。
そんなことをしている暇があるのであれば闇の帝王を探したほうが効率的なのではと思うのだが…人の考えることはよく分からないものだ。

寮に戻り、部屋を片付ける。
荷物は少ないのですぐに片付いた。

「あーら、また今年もいるの?ムーラン!」

片付けも終わったところで本を少し読んでおこうとベッドに腰掛けたら、突然カーテンが開いた。
そこに居たのは同室のパーキンソンだった、キンキンとした声が頭に響いてうっとおしい。
ドラコと同じように差別用語で私を呼ぶ、もしかしたらスリザリンの殆どがそんな呼び方をしているのかもしれない。
その名で呼ばれるたび、背後にいるリドルが不機嫌になるのでやめて欲しいのだが。

『最近のスリザリンは教養がないね。全く…』

そんなことを殺気を放ちながらポツリと呟くものだから、なんともいえない気持ちになる。
パーキンソンは何も反応しない私に飽きたのか、すぐ自分のベッドに戻ってしまった。

皆が寝静まったころ、リドルが話しかけてきた。

『なまえ、今日は寝たら?さすがに疲れただろうし、外は雨だしね』
「うん。いつから採りに行く?」
『そうだな、早くて明日…天気が回復してたら行こう』

だから今日はお休み、と手の中の本を奪い取られた。
リドルは手だけを実体化させる術を身に着けたらしい、器用なことだ。
電気を消して渋々ふわふわのベッドに潜り込む、ふわふわ過ぎて落ち着かないのは貧乏症の一種だろうか。

暗くなって目が利かなくなると、今度は耳が利くようになる。
他人の寝息や身じろぎの音が酷く耳について気持ちが悪い。
こちこちと時計の4重奏が追い討ちをかけるように聞こえる。

『なまえ、防音魔法かけようか』
「そうして…眠れそうにない」

ベッドの中でじっとしていたが、リドルにはお見通しだったようだ。
なまえの杖をサイドテーブルからとり、軽く振ると全ての音が消えた。

『これでいいだろ?早くお休み、学校で倒れたら僕は助けられないんだからね』
「分かってる…おやすみなさい」

適度な静寂と闇に包まれて、目を閉じた。
聞こえるのはリドルが本をめくる音だけ。


リドルのお陰でぐっすり眠れた。
とりあえず私はシャワーを浴びて、着替えて、適当に髪を整えて部屋を出ようとした。

『ちょっと待って、その髪で行くの?』
「うん、何で?」
『…はねてる、後ろ。あと右側も。それに適当に結んだだけだなんて女子としてどうなの?おいで、結びなおすから』
「いいよ、面倒だし」
『バイトに行くわけじゃないんだし少しくらい身だしなみに気を配りなよ。さっさと来る!』

背後で騒ぐリドルは面倒くさそうに見たが、リドルは本気なようでさっさと来いと手招きをされる。
仕方なくベッドに戻り、そこに腰掛ける。
リドルはその間にベッドの回りに人除けの呪文を施していた。

リドルはベッドに腰掛けた私の背後に周り、髪をとかし始める。
最近気づいたことだが、リドルは私の髪をいじるのが結構好きなようだ。
夏休みに前髪を切ってもらったとき、邪魔だから一緒に後ろ髪も切ってしまおうとしたときも、それを断固拒否していた。
それ以来、夏休み中毎日私の髪を結んでいたのはリドルである。
器用なのもあって、とても綺麗に仕上がるので嫌ではないのだが。

普段人に触れられるととても嫌な感じがするのに、リドルだけはそんなことなくて、その感覚が不思議ででも気持ち悪くはなくて。
とにかく戸惑う感覚だった。
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