105.忍び寄る夏
フクロウ試験は問題なく終了した。
パンジーが前日になって発狂しそうになることはあったものの、それ以外はスムーズに事が運んだ。
なまえは自分のやりたいようにできたと感じていたため、気が楽だった。

穏やかななまえの心境とは裏腹に、学校内は殺伐としていた。
昨晩、最後の試験である天文学の最中にマグコナガルとアンブリッジの諍いが合ったのだ。
諍いレベルのものではなかった、失神呪文が飛び交う戦闘が繰り広げられた。

「ここは学校であって、無法地帯じゃねえんだけどな」
「確かに」

スリザリンの談話室でも、その話で持ちきりだった。
グリフィンドールのマグコナガルに興味はないにしろ、学校で戦闘が起こるなど言語道断。
スリザリン生は学校の治安が悪くなっていることに不信感を抱いているようだった。

しかし、魔法省とダンブルドアが対立している今、最初から学校は安全といい切れない。
そもそも、ダンブルドアはなまえたちにとって安心と安全を与えるものではない。
それでも今まで平和だったのは、偏に、ヴォルデモートが復活していなかったからに過ぎないのだ。

試験が終わり、ドラコは少し落ち着きを取り戻していた。
ここ最近はノットとザビニしか集まらなかった談話室には、ドラコとパンジーもいた。
パンジーは試験問題の自己採点に頭を悩ませているので、今日は静かだった。

「だが、あの森番がいなくなるのには清々するな」
「いてもいなくても同じだろ」
「…居ないと困ることが多いような気もするけど」

ハグリットの件については、三者三様の考えを持っているようだった。
なまえはノットの考えとほぼ同じだ。
禁じられた森とうまく交渉していく人間がいないことには、少し問題があるように思える。
ケンタウルスたちはプライドが高いと聞くし、何かあったときに話し合いの場を持てる人間が必要だ。

ドラコはそれをわかっているのかいないのか、ノットの呟きは無視して話を続けた。

「なまえ、フクロウ試験はどうだった?どうせあの騒ぎなんて気にも留めずにやっていたんだろ?」
「…まあ。興味なかったから普通に全部埋めたけど」

本当は気になったので、リドルに見ていてもらったのだが、それは秘密だ。
ただ、実況してくれていた彼は最終的に、どうでもいいね、と戻ってきたが。

なまえはその間、しっかりと筆記試験を書き終え、見直しもすべて終わらせた。
そのため、それなりに自信がある。
その話をすると、ドラコは満足そうに微笑んだ。
なんというか、いつからかドラコはなまえの成績がグレンジャーよりもいいことを願っているようだった。
自分が追い越せないからと、追い越せそうな他人に押し付けて優越感に浸る辺り可愛らしいことだとなまえは苦笑いした。

「さて、僕はそろそろ行くよ」
「あ、私も行くわ」
「ご苦労なこって」

ザビニは呆れたように肩を竦めた。
それに何も言うことなく、ドラコは談話室を去っていった。
なまえはそれを見計らって、読んでいた『永久魔術〜永続魔法とその効力〜』をパタンと閉じた。

もし、ダンブルドアがいないままのホグワーツになったら。
ヴォルデモートはここぞとばかりに生徒たちを闇の道に連れて行くことだろう。
そうなるのは、なまえ自身本望ではない。
なまえのように身寄りもなく、また家に力のない生徒からいいように使われる。
しかし闇の陣営に親がいる子からすれば、他の人間が犠牲になってでも、自分の幸せが確立されるならと思うことだろう。

なまえはポケットの中にある羊皮紙にそっと手を触れた。
それは、昨晩届いた手紙だ。
なまえに手紙を寄越す相手は、今までコレットくらいだった。
しかし、この手紙はその2人のどちらかから送られてきたわけではない。

「私も部屋で自己採点してくる」
「おう。ドラコじゃねーけど、なまえの点数気になるわ」
「あんまり期待されても困るけど」

なまえは苦笑いを薄らと浮かべながら、女子寮に繋がる階段を降りた。
女子寮はまだかなり静かだ、蝋燭の薄明りだけしかその場にはない。
なまえは蝋燭を吹き消し、表情を消した。

『本当に行くつもり?』
「…まあ」

なまえはそっと目を伏せて、リドルの問いかけに答えた。
ポケットの中に入れられた羊皮紙を乱暴に引っ張り出して、なまえは一つ溜息をついた。

「むしろ、今まで何もなかったことのほうが不思議」

夏休みに闇の深淵に触れてしまったことなど、すっかり忘れていた。
しかし現状、なまえはヴォルデモートに謁見し、約束をしてしまった。

昨晩、森フクロウが持ってきた手紙の差出人はヴォルデモートその人だった。
まさか本人が手紙を出してくるなんて思ってもみなかったため、なまえは一瞬何かの悪戯だろうかとすら思った。
しかし、彼の名前を使っての悪戯など冗談でも誰もやらない。
何より、背後にいたリドルが筆跡を見て間違いがないと言ったのだ。

手紙の内容は、仲間が増えたから顔合わせをするとのこと。
まさかそこになまえも組み込まれるなど思わなかった。

『顔合わせだけど、顔見せないほうがいいだろうね』
「気まずいし」
『…いや、その前にばれるといろいろ干渉されるから面倒だろう?』

なまえはなんとなく複雑な気持ちだった。
顔合わせに行きたい、行きたくないというよりは、どうしたらいいのかわからなかった。

夏にあれだけヴォルデモートに会うのを躊躇っていたリドルが、行くなと一言も言わないことが、非常に気になった。
一体彼が何を考えているのか、なまえには分からない。

なまえがいる限り人狼街を好きにできないことを考えれば、ヴォルデモートは彼女を殺してしまってもいいはずだ。
だから顔合わせと嘘をついて殺そうとしているのかもしれない。
もちろん何の裏もなく、ただの顔合わせの可能性もある。
なまえを生かすメリットは、年齢の割に優秀なスリザリン生を手に入れ、ホグワーツ内部に味方を増やせる可能性があるということ程度。
そこまで必要性があるメリットではない。

つまり前者の可能性がそう低くない確率である。
普段のリドルなら行くなといいそうなものだった。

「…とりあえず、仮面でも買おうかな」
『そうだね』

奇妙な違和感を呑みこみながら、なまえは下らない話をする。
リドルはなまえの気持ちに気付いているのかいないのか、ただ冷静に返答するのみだった。

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