夏の約束
エアコンが本気を出した。
涼しすぎて動きたくない。
しかし、太陽は動いて外は夕焼けになりかけていた。

「はあ、そろそろお暇しようかな」
「そうですね、遅くなると危ないですから」
「遅くなると黒子ママにお夕飯誘われちゃいそう」
「…それ、ありえます」

黒子ママはなんだか私を気に入っていて、遊んでいるとしょっちゅう顔を出してはお菓子をつまんで帰っていった。
そのたびに黒子はプンプン怒っていたが、寧ろ何だか可愛かった。

黒子ママはあと30分もすればまたやってきて、お夕飯食べていかない?なんて聞いてきそうだ。
そしてそれをゴリ押ししてきそうな感じ。
ぜひ!といってしまいたいが、言えばうちの母がキレるだろう。

「今日は楽しかったよ、黒子。突然押しかけてごめんね」
「いいえ、僕も楽しかったです」
「お菓子はあげる。バスケ部で食べて」

お菓子は結構余ってしまった。
というのも、途中から黒子ママがクッキーを差し入れてくれたりしてくれたからだ。
まあ、食べ盛りの少年たちがたくさんいるバスケ部ならすぐに消費してくれることだろう。
黒子はすんなりと受け取ってくれた。

「また遊ぼうよ」
「名前さんさん、暇そうですしね」
「ん?」
「あ」

部屋を出て、階段を下りる最中。
黒子はちょっと驚いたように、口に手を当てた。
私はちょっと嬉しかった。

「そのままでいいよ、私も黒子のこと名前で呼ぶから」
「…そうですか?」
「うん。そっちのが仲よさそうな感じ!」

たびたび部屋を訪れてはお話をしていた黒子ママは私のことを名前さんちゃんと呼んでいた。
おそらく黒子にもそれが移ってしまったのだろう。
名前呼びのほうが、距離が縮まったみたいで嬉しい。
ちょっと気恥ずかしいような気もするけど、それはきっと黒子も一緒だろう。

「今度は、もっと夏らしいことをしませんか」
「夏らしいこと?」
「はい。どうせ名前さんさんのことですから予定がないと外になんて出ないでしょう?」
「…失礼な。その通りだけどさ」

黒子は少し頬が赤いまま、そういった。
階段を下り終え、玄関へ。
黒子ママは夕飯の準備をしているのだろう、リズミカルな包丁の音だけがする。

まあ、予定がないと私は引きこもりっぱなしだろう。
遊びに行ってくれるような友達はいない。

「海に行きませんか、自転車で」
「海?」
「この辺りの海は遊泳できませんけど…僕は泳ぎがうまくないので。サイクリングです」
「なるほど…それはいい運動になりそう」

ここから自転車で行ける距離の海は、あまり綺麗ではない。
その上遊泳は禁止されていて、遊びに行くには正直向いていない。
そして、自転車でも1時間弱かかる。
運動部の黒子はいいが、私にはちょっと辛い気がする。
いい運動にはなるが、次の日の筋肉痛が怖い。

「それに、課題のポスターが捗ります。それから河川の写真の課題も消化できます」
「なるほど!」

なるほど、考えられていたようだ。
夏休みの課題で最も面倒といっていい、美化ポスターと自由研究、両方を終わらせることができる。
蛇足だが、自由研究はいくつかの課題から選択できる。
その中で最も楽な課題が河川の写真コンクールである、大抵の生徒はこれを行う。

海に向かう道に、大きな川がある。
その他にも小さな川もあり、そこは足を付けることもできる。
様々な川の写真が撮れることだろう。

「8月12日から部活休みなんです。うちのお盆は旧盆なのでその辺は暇です」
「うちのお盆は15日くらいからでちょっと遅いから、12か13,14のどこかかな」
「では、13でどうですか?」
「OK!」

黒子家の前で、そんな口約束をした。
私は忘れないように、13日サイクリング、と口ずさむ。
こうして私の真っ白な夏休みのスケジュールに、少しだけ色がついたのである。



(…で、なんでテツヤついてきてるの?ストーカー?)(…違います。送っていきますよ)(え、なにそれ紳士)(ごちゃごちゃ言わずに行きますよ)(そうだね、遅くなったらテツヤが襲われちゃう)(…失礼な)
prev next bkm
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -