103.差異
なまえはキリのいいところで話を終えて、部屋に戻ってきた。
部屋にはまだ誰もいない。
自分のベッドのカーテンを閉め切り、消音魔法と人避けの魔法をかけて、背後のリドルを呼び寄せた。
彼の先ほどの一言が気になっていた。

「リドル、3年前の失態って?」
「…なまえ、杖貸して。もう少し強く魔法掛けるから」

実体かしたリドルは、なまえに断りを入れるや否や、魔法を更にかけた。
どうやら相当聞かれたくない、込み入った話であることをなまえは察した。
幸い、今は夕食の時間に近いから、談話室の生徒たちは殆ど大広間に移動し始めているだろう。
寮内は非常に静かだった。

月明かりしかない部屋で、リドルの赤い瞳が揺らめいていた。
低いテノールの声が、カーテン内にのみ響く。

「単刀直入に言う。ルシウス・マルフォイの失態は正直、許されるものじゃない。何たって、ヴォルデモートの命の1つを壊したからだ」
「…どういうこと?」
「なまえ、魔法界には禁忌の魔法というのが少なからずある。それらの殆どは、人の生死にかかわるものだ。不老不死なんて、有名な禁忌魔法だ」

リドルは月に背を向けて、窓際に腰かけた。
なまえはベッドに座り、リドルのほうを見ていた。
彼は、なまえを見ようとはしなかった。

「僕は不老不死になりたかった。そのために禁忌魔法を調べ尽くし、結果、分霊箱を作ることに決めた」
「…何、それ」
「魂を切り分けて、箱に入れるのさ。その箱は大切に保管しておく。もし、肉体がほろんだとしても、その箱の中の切り分けた魂は生き残る。その魂だけで、生き延びる。生き変える方法は意外と存在するからね…実際問題、去年僕は生き変えった」

リドルは軽くそういうが、魂を切り分けるなど、想像もつかなかった。
どのようにするのか、方法は、必要なものは。
そもそも一人でできるような魔法なのか。
リスクが高すぎるような気がした、魂は非常に脆く、弱い。

何より、箱を壊されないように管理するのが難しい。
自分の傍に置いておいたらあまり意味がいないし、だからと言って自分の大切な魂をどこかに放置するのも怖い。

「…まさか、その箱を誰かに預けていた?」
「察しがいいね。そうだよ、僕はルシウス・マルフォイに箱を1つ、預けていた。その箱は、箱の形をしていなかったし、分霊箱とも恐らくは伝えていない。ただ、大切なものだとだけ伝えたんだろうね」
「リドルの日記?」

なまえは本当に頭が良いね、とリドルは微笑んだ。
その微笑みは月明かりの逆光で見えにくいはずなのに、吊り上がった唇がしっかりとなまえの目に映った。
リドルはそっと窓際から腰を浮かせて、なまえの傍に跪いた。
白く細い腕が、なまえに向かって伸びる。

「いいか、なまえ。分霊箱は全部で7つある。そして、僕はそれらがどこにあり、どうなっているのか、分かる。元々、僕も分霊箱の1つだったからね」
「うん」
「決して、それらには近づいてはいけない。呪われる。分霊箱は禁忌の末に出来たものだ。…人の死の上に、成り立っている。絶対に触れてはならない。いいね」

頬に触れる細く冷たい感覚が、リドルの指だと気づくのに、時間がかかった。
子どもに言い聞かせるように、リドルはなまえに言い聞かせた。
決して近寄ってはならない、触れてはならないと。

もちろん、なまえは最初からそんなものに触れるつもりはなかった。
人の命を犠牲に作られた箱、その中身、リドル。

きっと、ポッターはヴォルデモートを倒すために、分霊箱のすべてを壊すだろう。
そうして、ヴォルデモートを滅ぼすだろう。
そうなったときに、目の前のリドルはどこに行ってしまうのだろう。
なまえには確信染みた思いがあった、きっとポッターはヴォルデモートを殺す。
目に見える悪はそう長くは生き延びられない、世界はそういう風になっている。
そうなったときに、もう悪とも言えぬ目にも見えぬ魂のリドルはどうなるのだろう。

なまえもノットと同じだ。
誰も失いたくはない。

「わかった」

分霊箱なんてどうでもいい。
幾つあるのかも、どこにあるのかも、どんな形をしているのかも、なまえには関係ない。
今、なまえにとって重要なのは、壊された分霊箱がどうなるのかだ。

リドルは一度確実に壊された。
しかし、そのうちの1部が生き残り、ここにいる。
もし、リドルがまだ分霊箱としての責務を担っているのなら、ポッターが彼を殺しに来るかもしれない。
そうなる前に、また、そうならなくともヴォルデモートの死とともにリドルが消えないように、策を練らなければならない。

「わかったよ、リドル」

真剣な表情で、なまえを見ていたリドルが怪訝そうに眉をしかめた。
なまえはその理由が分からなかったが、ただ、少し微笑んで見せた。

prev next bkm
×
「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -