95.薄暗い聖夜前
どんどんと外は静かになっていく。
雪が深く積もっていて、寮の外に出るのが辛い季節だ。

「よっし、これで大体の防衛術はできるな」

ザビニがチェックシートにチェックを入れて、満足気に眺めた。
そのチェックシートは上級生に作ってもらったもので、それらの防衛術ができれば自分の身くらいは守れるだろうという話だ。
ザビニ、セオドール、なまえはそれらをすべて習得することを目標としていた。
そして、初めて数か月でそれらすべてを終わらせた。

もともと、ザビニやセオドールは実家が英才教育を施してくれていたし、なまえもノクターンで暮らすうえでリドルから教わっていた。
そのため、学年の中では最も早くすべてを取得した。

「さて、これからどうするか」
「僕は癒学系に特化する。どうせ将来癒学系に従事することになるからちょうどいい」
「あー、そりゃいいな。なまえは?」
「特に考えてないけど…守りの魔法を主にやっていきたい」
「考えてんじゃねーかよ」

セオドールは実家が癒師学会の重鎮を輩出する家なので、ここからは薬学や癒学を学んでいく予定らしい。
なまえは夏休みの事態を思い出して、人狼街に大きな結界が張れたらいいと思っていたから適当に答えた。

ケッとつまらなそうに吐き捨てたザビニはテーブルの上にチェックシートを乱暴に置いた。
セオドールはその様子をただ静かに見守るだけだ。

「将来が決まってるやつはいいよなあ…」
「自分で決められないけどね」
「まあ、そうか。俺は選べるだけまし…か?」
「さあ」

セオドールは進路がしっかりと決まっている、決められている。
敷かれたレールを走るほかない。
彼はそれを幼少期から受け入れて過ごしている。
それに関して悩んだことがあるのかもしれないが、それを見せることはない。
ザビニも微妙な空気を読んだのか、この話はすぐに打ち切られ、OWLの出題予想の話になった。

なまえはその流れをすべて見ていたが、口を挟む暇はなかった。
相変わらずリドルはピアスの中に閉じこもったまま。
ピアスの中に閉じこもられると、彼が本当にそこにいるのかわからなくて、時々ぞっとすることがある。

リドルの魔力は今や、なまえの魔力とほぼ同質のものとなっている。
昔はヴォルデモートの魔力が残っていたように思えたが、夏に現在のヴォルデモートと対面し、そう感じた。
リドルの中の魔力は、目の前の彼の未来とは全く違うものになっていた。
きっと、長く共にあったから混ざってしまったのだろう。

なまえの魔力と同質のものとなってしまったため、なまえの中に紛れてしまうことも危惧される。
記憶という曖昧なものが魔力を持っただけの存在であるリドルは、消えるにたやすい。
なまえの知らないうちに、彼が消えてしまったら。
それを考えると、背中に冷たいナイフを当てられたような、腹の底から湧き上がるような恐怖を感じる、今も。

「そういえばお前ら大丈夫なのか?」
「何が」
「ドラコが調子に乗ってる時って、大抵現実逃避したい時だろ。なんかあったんじゃないかと思ってさ」

なまえが何も言わないまま、話はいろんなところに二転三転した。
OWLの話からクリスマスの予定、アンブリッジの様子、…そこからドラコがやたらにアンブリッジに媚を売っているということ。
ザビニは今、ドラコの話を始めていた。

ドラコの名前が上がって、なまえの意識はようやく浮上した。
ぼんやりと内容の入ってこない教科書の文字の羅列を眺めつつ、考えに耽っていたがドラコの話題には興味があった。
確かに今日の彼の調子者っぷりは異常である。

ザビニは人を見る目が確かだ。
確かにドラコが調子乗って居る時は、何かがうまくいっていないときだ。
冷静さを欠きそれを取り戻せずに、漠然とした不安の雲を無茶苦茶に払おうとしているような。
それが今起こっていることが気になるらしい。

「…変なところで勘がいい」
「まあな」
「ドラコの父親、例のあの人の配下だからいろいろやらされてるらしい…ちなみに、僕の家もだけど」
「…お前もかよ」
「僕はあまり父が好きではないから、いいけど。あの人強くないから、心配ではある。歳だし」

セオドールが話した内容は、なかなか有意義なものである。
夏に配下を集めていたヴォルデモートが、水面下で活発に動いているらしい。
スリザリン寮内の子の親も、それに振り回されているのだとか。
親が何も言わずとも、子どもはすぐに気付く。

死喰い人はヴォルデモートが復活してから集まり続けている。
忠誠心からか恐怖心からかはすぐに分かる…9割方後者だ。
その恐怖心は親から子に伝染し、スリザリン寮内は異様な雰囲気になりつつある。

セオドールも淡々としているものの、内心はどう思っているのかわからない。
ただ、不安でないわけがない。

「今年のクリスマスは凄惨だな」
「それどころじゃないだろう」

温かいクリスマスなど期待できないだろう。
あったとしてもきっとギクシャクとしたものであるに違いない。

スリザリンのみならず、一般家庭でもドラコのように努めて明るくしようという考えが根底に生まれ始めるだろう。
なにやら不穏な世間だけれど、家の中だけは明るくしようという大人の試み。
しかしそれは、外の闇を心のどこかで受け入れているということの裏付けに他ならない。

クリスマスという近い未来にすら闇がはびこる時代になってしまった。
いくら魔法省が情報操作をしても、そればかりはどうにもならない。
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