93.腐食していく
部屋にはパンジーはおらず、なまえ1人だけだった。
自分のベッドに座って、カーテンを閉め、防音魔法をかけた。

「リドル、どう思う?」
「どうもこうもないよ。ポッターがああいうことをやるってことは予測できることだ。僕らができるんだから、アンブリッジができないわけがない。告発しようがしまいが、ばれるのは時間の問題だろうね」

リドルはベッドに座ったなまえの前に立っていた。
心なしか、不機嫌そうな様子だ。
不機嫌そうなのは今に這い舞ったことではない、今日、セドリックにあってからずっとだ。
なぜ不機嫌なのか、なまえにはわからない。
だからそれを探るためにも、こうしてリドルと2人きりになったのだ。

「ヴォルデモートはどうしているかしら」
「さあね…僕なら、魔法省に味方を作って動く。きっと誰も信頼していないんだから、誰でもいいから兵糧を増やすことに熱心になってるんじゃない?」
「なるほどね。ハグリットがいないこともそれに繋がりそう」

年度初めから姿を見ない、ハグリット。
彼はおそらくダンブルドアの指示で何かしているのだろう。
彼は半巨人であるという噂があるから、巨人の説得係りになっているのかもしれない。
それか、その他の魔法生物…森のケンタウロスたちとか。

そこまで考えて、なまえはノクターンの人狼街が心配になった。
夏に一度ヴォルデモートが現れた場所だ。
彼はどんなものであろうと、自分の駒にしようとしている。
リドルの考えていることは間違っていないように思った。
考えがまとまって、ふとリドルのほうを見たが彼はやはり不機嫌そうだった。

「なまえ、僕の意見を聞かなくても、もうわかっているんじゃない?」
「…なんで?」

リドルは苛立ったようにそういった。
端正な眉を寄せて、苦しそうに吐き捨てるように。
なまえは突然のことに驚いて、目を丸くすることしかできなかった。
その険悪な雰囲気に、声は震える。

「なまえは優秀になった。自分で考えて、動くことだってできる。大抵の魔法は勉強すればすぐできるようになる…もともとの才能もあるからね」
「でも、リドルがいないと」
「僕がいないと困ることって、ある?」

なまえは言葉に詰まってしまった。
リドルの言葉にすぐ返事ができなかった、ある、と断言することができなかった。
なまえにとってリドルは、いてくれることが当たり前で、必要だとか不必要だとかそういう括りで考えたことはなかった。
言葉に詰まったなまえに、リドルは更に苛立ったようで姿を消してしまった。
いつもなら、2人きりのときは目に見える形でいてくれるのに、完全に姿を消してしまった。
ピアスの中にいるのだろうことはわかるが、突然のことになまえは途方に暮れた。
なまえはその後何度かリドルに問いかけたが、リドルは何の反応もしなかった。

夕食の時間が近づいても出てこないなまえを心配したパンジーによって、ベッドのカーテンが開けられるまで、彼女はリドルを呼び続けていた。



リドルは、自分が呼ばれていることに気付いていた。
聞こえているし、なまえが戸惑ってパニックになっているのもわかっていた。
わかっていて、わざと何も言わずに引きこもった。

自分が最低なことも、彼はよくわかっていた。
偏に、リドルが不機嫌になっていたのは嫉妬と不安だった。
なまえは優秀な少女に成長した。
彼女はもともと頭がよく、要領もそう悪くはない。
呑み込みも早く、やらせればなんでもできた。
その点まで、リドルにそっくりだった。

だからこそ、本当は、なまえは誰も必要としないのではないかと思ったのだ。
自分がそうであった、教師と本から学べば大抵のことはできた。
状況判断は大抵一人でできたし、大切なことを決めるのも、自分で考えて行動するのも得意だった。

セドリックがなまえの傍にいるのは、彼がなまえを好きだから。
なまえがセドリックを傍に置いているのは、ただ単に使えるからなのではないかと最近思うようになった。
無論、なまえがそう思っているわけではないだろう。
彼女は優しい子だし、そんなことは考えていないはずだ。
だが、きっと根底ではそのような考えがある。

なまえがセドリックを最優先にすることは、ない。
去年の一件があるが、あれは受け取り方を変えれば彼女が新しい呪文に挑戦するきっかけになったに過ぎない。
穏便に平和に競技を終わらせることに力を注いだに過ぎないとも取れる。
そんな受け取り方は、捻くれた自分しかしないだろうとリドルは思っている。
でも、そのように取れないこともない。

なまえはセドリックから勉強や魔法省の情報を得ている。
もし、セドリックがその情報を、勉強をなまえに流さなくなったら、どうなるのか。
付き合いを続けるだろうか、この関係が続くだろうか。
どうしても、リドルには付き合いが続くとは思えなかった。
付き合うメリットがないなら、一緒にいてもしょうがない。
そう考えるのではないだろうかと思っている。

それなら、僕はどうなる?
教えるべきことは殆ど教えてしまった。
禁書の内容も、必要そうなものは教えた。
リドルには、本物の身体もなく、なまえと社会的に一緒になることはできない。
なまえを完全に守ることなんてできない。

セドリックなら、なまえをノクターンから救い出して、あの優しそうな家庭に引き入れることができる。
リドルにはできないことが、セドリックにはできる。
それがとても憎たらしくて、それ以上に何の力もない自分が苛立たしくて。
僕が消えてしまいたい、なまえを壊してしまいたいと思うくらいに、リドルはドロドロとした嫉妬に狂っていた。

あくまで、これらはすべてリドルの予想であり、なまえの口からきいた事実はほぼない。
しかし、リドルは何でも自分の考えが正しいと思う節がある。
今までの経験上、自分の考えが外れたことがないからだ。
ただし、自分の考えが外れないのは、彼がそれ以外の答えを聞かないから、という場合もあることを、リドルは知らない。
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