110.闇魔法具店の秘密
なまえはオリュンポスで遅めの昼食を取った後、ボージンアンドバークスに行くことにした。
先ほどよりも日が落ちたノクターンは、その名の通り、薄闇の漂う夕闇の街になっている。
その時間に出ていくと知ったコレットは少し嫌そうな顔をした。
ただ、止めることはしなかった。

乱雑な石畳は足音を拡散させ、人の居場所を隠す。
なまえはフードを目深に被り、俯き気味にオリュンポスのある通りから右へ曲がった。
フードの端から微かに見える白い耳には赤いピアスが揺れている。
リドルはそこに隠れて、いざという時に出てくることになっている。

家の壁に貼られている指名手配犯を匿っている店もあることだろう。
昔から、ノクターンはそういう街だ。
ボージンアンドバークスはそういった日の下に出られない人たちが行きそうな店である。
お嬢さん、魔よけのブレスレットはいかが?と声を掛けてくる背の低い老婆を無視して、なまえはボージンアンドバークスの扉に手を掛けた。

「…いらっしゃい」
「こんにちは。ここには誰もいませんか?」
「それを答える必要がありますかね?」

ボージンアンドバークスに入ると、腰の曲がった老人がちらとこちらを見て、怪訝そうに顔をくしゃりと歪めた。
なまえはそれに臆することもなく、いつも通りの口調で尋ねる。
その様子にリドルは若干頭を抱えたくなった。
なまえの平常心がずば抜けていて、此方が平常心でいられなくなるような気がする。

なまえの一言で、老人は警戒心を強めた。
これではなまえが動くのは難しい。
ただ、なまえへの警戒が強まった分、ほかのものへの警戒心が薄れている。

『なまえ、僕が適当にみてくる』
「そうですね…」

幽霊化したリドルがそっとピアスから抜け出て、店内を見て回った。
あるものは、闇の魔法具やクローゼット、キャビネット…その裏に、隠し扉。
この隠し扉をリドルは知っていた。
この隠し扉は、50年程変わらずにここにあり続けていることになる。
扉の先は急ならせん階段になっており、魔法で広げた屋根裏につながっている。

昔はそこで自分が闇の魔術の練習をしたり、魔法薬を作ったりしたものだ。
今はおそらく、そこに誰か住まわせているのだろう。
ちら、とその部屋を覗いてみた。

屋根裏には小さな窓しか嵌っていないが、そこにもきっちりと暗幕が張られていて、部屋の中は真っ暗だった。
その窓の下に、大きめのベッドが据え置かれている。
それは最近持ち込まれたのか、床には不自然な日焼け痕が残っていた。
そのベッドに寝ている人物を確認し、リドルはすぐに屋根裏から出た。

『なまえ、グレイバックがいる。まだ満月じゃないけれど、近いから僕でもばれるかも』
「おじさん、私の友達がこの店に入っていったようなの。どこに行ったか知らない?」
「知らん。冷やかしなら帰れ」
「そうですか。失礼しました」

リドルはパッとなまえのピアスの中に戻り、なまえもすぐに店を出た。
グレイバックといえば、凶悪な人狼として有名だ。
リドルのことがばれるだけでなく、なまえも襲われる可能性が高くなる。
そのため、さっさと逃げるに越したことはないと判断した。

速足でオリュンポスがある通りへの曲がり角を通って、なまえは小声でリドルに話しかけた。

「結局ドラコのことはわからず仕舞いだね」
『まあ、しょうがない。気になるものはあった?』
「うーん…ヘンテコなものばっかりであんまりよくわからなかったけど。…ああでも、ボージンアンドバークスって表向きは家具屋なの?」
『いや?別にそうではないけど』

学校では見かけないばかりだったからか、なまえはそれらをヘンテコと称した。
ただ、そのヘンテコたちはどれも呪いがかかっていたり、罠が仕掛けられていたりする。
なまえもそれは分かっていたのか、触れずに帰ってきたらしい。
なまえに呪いがかかっている様子もなかったため、リドルは少し安堵した。
まあ、なまえがそんな愚かなことをするとは思ってもいない。

俯いたまま、なまえはコート掛けやキャビネット、クローゼットなど、家具みたいなものがたくさんあったのが気になったと言っていた。
確かに、昔に比べてそれらのものは増えたような気がする。
そして間違いなく、それらは何かしらの魔法がかかっていることだろう。

『…まあ、マルフォイの意図は分からないけど何かしらの小道具を使うんだろうね』
「みたいね。聞いても教えてくれないだろうし、探り探りやっていくしかないか」

ふっと顔を上げたなまえの目には、見慣れたオリュンポスの看板が映っていた。
そして、その下で箒をもって仁王立ちしているコレットの姿。

「ただいま」
「おう、さっさと中入れよ。夜になるぞ」
「うん。…コレット、それでどこかに行くの?」
「いや?これは飛べない奴だからな」
「あ、掃除用…」
「掃除用が飛んでったら困るだろ」

なまえにはどの箒が飛行用で掃除用なのかわからない。
ただ、リドルには見分けがついていた。
コレットは嘘をついている。
彼が持っている箒は、魔法が宿っていて、飛べるものだ。

コレットが何を隠しているのか、リドルには分かりかねた。
なまえに害を成すことはない、と思ってはいた。
だが、隠し事をし始めるところを見ると、やはり警戒には値するか、と思いなおした。
なまえは彼を信頼している手前、下手に口出しする気にはならない。
リドルは思ったことを頭の片隅にしまい込んで、なまえの後を追った。

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