なまえはコンパートメントに1人座っていた。
外の景色を眺めつつ、手の中の本を読み進める。
「…なんだ、ムーランか。どけよ」
そこにノックも無しに入ってきたのはドラコ・マルフォイだった。
去年と違って英語が分かるなまえは自分がいかに酷い名前で呼ばれているのか理解した。
まさか差別用語で呼ばれているとは。
なまえの背後にいる、人に見えない姿のリドルは眉根をしかめていた。
「いやよ」
「ああ?」
「そこ、座れば良いじゃない。私が居ても3人は座れる」
今まで何も言わなかったなまえが突然話したのでドラコは驚いたようだ。
取り巻きの二人も何も言わないが目を見開いていた。
なまえはそれだけいうとまた本に目を戻した。
そのなまえの隣にドラコが座った。
外は雨が降りしきっていた。
ドラコがたまに取り巻きの2人と話す以外は雨の音しかしない。
最初に異変に気づいたのはリドルだった。
『なまえ、スピードを落としてるよ』
「…?ああ、本当だ」
「なにがだ?」
「列車。止まろうとしてる」
リドルが不審そうに外を見る。
ざあざあと降りしきる雨、止まりいく列車、外でうごめく何か。
隣のドラコも不穏な様子に戸惑っているようだ。
不安そうに辺りを見渡す。
刹那、電気が消える。
「うわぁあ!」
『なまえ、注意して。何か居る。杖出して』
「うん」
なまえはいわれたとおりにローブから杖を出す。
コンパートメントの扉の前まで移動し、辺りを警戒しながら廊下を睨む。
廊下にはずるずると何かが這っているような音。
ドラコは今までなまえが居たところまで下がっていた。
それをリドルが呆れたように見る。
しかしそれは一瞬で、すぐに扉に向き直る。
廊下をすべるように進むそれが、一瞬こちらを見たように思えた。
『来るよ、構えて』
「エクスペクトパトローナム」
扉が開けられたと同時になまえが守護霊の呪文をとなる。
が、2匹同時に相手をすることができず一匹がなまえの後ろに進む。
なまえは面倒くさそうに守護霊をコンパートメント内に蔓延らせる。
もう一匹もその場から立ち去る。
その後ぱちん、と電気がついた。
それ確認してから、守護霊を消す。
なまえは居た場所に戻ろうと窓際の席を見ると、硬直したドラコが泣きそうな顔で座っていた。
「…邪魔」
「ぅうわあああ!」
「!?」
どいてもらおうと声をかけると突然飛び上がり、叫んで隣のコンパートメントまで走っていってしまった。
これ幸いとなまえは元座っていた場所に座りなおし、読みかけの本をもう一度開いた。
それを見たドラコの取り巻き二人はドラコの後を追ってコンパートメントを出て行った。
最初の状態と同じ静かな空間になったことになまえはご機嫌になった。
数ページ読み進めたところで、また誰かが来たようだ。
今度はノックをしている。
「大丈夫だったかい?」
「はい」
「君は1人?」
「今は」
扉を開けるとそこにはみすぼらしい男が立っていた。
男は心配そうになまえの顔を見る。
なまえはけろっとしているため、男も安心したのかすぐにいなくなった。
その代わりにドラコが入れ違いで現れる。
顔色が優れないことに男も気づいたらしく、彼に何かを持たせていた。
「さっきとあれはなんだったんだ…!」
「分からないよ…」
ドラコと取り巻きがそんな話をしている中、なまえは1人静かに本を読んでいる。
余裕ぶっているように見えたのだろう、ドラコがなまえに話しかける。
「おい、さっきの蛇は何だ」
「…守護霊の呪文」
「守護霊の呪文?何だそれ」
なまえは簡潔に述べる。
しかしそれでは分からないとドラコは更に問う。
「自分を守ってくれてる守護霊を具現化する呪文」
これまた簡潔に述べたランにドラコはつまらなそうに目を逸らした。
電車は今度こそ駅に着き、止まる。
なまえはそれを確認してのろのろと準備を始める。
ドラコたちは先に行った。
なまえは最後に電車を降り、ゆっくりと駅のホームを出た。