92.報告会
スリザリンに向かうまでの廊下はやたらに寒い。
地下だからというのが有力な説だ。

「じゃあここでね。また誘うよ」
「はい、ぜひ」
『誘われなきゃ遊びになんて行かないから、その意味ではセドリックの存在は重要だな』

寮の前まで送ってくれたセドリックは少し寂しそうにそういった。
なまえは微笑んで、誘ってくれたことへの感謝を最後に告げてから寮の絵画に目を向けた。

その後ろで、リドルはセドリックの背中を見ながらそう言った。
その声は苛立ちと諦めが混ざったようなものだ。
セドリックは誘うことも躊躇ってしまっていたようだが、リドルとしては誘ってくれた方がいいと思っていた。
でなきゃなまえは年相応の遊びや感情になんて興味を示さない。
それはそれでいいと思う人もいるだろう…本人はその人に分類される…、だが一般的にみれば、それは異常なことだ。

本来ならば、遊びと勉強を天秤にかけたときの結果は遊びであるべきである。
15歳なんてそんなものだ…まあ自分はそうではなかったが…そうであるべきだと思う。

それがなまえは勉強、というよりも生きていくうえで必要な力をつけることに重きを置いてしまっている。
それは当然といえば当然である、彼女のように身寄りもなく後ろ盾もない15歳はそれくらい必死になることもある。
だが、最近はきちんとした生活もできるし、守ってくれる人もできた。
それだというのに、どこまでもなまえは力を得ることに重きを置く。
恐らくは怖いのだろう、ようやく得たものを失ってしまうことが。

気持ちはわかるから、リドルは強くいえない。
だから、ああやって事情を知らない人間に無理やり引っ張ってでも遊ばせるのが現状における最善手であると思う。
しかし、その相手が彼氏であるセドリックだという事実がリドルのなかで引っかかっていた。
この感情に名前を付けるのは簡単だ、だが、それをしてしまえば今まで通りではいられないこともまた簡単に分かる。

「リドル、平気?」
『…大丈夫だよ』
「またあとで話を聞くからね」
『わかったよ』

考え込んでいるリドルに気付いたなまえが、振り返って彼を仰ぎ見た。
リドルは考えるのをやめて、なまえに向き合う。
相変わらずの無愛想ではあるが、昔と比べて柔らかな雰囲気になった。
無表情ではなく、薄らではあるものの表情が出てきている。

毎年毎年、年に何度かはこうしてなまえの成長をひしと感じるときがあって、そのたびにリドルは複雑な気持ちになるのだ。


談話室を見渡すと、ザビニが軽く手を上げた。
どうやらここに来いということらしい。
なまえは素直に、ザビニのもとに向かった。
ザビニの隣にはノットも座っていて、彼はチェス盤を1人睨んでいた。

「これ、頼まれてたやつ」
「おーサンキュ」
「1つ品切れしちゃってたから、他のを少し多めに買ってきた」

ザビニはなまえから手提げ袋を受け取って、中身を確認した。
品切れしていたものに関しては特に興味を示さず、別にいいよ、といった。

ノットがチェス盤から眼を離さないまま、杖を振る。
すると、なまえの前にティーセットが並んだ。
彼はこうしたズボラな一面がある…これだけのために無声呪文を練習したらしい。
変なところで努力家ともいえる。

「で、なんかあったか?」
「…なんでわかったの?」

袋から適当に取り出したお菓子を開けながら、ザビニはなまえに問いかけた。
なまえは少し驚いたように、飲もうと思い手にしたティーカップをソーサーに戻した。
話をするのにティーカップはいらないという判断の元である。

ザビニは、何かあったんだな?とニヤニヤしながら続けて聞いた。
なまえが今日見たポッターたちの集会の話をすると、ザビニは呆れた様な顔をした。

「何?」
「いやお前そうじゃないだろ…まあ、その話も面白いけど」
「ドラコは喜びそうな話だけど、ザビニは喜ばない話だ」
「ザビニはどんな話なら喜ぶの」
「…もういいや。その話もかなり有意義だったしな」

ティーカップを改めて持ち、口元に近づけたなまえは怪訝そうにザビニを見た。
ザビニは呆れた顔をしていたが、若干憐れみの色が見えた。
誰に対しての憐れみなのか、なまえにはわかっていない。
なまえにだけ、わかっていない。
ノットは話を理解しながらも、答える気はないようだった。

確かになまえの話も有意義だ。
ポッターが集会を開いていたと聞けば、ドラコは喜び勇んでその集会の尻尾を掴もうとすることだろう。
それがいいことなのか悪いことなのかは微妙なラインだが、アンブリッジに気に入られることは確かだ。

「グリフィンドールも考えてることは同じ、か」
「うん。ただ、彼らは相当無謀なやり方してるかな」
「はー、あいつらそれなりに頭はいいのに馬鹿だよなあ…マジで石頭」

グリフィンドール生はよく、スリザリンはグリフィンドールを馬鹿にしているという。
実際には、それは半分あたりで半分は外れだ。
スリザリン生の大半は、グリフィンドール生の実力を認めている。
確かに力はあるし、やればできる性質であると理解している。
しかし、やらなければその力は無意味だし、やるにしてもやり方がヘタクソで、要領が悪い。
その点に関して、スリザリン生はグリフィンドール生を馬鹿だというのである。

スリザリン生は手段を選ばないというが、実際にはいくらかある手段のうちから択んでいる。
手段を選ばないというのは合理的にやるという意味であって、それ以外の手段が見つからないというわけではない。
だからこそ、グリフィンドールの手段が1つ見つかったらそれしか見えない、という状態が理解できない。
スリザリン生は基本的に手段が1つ見つかったら、他にもあるはずだと考えるスタンスだ。

「どうすっかなあ…告発するのもアリだけど、アンブリッジを泳がせておいてメリットがあるかどうか…」
「アンブリッジを泳がせておけば、例のあの人は動きやすくなる。そうでなくても、あの人は勝手に動いているだろう」
「…やろうとやるまいとそんなに関係ないか」
「グリフィンドールが力をつけるか、否かってことも、忘れず」

どちらにしても、スリザリンにはあまり関係がなさそうだった。
あえて言うなら、告発すればさらにルールが増えるだけ。
少し話し合ったが、面倒なので黙っていることにした。
ドラコに伝えれば、嬉々として彼らを追い回すことだろう。
しかし、彼にはそれ以上にやってほしいことがある、勉強会への参加がおろそかになっては困る。

それだけ決めると、なまえは着替えるために部屋に戻った。


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