108.闇夜の嵐
ヴォルデモートは、その場にいる者の顔をぐるりと見渡した。
そして、その中にひときわ小さな人間がいるのを見て、満足気に笑った。

「皆揃っているようだな。…まずは、見慣れぬ客人を紹介しよう」

ヴォルデモートがそういうと、その場にいた全員がなまえに目を向けた。
なまえは俯き気味だった視線を、そっと上げる。
フードの中の黒い瞳が、赤い瞳をその他もろもろの瞳を捉えた。

「名は教えぬ。だが、便宜上ニュクスと呼ぶか…、ニュクスには情報収集としてのスパイだ。まああまり気に留めなくともよい」

ヴォルデモートの言葉を疑うものはそういない
とはいえ、今回は異例すぎる。
レストレンジたちは困惑と疑心の目をなまえに向け続けていた。

その様子を無視して、ヴォルデモートは話を続けた。
今後の活動内容が主な話で、各々に役割が割り振られた。
レストレンジ夫妻はマグルへの攻撃を、グレイバックには巨人や闇の生物の制圧を。
順番に役割を与えてきたヴォルデモートはグレイバックの向かいに座るナルシッサに視線を移した。
そして、嘲るように微笑み薄い唇を開く。

「今回はルシウスの代わりにナルシッサに出てもらったが…重要な話がある、残れ」

なまえは隣に座っているナルシッサがびくりと痙攣したのを、淡々と見ていた。
あまりいいことを言われるわけではないことを、その場の全員が予期していたがそれを口にする人はいない。

ヴォルデモートはそのまま、隣位いるなまえを一瞥した。

「ああ、お前も残るように」

さらっとそれだけなまえに伝え、ヴォルデモートはすぐに視線をなまえから外した。
なまえは律儀にもヴォルデモートの言葉に深く頷いていたのだが、それを知っているのは彼女の斜め前に座るスネイプくらいだった。

その後、ヴォルデモートが解散するように命じ、隣の部屋に消えると、グレイバックとスネイプはすぐにその場から立ち去った。
ベラトリックスは少し後ろ髪が引かれているのか、チラチラと妹であるナルシッサを見ていたが、やがて夫に促されてその場から姿を消した。

ナルシッサとなまえだけが静かな会議室に残された。
その間、ナルシッサは俯き続けていた。
華奢な肩が微かに震えている。

「残ったか」
「はい…」

2人が取り残された数分後にヴォルデモートは戻ってきた。
先程となんら変わったところはない。
俯き続けていたナルシッサは未だ、顔を上げない。
なまえは顔を上げてヴォルデモートの様子を伺っていた。

なまえは自分に何か命じられるだろうことは予想していた。
だが、あの場で言えぬこととは思わなかった。
何より、ナルシッサまで残されるとは思っていなかったから、もう先を読むのを諦めていた。
ただ淡々と、命令が下されるのを待っているだけだ。
一方のリドルは冷静に未来の自分の考えを2つ予想していた。
恐らく、なまえには大したことを言わないだろうというのが1つ。
そして、ナルシッサには何かしらの重い任務を与え…いや、なまえも共に残されたことを考えると、彼女への命令ではなく、彼女の息子に当てた命令を与える。
これは一方的な嫌がらせに近い。
ナルシッサが息子を溺愛しているということを知っているからこそ、その親を痛めつけるために息子を犠牲にさせるつもりだ。
こうすれば、子供を持つ死喰い人たちは皆、更に失敗を恐れるようになる。
何とか成功させようと心がけるはずだ。

リドルは確信に近い感情を抱いていた。
過去の自分(なまえに会う前の自分だ)もそういう手段をとったことがある。
あの時は、兄弟だったが。

リドルはあえてなまえには何も言わなかった。
未来の自分の考えが自分にわかるなら、自分の考えもまた未来の自分に理解されそうな気がしたからだ。
なまえの直感的な行動のほうが、ヴォルデモートには好まれやすいことだろう。

「ナルシッサ、お前たちには重大な任務を与えよう。ダンブルドアを殺す、重大な任務を」

ばっ、とナルシッサは顔を上げた。
その顔は、白を通り越して青くも見えた。
その様子を見たヴォルデモートは、ニタリと笑って、光栄なことだろう、と言ってのけた。
隣のなまえすらも驚いて、目を丸くしている。
なまえのみならずリドルも驚いたが、任務の意図を理解した瞬間、苦虫を潰したような苦渋の表情を浮かべた。

ヴォルデモートは言うだけ言って、ナルシッサに帰るように促した。
彼女は絶望の表情を浮かべたまま立ち上がり、油の足りないブリキの玩具のようにぎこちなく杖を振り、その場を去った。

「さて、なまえよ。お前には2つの任務を与える。よく聞け」

ナルシッサの消えた後を見ていたなまえは、ゆっくりとヴォルデモートに向き合った。
暗いフードの中で漆黒の瞳が、ヴォルデモートの赤い瞳を捕らえる。
なまえは1つ、頷いた
「まず、ノクターンに魔法省を介入させぬようにしろ。あとは、マルフォイをうまく見張れ。うまくいかなかった時は、お前たち2人でこなせ」
『…2人で、ね。慈悲深いことだ』

なまえは頷いた。
ヴォルデモートはそれで満足したのか、また奥の部屋に消えていった。

取り残されたなまえはフードの奥で、静かに呟いた。
嵐になるね、と。

prev next bkm
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -