目の前に並べられた数多くのお菓子と飲み物。
私はその中でも異質な色をしている飲料の入ったペットボトルを手に取った。
「…それから行くんですか」
「一度、地に落ちればそれ以下はないと思わない?」
「まあ、そうかもしれません。心が楽になるかもしれませんね」
新作のペットボトルの中で、最も気になり、そして最も手を出したくない商品。
まさかの、緑茶コーラ。
まさに黒と緑を混ぜましたみたいな色をしている。
光に透かすと、若干の緑。
見た目はそんな感じ。
次に匂い。
とりあえず、キャップを開ける。
「ん、あれ?」
「貸してください」
「おお、さすが男子!」
「はい、開きました。…どうします?」
開けようと思ったら開かなかった。
なんか力ない女子みたいな感じで気持ち悪かった、今度握力鍛えよう。
さて、黒子から手渡された、蓋のあいた緑茶コーラ。
とりあえず匂い確認。
確認方法は理科で習った通り、手で仰いで嗅ぐ。
「匂いは、コーラ」
「逆に怖いですね」
匂いは普通のコーラだった。
特にお茶の匂いがするわけでも、それ以外の怪しげな匂いがするわけでもない。
…お茶の匂いってそんなに強くないような。
まあいい、こうなったら実食だ。…実飲だ、かな?
「というわけで、行こうか。黒子」
「僕ですか」
「うん。私、匂い嗅いだし」
持っていたペットボトルを黒子に押し付ける。
キャップが開いたままなので、乱暴に押し付けられるペットボトルを黒子は慌てて受け取った。
ペットボトルが手から離れるやいなや、私は手を背中のほうに引っ込めた。
恨みがましそうに、黒子が私を見た。
いや、私は責務を果たしました。
黒子は諦めたように、キャップのない飲み口を睨んだ。
睨んでも何も変わらない。
とうとう彼の薄い唇がキャップをとらえる。
こくり、と喉が動く。
「どう?」
「…想像していたよりはましです」
黒子はそういって、ペットボトルをローテーブルに置いた。
すぐに麦茶を飲みださなかったところからも、彼の言葉に偽りはないらしい。
私はローテーブルに置かれたペットボトルを手に取った。
とりあえず、一口。
しゅわっとした飲み心地、コーラの味。
確かに想像していたよりは普通。
「なんか、普通だね」
「ですね」
「後味がちょっと草っぽいだけ」
「ですね」
黒子は私が飲んでいるのをじっと見ていた。
私が黒子のほうを見ると、パッと目が合う。
気まずくてペットボトルに視線を移した、黒いコーラ越しに黒子が見える。
2人でペットボトルを見つめて、顔を見合わせて。
「っふ…、あはは!あーもうなに、拍子抜け!」
「ふふ…そうですね」
私たちは何をそんなに恐れていたんだろう。
なんだかおかしくて、声を上がって笑っていたら黒子ママがやってきて、ママも一緒に遊びたい!と言い出したので、黒子が真顔で拒否していたのもおかしかった。
(黒子ママ、面白い人だね)(はい…僕は父に似ているので理解できません)(まあまあ、見ていて楽しい家族だよ)(それ、褒めてます?)