102.血縁
ダンブルドアが撤退し、アンブリッジが校長になってから、1つだけ困ったことがあった。
ドラコが調子に乗りすぎている。
勉強を疎かにするだけでなく、アンブリッジの手足となって動くのだ。
それに辟易としているのは、同級生だけではない。
先輩たちもあまりいい顔をしなかった。

理由は簡単。
スリザリンの品位を下げているといえなくもないからだ。

「ドラコのやつ、何考えてるんだかな」

普通に考えれば、純血の名家が魔法省の一役員の手足になって子分のように動くなど言語道断。
むしろ魔法省の一役員を動かすような立場であるべきだ。
実際にそれは無理だろうが、そのくらいの気位でいないとならない。
そう思っていても、あくまで自分の家はマルフォイ家に口出しできるような家ではない。
だから、先輩たちはドラコの行動を咎めはしないものの、味方もしなかった。

その一方で、文句を言いながらもドラコを心配している人間もいる。
なまえはその人間、ザビニをちらと見た。
しかし、口は開かない。
後ろのリドルがなまえにしか聞こえない声で、そこテストに出そう、とか、そこ勘違いしそうなところだよ、とか口にしているのを必死にメモしているからだ。

なまえはドラコのことが心配でないわけではないが、きっと何を言っても無駄だろうと諦めている。
だから、話を聞くのも何かの片手間だった。
今の今までは。

「お父様のことだと思うけど…結構重大な任務任されたみたい」
「…そうなの?」

なまえはようやく本から目線をノットに移した。
彼はコーヒーのは言ったティーカップを傾けて、一つ頷いてみせた
そしてさらに声を潜めて、3年前の失態を取り戻さないといけないらしいからね、と付け加えた。
なまえは3年前の失態の意味がいまいちわかっていなかったため、小首をかしげるばかりだった。
ノットもそれは同じようで、首を傾げていた。

『3年前の失態っていうのは、僕のことだろうね』

3年前の失態を理解しているのはリドルだけのようだった。
なまえは振り返ってリドルのほうを見たかったが、ノットがこちらを見ている今、それはできない。

ノットはなまえが何か知っているのではないか、と思っているらしい。
じっとなまえの目を覗きこんでいたが、やがてザビニに止められた。

「関係がないとは言い切れねーけど、心配してても俺らができることなんてそうないだろ」
「それはそうだね」
「声はかけてみるけどな…アイツ馬鹿みたいにプライドばっかり高いからなあ」

ザビニは乱暴に頭を掻いてそう言った。
いつものことだが、ドラコとザビニはそう仲がいいわけではない。
ドラコが純粋な貴族であるとすると、ザビニは成金。
ドラコとノットのように家同士の親しみが一切ないのだ。

しかし、ザビニはドラコの扱いに慣れていた。
恐らくそれは、閉鎖的な貴族世界ではなく、多くの人と触れ合う機会があった成金貴族ならではのことだ。
ザビニの母は、人を伝ってここまで伸上がってきた。
その血が間違いなくザビニにも流れており、彼もまた、人とうまく付き合ったり使ったりすることが上手だ。

「まーなるようにしかならねえよ。心配するのはいいけどさ」
「まあ…そうだね」

なまえは一つ頷いた。
ドラコの行動は、あくまで彼自身が決めたことであり、なまえたちがどういっても聞かないことだろう。

ノットもザビニの言葉に頷き、こちらもできる限り様子を探ってみる、と言って席を立った。
ザビニはその様子をただ見守るだけだった。

「ああ見えて、セオが一番気にしてんだよな」
「そうなの?」
「もうスリザリンの純血有名どころって、マルフォイ家、ノット家、グリーングラス家、クラップ、ゴイルんとこくらいだからな。特にノット家は保守派で有名だから、純血の家の者が減るのが嫌なんだと」

ノット家はかなり昔から存在する格式高い純血家で、長らく医療関係の仕事に従事している。
仕事柄か、純血とマグルの差別感は少なく、兎に角研究熱心で穏やかな家である。
ただノットの祖父、セグラドール・ノットは歴代当主の中でも野心家で有名だ。

「セオの両親はその祖父の陰謀に殺されたようなもんだ」
「どういうこと?」
「アイツの両親は保守派も保守派。すげー穏やかだったらしい。うちの母ともなんか知らねーけど仲良くてさ。でも、あのクソジジイに死喰い人として例のあの人の元に連れて行かれたんだと。2人とも優しいもんだから、怪我した人助けまくって、あの人の逆鱗に触れたって噂」

ザビニの母とノットの両親との間に付き合いがあったことにも、なまえは驚いたが、それよりも話の内容のひどさに驚いた。
比較的に医者というのは、どこの世界でも共通して平等だ。
ピンキリではあるにしろ、そのようなイメージがある。

恐らくノットの両親は、誰に対しても医療は平等という考えの持ち主だったのだろう。
闇の陣営に飛び込んでなお、彼らは自らの意志を尊重し、行動した。
その結果、殺されることになるかもしれないとわかっていながら。

「セオは両親を尊敬してる。自分もああいう医者になるんだって聞いたよ」
「…そうなんだ」
「もう誰も死なせたくないんだと。ドラコも、なまえも、俺も死なせなくないって」
「それは、私も同じ」
「俺も」

まあ、身内で死人居ないけどな、とザビニははにかんで見せた。
なまえもまだ、幸いなことに身内で死者は出ていない。
だが、いつ出てもおかしくないことはわかっていた。

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